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日常

出来る事

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 案の定と言うか、識字率はかなり低くて肉体労働しか出来ないような人達ばかりだった。
 それは王侯貴族にとって都合が良いからだ。

「呆れる世界ね」

 私が生きていた世界が余りにも合理的で理想的な世界に辿り着いていたからだ。
 その分、世界は疲弊していたけど。
 ぼんやりと思い出した前世と確実に思い出した今世で、偽家族を捨てる為にするべき事は、虐待を第三者に伝える事だけど、既に悪評を広められてるせいで、私の話など聞く耳も持ってもらえないだろう。
 現行犯しかない。
 虐待の現場を、力関係のない第三者で権力がある人物に見られれば良い。
 それを探すのが難しかった。
 腐っても侯爵、代理の期間限定と言えども、侯爵より上の権力と言えば、公爵、大公、王族しかいなかった。

「詰んだ、詰み切った」

 今の私ではこの階級にいる方々とどうやっても近づく事は出来ない。

 考えろ、既に悪評しかない私が良い人になるなんて設定は余程の事がない限り、覆せない。
 奇跡なんて起きるはずもなく、とりあえず食べる事にありつける食堂で仕事を探した。

「お給金は少なくても、一回分の食べ物をもらえれば良いんです!
 残り物で構いませんから!」

 今までも残飯しか食べて来ていないのに、これ以上悪くなるとは思えなかった。
 離れで食べる時はまだ気が楽だったけど、アイツらに食堂で摂らされる時は、残飯を貴族のマナーで食べる事を強要され笑いものからの、暴力だった。

「困ったねぇ、うちも夫婦ふたりで足りてるからねぇ。
 あんたくらいの器量良しなら、娼館の方が稼げるんじゃないかい?」

 体を売るのは最後の手段だ。
 それに! 私はまだ十二歳だからね!
 いくら早婚の時代とはいえ、私の常識の適齢期は二十二、三歳くらいからだ。
 前世五十代の私の適齢期だけど。
 まあ、その適齢期は来なかった。
 会社でお局様と言われ、新入社員が一年、二年で寿退社をする時代を生き抜いた。
 あ、そうだ、なら伝票を作っていずれはレジを作れば良いじゃん。
 会社はそれを作る会社だったし、仕組みは知ってる。
 レシートは高価だから出せないけど、庶民も字は読めなくてもお金の種類と数字は数えられるんだから、明朗会計だ。

「私、計算出来ます!
 お客様が食べた物、注文した物を計算して出せます!」

 どの店でも一律的な値段になっているのは、計算が面倒らしく、表が出来ていた。
 
「計算できれば、安くしたり高くしたり出来ます!
 そうしたら、色々な物が提供できて、他のお店と格差ができ、流行りますよ!
 この店は、コレが他より安い、値段は高いけど良い物を出す、とかね」

 この提案には少しだけ食いつきを見せたので、実際に計算してみせた。

 ビールや肉類、数人で大皿を頼まれたりした時は、とか。
 価格帯も見直しをしてみせた。
 そして、計算が合ってるかどうか分かるように伝票を作る。
 識字率が低いから、絵にすれば良い。
 メニューを絵にして作り、その横に値段にを書いた。
 全部作るとそれだけ取られて追い出されかねないので、一例だけ作って見せた。

「支払いで渋られない為に、これなら堂々と言えるね!
 あんた、まだ子供なのに凄いね。
 よし、今夜から働いてちょうだい。
 私は女将のマーサ、旦那が料理を作ってるショーン、よろしくね」

「私は、イエ、イリスです!
 よろしくお願いします!」

 こうして、町の食堂『ビバリが丘』に職を得た。


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