上 下
19 / 24

避難

しおりを挟む


 宰相様は言われた地下牢へ、僕は治癒院へ急いで向かう事にした。

 治癒院へは初めて行くけど、報告に来た捜査員の一人が案内してくれると言う事なので、ついて行こうとしたら侍女に止められた。

「イリエラ様、お待ちください」

「あ、あのね、アスがけがをして」
「羽織る物が必要です。 どうぞこちらへ」

 そっか、パジャマのままだった事に今更気づいて、侍女の所へ近づいた。

「イリエラ様、宜しいですか?」
「え? 何?」

「目を閉じていてください」

 え?っと思った瞬間、侍女に目を塞がれてぎゅっと抱きしめられるような恰好になった。
 そして、金属音と短い叫びが残ったあと、何かが床に落ちる音がした。
 
 まるで思い衣料品を落としたような音だった。

「さぁ、もう大丈夫です。
 賊が侵入してるようですね」

 床には捜査員が血を流して倒れていた。

「ひっ! な、なん、何で、何で?」

「宰相様は大丈夫だと思いますが、サイアス様はまだお戻りになっておりません。
 これは以前からこの城に侵入していたスパイでしょう」

 これってこの侍女が倒した、何て訳無いか。
 僕の目を塞いでたんだから、出来ないじゃん。

「暗部が常にイリエラ様の護衛をする様に指示を出しております。
 ご安心下さい」

 護衛が既についてたの? いつから?

「あの、この偽物の捜査員は、男爵家の?」

「間違いなくそうだと思われます」

「国王様や、王妃様は!?」

 僕の所まで来るなら、必ずお二人を狙うはずだ。

「ご安心下さい。 既に王族専用のシェルターに避難されています」

 いつまでも此処に留まってはいけないと言われ、僕もシェルターに移るように言われた。
 アスが戻っていなかった。
 でも刺されたのが嘘じゃなかったら?
 不安な気持ちは、悪い方へ、悪い方へと考えを巡らせてしまう事になった。

「イリエラ様、暗部はサイアス様にも付いておりますので、ご安心下さい」

「そっか、よかったぁ」

 侍女の力強い言葉は、このスパイの死体が証明してくれていた。
 
「さ、行きますよ! 安全にお連れするためしばし御無礼を致します」

 そう言うととても侍女とは思えない力強さで、軽々と僕を抱き上げて疾走した。
  
 え、もしかして侍女コスプレの男の人?

「しかし、こんなに易々と侵入される城とは如何なものかと思います」

「うん、それ、本当にね。
 これってクーデターだよね?」

 多分獣化できるから、油断してる部分もあるんだと思った。
 シェルターは国王様たちとは違う場所で、調理場の床下を開け地下へと降りて行くと城外へ出たんじゃないかって言うくらいの距離を進み、地上へ出た先に小さな石造りの小屋があった。

「こちらで隠れていましょう」

「侯爵様や、公爵夫人は?」

「中でお待ちです。
 暗部はお一人に必ずツーマンセルで付きますし大丈夫です。
 それにいざとなれば、私達侍女も侍従も執事も戦えますから」

 それは王宮に残った使用人達全員が、戦闘員として動くと言う事だった。



「あぁ、イルちゃん! 無事だったのね!」

 夫人は力いっぱい抱きしめてくれて、再会を喜び合った。

「うちの使用人たちは皆プロだからね。
 安心して待っていようじゃないか」

「そうね、まったく舐めてくれてるわ、ビランコ家の武力は国に匹敵するのにそんな情報も無かったのかしら」

 いつものホワホワした夫人とは思えない発言だった。

「え? 軍事力なんて持ってたんですか?」

「そうよ~、だから王族だってうちのする事に逆らえない立場なのに、うちのトルシエちゃんを蔑ろにして、許せるわけないじゃない。
 だから移住することで、軍事力を引き上げちゃったのよ。
 ベルギアンが主権をドラニスタ―に譲ったのはそこもあったからだし。
 ねぇ、あなた、今回の反逆を起こしたのがこの国の男爵って事だけど、絶対ぴスカルの元国王関係よねぇ?」

