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10.2度目のお泊まり会
b.
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部屋の電気を消し2人で1つのベッドに横になった時には、緊張も何も感じなくなっていた。
「眠いー」
しかし、香枝がそう言って真春の体を抱き枕のように腕と足で抱え込んだ瞬間、酔いが完全に覚めた。
予想外すぎる展開に、鼓動が速くなりすぎて吐きそうになる。
きっと香枝はひどく酔っ払っているに違いない。
「真春さん」
「ひ、へっ?!」
「真春さーん…」
香枝は真春の首元に頭を預けて「へへっ」と笑った。
「おやすみ」
おやすみと返したいところだったが、声が出なかった。
しばらくするとスースーと寝息が聞こえ始めたので、きっと朝起きてももう何も覚えていないだろう。
頭に響く鼓動が激しさを増し、胸がギューっと締め付けられる。
しばらくそのまま動くことができなかった。
胸が苦しくて、神経という神経が興奮して、体から火が出そうなくらい熱い。
どれくらいの時間が過ぎたか分からない頃、真春は香枝の腕と足を優しく振りほどき、香枝に背を向けて目を閉じた。
目が覚めた時にはもうお昼近くになっていた。
隣にはスヤスヤ眠る香枝。
黒目がちな可愛らしい目。
筋が通った高い鼻。
小さくて口角のキュッと上がった口。
いつも楽しそうにはしゃぐ姿…。
誰にでも優しくて、すごく気が利く。
本当に可愛いし、本当にいい子。
その優しさや愛嬌はいつもみんなに平等に向けられていて、きっと真春もそのうちの1人に過ぎない。
しかし、自意識過剰かもしれないが、もしかしたらみんなよりは頭ひとつ分くらいは出ているかもしれない。
そうだといいと思う気持ちの裏で、もっと特別な何かを求めてしまう。
「んー…」
香枝がゆっくり目を開けた。
「おはようございます…」
「おはよ」
「眠い…だめだぁ…」
香枝はそう言ってまた寝始めた。
真春は香枝の顔を見ることができなかった。
「まだ寝てていいよ。コーヒー淹れてくるね」
足早に部屋を出てリビングに向かい、コーヒーを準備する。
お湯が沸くまで昨日の出来事を思い出していると、また心臓がボコンボコンと暴れ出した。
酔っ払い過ぎていて、細かいところはぼやんとしか覚えていない。
しかし、眠りにつく直前のことはしっかりと覚えている。
香枝は覚えているのだろうか。
抱き締められてあんなにドキドキしたのは初めてかもしれない。
恭介にすら、あそこまでドキドキしたことなどない。
そう考えると自分は最低な女だ。
そして、妄想は飽きるほどするくせに、嘘でもいざ抱き締められると何もできずにフリーズしてしまう。
そうされて、その先に何を求めているのか、自分でも分からない。
部屋に戻り、テーブルにマグカップとスティックシュガー3つ、ミルク1つを置く。
ついでにカウンターにあったラスクも持って来た。
「あ!コーヒーだあ!ちゃんとお砂糖とミルクもあるー」
コーヒーの匂いで香枝が目を覚まし、ベッドからのそのそと降りてきた。
砂糖とミルクを入れてかき混ぜ、ゆっくりと息を吹きかける香枝。
「あちっ。でもおいしー」
寝起きの香枝は「なんかちょっと二日酔いかも」とまだ少し眠そうな声で言った。
「あたしもこの間よりは具合悪いかも。結構飲んだしね」
「最後の方、眠すぎて色々とぼやけてました。あんな風になったの久しぶりです」
これは、覚えていないと解釈していいのだろうか…。
覚えていてほしいような、そうでないような、複雑な心境だ。
「あたし、大丈夫でした?変なこと言ってませんでした?」
「うん…言ってないよ」
真春は優しく笑って答えた。
覚えていないならそれでいいか。
中途半端な出来事に感情を左右されていたら、身がもたない。
偶然だったことにしよう。
しばらくした頃、2人はまたオセロを始めた。
香枝はどうやらこの間オセロをした時からハマってしまったらしい。
「また負けたー!真春さん強すぎ!もーやだ!」
香枝がブツブツ文句を言いながら石を回収する。
5戦行い、香枝が勝ったのはたったの1回だ。
「次来る時はもっと強くなってきますから!」
「お、強気だねー」
「あー、バカにしてるでしょ」
「うーん…してる」
「もうっ!」
香枝が真春の左腕を軽く叩く。
触れられるだけで、胸が高鳴る。
もう、どうしようもない病気だ。
「よしっ、今日はもうお開きにしますか」
「そうですね。また長居しちゃってすみません」
「全然いいよ。また来て」
「はい」
荷物をまとめた香枝に、ダッフルコートを渡す。
ほんのり優しい香りがした。
玄関を出ると、雲ひとつない青空が広がっていて、今日は快晴なのだと気付く。
また2人で並んで歩く。
日に日に寒さが増していっている気がする。
通り過ぎた畑の端に生えている草木はもう黄色く枯れていた。
冬の日差しに照らされたアスファルトが、穏やかに見える。
静かな冬が、やってきている。
「あ!飛行機!」
香枝が突然、空を指差して言った。
「ほんとだー」
地面を見ていた真春も空を見上げる。
薄い水色の空に小さく見える白い粒。
ゆっくりに見えるけど、実際はすごく速いからなんだか不思議だ。
「いいな、飛行機。あたしも乗りたいなー」
「香枝、飛行機好きなの?」
「小さい頃、キャビンアテンダントになりたかったんです」
そう言った香枝は少し恥ずかしそうだった。
「そうなんだ。でも身長で諦めた?」
「正解です」
