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最強

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 夜が深くなると不安も増した。

「イルちゃん、サイアスなら大丈夫よ。
 貴方の侍女から話は聞いたでしょう? 暗部が護衛についてるの。
 それにベルギアンより本当は強いのよ」

 夫人はまるで僕を本当の家族の様に抱きしめて、背中を撫でてくれた。

「でもこんなに遅くて、僕が一緒に出掛けられなかったことを拗ねて、意固地になってアスにごめんねって言ってない……。
 貰うばっかりで与えてあげる事もしないで、文句ばっかりが心にあった」

「それはタイミングが悪かったわねぇ。
 でもそのくらい捌けないなんて、情けないわね。
 怒っていいのよ、イルちゃんはあの子のお嫁さんになるんだから、あの子が大事にしなきゃいけないのは、国王でも法律でも、ましてや上司でもないの。
 イルちゃんを不安にさせた事が一番の罪よ。
 地下牢に入れて、鞭打ちしてあげるから、泣き止んで」

 鞭打ち?

「え、それはダメ」

「んふふ、大丈夫だから。 
 私の鞭捌き、それはそれは素晴らしいのよ? これでも結婚する前は護衛騎士だったんだから」

 へっ?!

「愚かな伯母様が王妃になった時、仕方なく護衛になったんだけど、ほんとくだらなくて伯母とは言え情けないから公爵家へ嫁いだのよ」

「彼女は凛々しくてね。
 ビランコ家の暗部ですら恐れをなしたくらいだから、腕は確かだよ」

 いやだから、その腕をアスで披露しなくていいから!!

「あの、アスが帰ってきたら、僕がボッコボコにするんで、大丈夫です」

 青くなってたと思うけど、なるべく笑顔で言った。

「そう? イルちゃんの気持ち次第だから、分かったわ」

 不二子ちゃんですか、貴女は!! 太ももからチラッと見えた鞭が怖い。




 深夜になろうとしたところで、侍女が外の気配に気づいて僕たちを背中に回し、手にはワイヤーソーを仕込み始めた。

「静かに、奥へ」

 石造りの小屋は半地下へと降りられるようになっていて、その先は暗くて見えなかったが、そろそろと後退した。

 バンッ!!

「イリエラ! 無事?!」

 扉を開けて入って来たのはアスだった。
 正確には、アスの顔を模した誰かだった。
 そしてその誰かに向かって侍女のワイヤーソーは活躍した。

 ゴトン

「ここも見つかったようですが、サイアス様の足音が聞こえますから、大丈夫でしょう」

 噴き出した血をみて怯むより、暗闇の向こうから現れたアスの元へ行く事に必死だった。

「イル! イル!! 無事か?」

「アス!!」

 ボロボロなのに綺麗なアスを見て、その胸に飛び込むより先に腰が抜けて足元から崩れ落ちてしまった。

「イル、どこか怪我をしたのか?」

「ううん、違う、違うよ、アス、アスごめんなさい!!」

 屈んで抱き上げてくれたその腕の中で号泣した。

「なんで謝るの? 謝るのは私の方だよ、一人ぼっちにさせてごめんね。
 可愛い服をちゃんと見せてくれたのに、本当にごめん」

「いいの、良いんだよ、こんなに大変な事になってるのに、僕が話もしようとせずに誤解して拗ねて怒ったんだもん!!ごめん、アス、大好き!」

 二人して力いっぱい抱きしめ合って、思いのたけをぶつける様にキスをした。
 やっと、やっとアスに会えた。
 そんな感動を味わっていると、コホンと咳払いが聞こえて、我に帰った。

「サイアス、私達もいるんだけど、まったく無事の確認はしてくれなかったね」

「父上も母上も暗部より強いじゃないですか。 全く気にしておりませんでした」

 僕を抱っこしたまま、ケロッと言い放った。

「そうか、で、始末は終わったのか?」

「はい、そこの者で最後でした。
 既に王宮は厳戒態勢を解いております」

 やっと一連の事が収束した事を、アスの口から告げられた。


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