「そうだろうねぇ、
 しかも小耳にはさんだ所によると獣人化してる子供を兵器として輸出しようとしたんだって。
 でもさ、この国の初代国王の魔法で獣化できなくなるし、その記憶も飛んじゃうのにね」

 そうだった、獣化関係は外には持ち出せないはずだった。

「もしかしたら、記述なら情報が残ってしまうのかも」

「記憶が無ければ、その記述もただの物語になってしまうのかも! 
 私も子供の頃の童話で獣の国を読んだ事あるわ。
 こちらの国では男爵、ピスカルソーダでは准男爵だった何てこと、無いわよね?」

 夫人が一つの仮説を説いた。

 あの魅了魔法を使った女がこちらの国の男爵家の人間だったら?
 宰相様から聞いた男爵令息の言動、似てないか?

「うむ、あの女が逃げおおせたと言う事かもしれんな」

「魅了魔法に掛かっちゃったら、どうしよ」

 あの変な感じになって操られてしまったら、そう考えると不安で仕方なかった。

「あ、大丈夫よ。
 ドラニスタ―ではその魔法使えないみたいだから。
 初代国王の結界魔法って言うのかしら、それって持ち出せないけど持ち込めないんですって」

 ん、なんか凄いゼロかイチな感じ。
 だから警備とかゆるいのか。

 魔法が無かったら、体力と技術の勝負だもんね。
 違う意味で万全は国なんだ。

「そこで実験だったんだな。
 獣化出来ないし記憶が無くなってしまっていても、体の因子は初代国の血が入っている、ならばその子供を外の国で作った場合、獣化できるのではないか、と」

「だから獣化した子供を輸出」

 人だよ、まるで動物実験みたいにしないでよ!

「腹立つわね。
 ベルギアンに言って、あそこの国潰しちゃいましょうか。
 あの子一人で潰せるでしょ」

 騎士団に入るってゲームではなってたけど、国を潰すなんて設定無かったよ?

「国民も自分たちで変えないといい方向には少しもならないんだが、なぜか受け身なくせに文句は多いんだよ」

 侯爵夫妻は笑いながら、国を一つ潰そうって話をしてた。

 アス、早く会いたいよ。
 この状況、違う意味で怖い。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

兄がいるので悪役令嬢にはなりません〜苦労人外交官は鉄壁シスコンガードを突破したい〜

藤也いらいち
恋愛
無能王子の婚約者のラクシフォリア伯爵家令嬢、シャーロット。王子は典型的な無能ムーブの果てにシャーロットにあるはずのない罪を並べ立て婚約破棄を迫る。 __婚約破棄、大歓迎だ。 そこへ、視線で人手も殺せそうな眼をしながらも満面の笑顔のシャーロットの兄が王子を迎え撃った! 勝負は一瞬!王子は場外へ! シスコン兄と無自覚ブラコン妹。 そして、シャーロットに思いを寄せつつ兄に邪魔をされ続ける外交官。妹が好きすぎる侯爵令嬢や商家の才女。 周りを巻き込み、巻き込まれ、果たして、彼らは恋愛と家族愛の違いを理解することができるのか!? 短編 兄がいるので悪役令嬢にはなりません を大幅加筆と修正して連載しています カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。

【R18】翡翠の鎖

環名
ファンタジー
ここは異階。六皇家の一角――翠一族、その本流であるウィリデコルヌ家のリーファは、【翠の疫病神】という異名を持つようになった。嫁した相手が不幸に見舞われ続け、ついには命を落としたからだ。だが、その葬儀の夜、喧嘩別れしたと思っていた翠一族当主・ヴェルドライトがリーファを迎えに来た。「貴女は【幸運の運び手】だよ」と言って――…。 ※R18描写あり→*

いらないと言ったのはあなたの方なのに

水谷繭
恋愛
精霊師の名門に生まれたにも関わらず、精霊を操ることが出来ずに冷遇されていたセラフィーナ。 セラフィーナは、生家から救い出して王宮に連れてきてくれた婚約者のエリオット王子に深く感謝していた。 エリオットに尽くすセラフィーナだが、関係は歪つなままで、セラよりも能力の高いアメリアが現れると完全に捨て置かれるようになる。 ある日、エリオットにお前がいるせいでアメリアと婚約できないと言われたセラは、二人のために自分は死んだことにして隣国へ逃げようと思いつく。 しかし、セラがいなくなればいいと言っていたはずのエリオットは、実際にセラが消えると血相を変えて探しに来て……。 ◆表紙画像はGirly drop様からお借りしました🍬 ◇いいね、エールありがとうございます!

