上 下
12 / 17

12 僕の心、人の気持ち

しおりを挟む





電話が鳴った時の僕は、すぐ出たいのを我慢して、バクバクと耳が変な圧を感じるくらい脈打つ心臓に何回か深呼吸を与えてから出た。

「もしもし」

『もしもし、顕彰だ。
 いま、着いた』

顕彰さんの声だ。
そして、その後ろに聞こえる音は同じ空港の同じフロアにいる事を示していた。

「あの、僕も空港に」
「みたいだな」

「え!?」

すぐ後ろに来ていた。

ビックリした。
ビックリしすぎて、息ができなかった。

なんか二人から言われたけど、どくどく言う脈の音?限界を超えた心臓のカウントがもう、どうにでもなれと告げていた。

「ニーナ?」
「ニーナ?」

「あ、あい、会いたかった」

ぶわっと、涙が溢れた。
もう、熱くて痛くて嬉しくて苦しくて、グチャグチャな自分なんてどうでも良くて、ただただ、この人に、この人たちに会いたかったんだと自覚した。
無意識に出た言葉が、その気持ちを更に強くした。

ぎゅぅっと体を硬くして、抱きつきたいのを我慢した。
変な動きにはなってる自覚もあったけど、抱きついたりしたら、蓮見さんにも顕彰さんにも嫌われてしまうかもしれない。
どんなに心臓がバクバクしても、それだけはしちゃいけないと、必死に自分を戒めた。

「ニーナ、大丈夫か?」

「大丈夫、大丈夫です!」

「だいぶ、大丈夫じゃなさそうだけどな」

蓮見さんが顔を覗き込んで来るのが恥ずかしくて、赤くなるのが分かった。

「ニーナ、会いたかった」
「俺もだ、ニーナ」

顕彰さんの甘い声と蓮見さんの柔らかな声が、抱きしめられるのとほぼ同時に聞こえた。

「ひゃ」

両側からサンドイッチされた状態で、二人から頭やら顳顬やらにキスをされた。

嘘、なにこれ。
どうしちゃったの?
二人ともおかしいよ!

「可愛いなぁ」

蓮見さんが耳元で呟くと、顔を覆って伏せるしかなかった。
この顔を見られたくない。
もうメイクなんかで隠せない自分の気持ちを、知られたくなかった。

「ニーナ、ね、顔見せて」

顕彰さんは甘すぎる声で、オネェさんからオスの色気を出してつむじ辺りをキスしてくる。

頭、臭くないだろうかと急に気付いて、顔にあったてを頭にやった。

「ダメ、頭、汚い、臭いです!」

「いつものシャンプーと違うね
 こっちのかな?
 少し甘い匂いだよ?」

「うん、甘いね
 なんの香りかな?」

「んー、ガーデニアっぽいけど」

「ホテルのコンシェルジュが、僕のイメージだと言ってくれたので、折角だから使ってます。」

焦りながら、香りがガーデニアとかしらないけど、ホテルの人がくれたから使ってると言うと、二人は不機嫌になった。

「ふーん、そうなんだ。」

「じゃあ、俺たちもニーナに似合いそうな服とか贈るよ、ね?」

「へ?なんで?」

顔を上げて、二人をばっちり見てしまった。
あの、目が笑ってない。
口角だけ上げて笑った様に見せかけた二人から、見下ろされつつ、当たり前だよね、と言われた。

「ま、その前に、ニーナのホテル行こうか。 
 コンシェルジュにも、色々お願いしないとね」

「ですね、顕彰さん
 コンドミニアムとかの方がいいでしょうし。」

そんなやり取りをしていたら、見覚えのある男が歩いてきたのが見えた。

「なぁんだ、ニーナってやっぱり好きものじゃないか
 俺も食わせてもらいたかったなぁ」

自業自得だけど、二人の前で言われたくなかった。

「日本に帰ったら、他のやつにも言っとくよ
 な、新名希?だったっけ?」

下品な笑いをしながら、あのCAは歩き始めた。

なんで本名知ってるの?
さっきとは違う意味で心臓がバクバクした。

「ちょっと待って、ねぇ、アンタ
 もしかして、新庄の友達?」

あ、そうなのか?

「そうだ
 アイツを嵌めやがって」

「世間て狭いのねぇ
 で、もう一度聞くけど、新庄紘一の友達で、アイツの代わりに何かしてやろうと企んでいたの?」

顕彰さんが僕の前に立って庇う様に、アイツから隠してくれた。

「まあ、ね
 色々聞いていたし、接近禁止だっけ?
 俺は関係ないから、外国の解放感で遊ぶニーナのネタを日本の奴らに提供してやろうと思っただけだよ。
 まあ、でも、これならネタになるよな。」