香枝は「なんかむかつく」と下唇を出してふてくされた。
その横顔を見て、幸せを感じた。
そんな11月の終わり。
「眠いー」
しかし、香枝がそう言って真春の体を抱き枕のように腕と足で抱え込んだ瞬間、酔いが完全に覚めた。
予想外すぎる展開に、鼓動が速くなりすぎて吐きそうになる。
きっと香枝はひどく酔っ払っているに違いない。
「真春さん」
「ひ、へっ?!」
「真春さーん…」
香枝は真春の首元に頭を預けて「へへっ」と笑った。
「おやすみ」
おやすみと返したいところだったが、声が出なかった。
しばらくするとスースーと寝息が聞こえ始めたので、きっと朝起きてももう何も覚えていないだろう。
頭に響く鼓動が激しさを増し、胸がギューっと締め付けられる。
しばらくそのまま動くことができなかった。
胸が苦しくて、神経という神経が興奮して、体から火が出そうなくらい熱い。
どれくらいの時間が過ぎたか分からない頃、真春は香枝の腕と足を優しく振りほどき、香枝に背を向けて目を閉じた。
目が覚めた時にはもうお昼近くになっていた。
隣にはスヤスヤ眠る香枝。
黒目がちな可愛らしい目。
筋が通った高い鼻。
小さくて口角のキュッと上がった口。
いつも楽しそうにはしゃぐ姿…。
誰にでも優しくて、すごく気が利く。
本当に可愛いし、本当にいい子。
その優しさや愛嬌はいつもみんなに平等に向けられていて、きっと真春もそのうちの1人に過ぎない。
しかし、自意識過剰かもしれないが、もしかしたらみんなよりは頭ひとつ分くらいは出ているかもしれない。
そうだといいと思う気持ちの裏で、もっと特別な何かを求めてしまう。
「んー…」
香枝がゆっくり目を開けた。
「おはようございます…」
「おはよ」
「眠い…だめだぁ…」
香枝はそう言ってまた寝始めた。
真春は香枝の顔を見ることができなかった。
「まだ寝てていいよ。コーヒー淹れてくるね」
足早に部屋を出てリビングに向かい、コーヒーを準備する。
お湯が沸くまで昨日の出来事を思い出していると、また心臓がボコンボコンと暴れ出した。
酔っ払い過ぎていて、細かいところはぼやんとしか覚えていない。
しかし、眠りにつく直前のことはしっかりと覚えている。
香枝は覚えているのだろうか。
抱き締められてあんなにドキドキしたのは初めてかもしれない。
恭介にすら、あそこまでドキドキしたことなどない。
そう考えると自分は最低な女だ。
そして、妄想は飽きるほどするくせに、嘘でもいざ抱き締められると何もできずにフリーズしてしまう。
そうされて、その先に何を求めているのか、自分でも分からない。
部屋に戻り、テーブルにマグカップとスティックシュガー3つ、ミルク1つを置く。
ついでにカウンターにあったラスクも持って来た。
「あ!コーヒーだあ!ちゃんとお砂糖とミルクもあるー」
コーヒーの匂いで香枝が目を覚まし、ベッドからのそのそと降りてきた。
砂糖とミルクを入れてかき混ぜ、ゆっくりと息を吹きかける香枝。
「あちっ。でもおいしー」
寝起きの香枝は「なんかちょっと二日酔いかも」とまだ少し眠そうな声で言った。
「あたしもこの間よりは具合悪いかも。結構飲んだしね」
「最後の方、眠すぎて色々とぼやけてました。あんな風になったの久しぶりです」
これは、覚えていないと解釈していいのだろうか…。
覚えていてほしいような、そうでないような、複雑な心境だ。
「あたし、大丈夫でした?変なこと言ってませんでした?」
「うん…言ってないよ」
真春は優しく笑って答えた。
覚えていないならそれでいいか。
中途半端な出来事に感情を左右されていたら、身がもたない。
偶然だったことにしよう。
しばらくした頃、2人はまたオセロを始めた。
香枝はどうやらこの間オセロをした時からハマってしまったらしい。
「また負けたー!真春さん強すぎ!もーやだ!」
香枝がブツブツ文句を言いながら石を回収する。
5戦行い、香枝が勝ったのはたったの1回だ。
「次来る時はもっと強くなってきますから!」
「お、強気だねー」
「あー、バカにしてるでしょ」
「うーん…してる」
「もうっ!」
香枝が真春の左腕を軽く叩く。
触れられるだけで、胸が高鳴る。
もう、どうしようもない病気だ。
「よしっ、今日はもうお開きにしますか」
「そうですね。また長居しちゃってすみません」
「全然いいよ。また来て」
「はい」
荷物をまとめた香枝に、ダッフルコートを渡す。
ほんのり優しい香りがした。
玄関を出ると、雲ひとつない青空が広がっていて、今日は快晴なのだと気付く。
また2人で並んで歩く。
日に日に寒さが増していっている気がする。
通り過ぎた畑の端に生えている草木はもう黄色く枯れていた。
冬の日差しに照らされたアスファルトが、穏やかに見える。
静かな冬が、やってきている。
「あ!飛行機!」
香枝が突然、空を指差して言った。
「ほんとだー」
地面を見ていた真春も空を見上げる。
薄い水色の空に小さく見える白い粒。
ゆっくりに見えるけど、実際はすごく速いからなんだか不思議だ。
「いいな、飛行機。あたしも乗りたいなー」
「香枝、飛行機好きなの?」
「小さい頃、キャビンアテンダントになりたかったんです」
そう言った香枝は少し恥ずかしそうだった。
「そうなんだ。でも身長で諦めた?」
「正解です」
香枝は「なんかむかつく」と下唇を出してふてくされた。
その横顔を見て、幸せを感じた。
そんな11月の終わり。
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