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。

木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。 彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。 こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。 だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。 そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。 そんな私に、解放される日がやって来た。 それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。 全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。 私は、自由を得たのである。 その自由を謳歌しながら、私は思っていた。 悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

【完結】身売りした妖精姫は氷血公爵に溺愛される

鈴木かなえ
恋愛
第17回恋愛小説大賞にエントリーしています。 レティシア・マークスは、『妖精姫』と呼ばれる社交界随一の美少女だが、実際は亡くなった前妻の子として家族からは虐げられていて、過去に起きたある出来事により男嫌いになってしまっていた。 社交界デビューしたレティシアは、家族から逃げるために条件にあう男を必死で探していた。 そんな時に目についたのが、女嫌いで有名な『氷血公爵』ことテオドール・エデルマン公爵だった。 レティシアは、自分自身と生まれた時から一緒にいるメイドと護衛を救うため、テオドールに決死の覚悟で取引をもちかける。 R18シーンがある場合、サブタイトルに※がつけてあります。 ムーンライトで公開してあるものを、少しずつ改稿しながら投稿していきます。

今さら、私に構わないでください

ましゅぺちーの
恋愛
愛する夫が恋をした。 彼を愛していたから、彼女を側妃に迎えるように進言した。 愛し合う二人の前では私は悪役。 幸せそうに微笑み合う二人を見て、私は彼への愛を捨てた。 しかし、夫からの愛を完全に諦めるようになると、彼の態度が少しずつ変化していって……? タイトル変更しました。

【R18】らぶえっち短編集

おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
調べたら残り2作品ありました、本日投稿しますので、お待ちくださいませ(3/31)  R18執筆1年目の時に書いた短編完結作品23本のうち商業作品をのぞく約20作品を短編集としてまとめることにしました。 ※R18に※ ※毎日投稿21時~24時頃、1作品ずつ。 ※R18短編3作品目「追放されし奴隷の聖女は、王位簒奪者に溺愛される」からの投稿になります。 ※処女作「清廉なる巫女は、竜の欲望の贄となる」2作品目「堕ちていく竜の聖女は、年下皇太子に奪われる」は商業化したため、読みたい場合はムーンライトノベルズにどうぞよろしくお願いいたします。 ※これまでに投稿してきた短編は非公開になりますので、どうぞご了承くださいませ。

壁の花令嬢の最高の結婚

晴 菜葉
恋愛
 壁の花とは、舞踏会で誰にも声を掛けてもらえず壁に立っている適齢期の女性を示す。  社交デビューして五年、一向に声を掛けられないヴィンセント伯爵の実妹であるアメリアは、兄ハリー・レノワーズの悪友であるブランシェット子爵エデュアルト・パウエルの心ない言葉に傷ついていた。  ある日、アメリアに縁談話がくる。相手は三十歳上の財産家で、妻に暴力を働いてこれまでに三回離縁を繰り返していると噂の男だった。  アメリアは自棄になって家出を決行する。  行く当てもなく彷徨いていると、たまたま賭博場に行く途中のエデュアルトに出会した。  そんなとき、彼が暴漢に襲われてしまう。  助けたアメリアは、背中に消えない傷を負ってしまった。  乙女に一生の傷を背負わせてしまったエデュアルトは、心底反省しているようだ。 「俺が出来ることなら何だってする」  そこでアメリアは考える。  暴力を振るう亭主より、女にだらしない放蕩者の方がずっとマシ。 「では、私と契約結婚してください」 R18には※をしています。    

処理中です...