スマホのカメラで、俺達を撮った。

「そう、分かったわ。
 脅迫、よね?」

「大袈裟だなぁ 
 ちょっと、多めにお小遣いを貰えたら、
 流さないでやるよ、どう?」

「あんた名前なんて言うんだ?
 いま、現金はないから振り込むにも
 連絡先が必要だろ」

事務所に聞くようか話を蓮見さんがした。

「テオドール・永井
 連絡先ならニーナが知ってるさ
 メールに振込先を入れとくよ」

ゲラゲラ笑って去っていった。




「ニーナ、このおバカ!!」

「何してんだよ、お前」

「ごめんなさい!
 あの、食事の約束したんだけど
 あいつが、引退してお金あるだろって言い出したから、怖くなってホテル変えて、着拒にして、そしたら、蓮見さんから電話がきて、怖かったから」

ふーってため息を吐きながら、顕彰さんに頭を撫でられた。

「ニーナ、なんか断片的すぎる。
 それだけ焦ってるのが分かるけど。」

「そうだぞ」

「怖い時にきた電話だから、余計に怖くなっちゃって、だから、その、電話に出るの遅くなりました。」

胸のあたりで両手を握って、ごめんなさいと謝るしかなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

林檎を並べても、

ロウバイ
BL
―――彼は思い出さない。 二人で過ごした日々を忘れてしまった攻めと、そんな彼の行く先を見守る受けです。 ソウが目を覚ますと、そこは消毒の香りが充満した病室だった。自分の記憶を辿ろうとして、はたり。その手がかりとなる記憶がまったくないことに気付く。そんな時、林檎を片手にカーテンを引いてとある人物が入ってきた。 彼―――トキと名乗るその黒髪の男は、ソウが事故で記憶喪失になったことと、自身がソウの親友であると告げるが…。

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

記憶の欠片

藍白
BL
囚われたまま生きている。記憶の欠片が、夢か過去かわからない思いを運んでくるから、囚われてしまう。そんな啓介は、運命の番に出会う。 過去に縛られた自分を直視したくなくて目を背ける啓介だが、宗弥の想いが伝わるとき、忘れたい記憶の欠片が消えてく。希望が込められた記憶の欠片が生まれるのだから。 輪廻転生。オメガバース。 フジョッシーさん、夏の絵師様アンソロに書いたお話です。 kindleに掲載していた短編になります。今まで掲載していた本文は削除し、kindleに掲載していたものを掲載し直しました。 残酷・暴力・オメガバース描写あります。苦手な方は注意して下さい。 フジョさんの、夏の絵師さんアンソロで書いたお話です。 表紙は 紅さん@xdkzw48

好きになれない

木原あざみ
BL
大学生×社会人。ゆっくりと進む恋の話です。 ** 好きなのに、その「好き」を認めてくれない。 それなのに、突き放してもくれない。 初めて本気で欲しいと願ったのは、年上で大人で優しくてずるい、ひどい人だった。 自堕落な大学生活を過ごしていた日和智咲は、ゼミの先輩に押し切られ、学生ボランティアとしての活動を始めることになる。 最初は面倒でしかなかった日和だったが、そこで出逢った年上の人に惹かれていく。 けれど、意を決して告げた「好き」は、受け取ってもらえなくて……。というような話です。全編攻め視点三人称です。苦手な方はご留意ください。 はじめての本気の恋に必死になるこどもと、素直に受け入れられないずるいおとなのゆっくりと進む恋の話。少しでも楽しんでいただければ嬉しいです。

ふしだらオメガ王子の嫁入り

金剛@キット
BL
初恋の騎士の気を引くために、ふしだらなフリをして、嫁ぎ先が無くなったペルデルセ王子Ωは、10番目の側妃として、隣国へ嫁ぐコトが決まった。孤独が染みる冷たい後宮で、王子は何を思い生きるのか? お話に都合の良い、ユルユル設定のオメガバースです。

幼馴染から離れたい。

June
BL
アルファの朔に俺はとってただの幼馴染であって、それ以上もそれ以下でもない。 だけどベータの俺にとって朔は幼馴染で、それ以上に大切な存在だと、そう気づいてしまったんだ。 βの谷口優希がある日Ωになってしまった。幼馴染でいられないとそう思った優希は幼馴染のα、伊賀崎朔から離れようとする。 誤字脱字あるかも。 最後らへんグダグダ。下手だ。 ちんぷんかんぷんかも。 パッと思いつき設定でさっと書いたから・・・ すいません。

手切れ金

のらねことすていぬ
BL
貧乏貴族の息子、ジゼルはある日恋人であるアルバートに振られてしまう。手切れ金を渡されて完全に捨てられたと思っていたが、なぜかアルバートは彼のもとを再び訪れてきて……。 貴族×貧乏貴族

夢見がちオメガ姫の理想のアルファ王子

葉薊【ハアザミ】
BL
四方木 聖(よもぎ ひじり)はちょっぴり夢見がちな乙女男子。 幼少の頃は父母のような理想の家庭を築くのが夢だったが、自分が理想のオメガから程遠いと知って断念する。 一方で、かつてはオメガだと信じて疑わなかった幼馴染の嘉瀬 冬治(かせ とうじ)は聖理想のアルファへと成長を遂げていた。 やがて冬治への恋心を自覚する聖だが、理想のオメガからは程遠い自分ではふさわしくないという思い込みに苛まれる。 ※ちょっぴりサブカプあり。全てアルファ×オメガです。

処理中です...