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事の顛末
しおりを挟むイルがいない! あの時追いかけられたのに、なんでこいつを面倒見なきゃいけないんだ!
「サイアス様、とれましたか?」
「ええ、蜂が刺さなくて良かったですね。
早く服を着て、退出いただけますか? サイダート男爵令息」
いきなりこの小僧が部屋の前で騒ぐから、仕方なく侍従に言って蜂を捕らせたが、ちょうどその処理に侍従がいなくなったタイミングでイルが来てくれたのに、こいつのせいで部屋に入れられなかった。
余計な心配も不安にもさせたくなかったのに、表情が暗かった気がする。
あんな可愛い姿を一番に見せてくれるなんて!
可愛い可愛い可愛い可愛い、世界で一番可愛い!!!
早くイルの所へ行ってあげたい。
「サイアス様、このボタンがなかなか留められなくて」
「ではそのままでいいんじゃないですか?」
なんでもいいから早く出て行けよ。
侍女を呼びますから、と言うと、この不細工がいきなり抱きついてきた。
「サイアス様! 僕は」
「ええい! 気持ちの悪い、この不細工が! 男爵令息の身分で私の体に触れるなど不敬だぞ!」
引き剥がし、思いっきり床に叩きつけた。
「酷いです、僕の事が好きって言ったじゃないですか!」
は、今こいつなんて言った?
「王妃様にご挨拶をした時、その綺麗な瞳で語ってくれました」
「それは、貴様の騙りでは無いか?」
ナヨナヨとシナを作る、キモチワルイ男が人語を喋るとは理解に苦しむ。
「僕を娶って下さい!」
はい、死んだ、お前はすでに死んでいる。
「衛兵! こいつを捉えろ!」
一声で部屋へ入ってきた衛兵に捕縛された男爵令息は、なにか喚いていたが知らん!
「上位貴族への暴行、および暴言で家門へその罪を問う」
騒ぎを見守っていた侍女が、落ち着いたところで報告に来た。
「サイアス様、イリエラ様が外出されてしまいました。
念のため隠れて護衛をする様に、暗部には申し伝えてあります」
うちの使用人は使える。
この呼吸はまだ、この国の使用人では無理だった。
侍従の野郎、グルだったのか?
戻って来る気配のない侍従にもおかしな点が多かった。
「一応、こちらをお渡しいたします」
侍女が渡して来たのは映像を保管できる魔法具で、イルの可愛い姿を映していた。
ナニコレ! さっきは焦っていたからちゃんと見れなかったけど、尻尾がフッサフサで三本もあるし、服も言葉にするには語彙が足りないくらい可愛かった。
あ、着替えてる。
うっは、やっばい、黒いのも良かったけど、淡いミントグリーンのワンピースも可愛い。
今日は天気が良いから、同じ色の日傘もすっごく良いよー!!
「うむ、ボーナスを増やしておこう」
「有難く存じます」
ビランコ家の使用人、ほんとにツボを心得ていて素晴らしい。
今すぐにでもイルを追いかけて行きたいが、貴族が絡んでる以上そのままという訳にはいかなくて、後ろ髪を引かれながら罪状を法務へ連絡するしかなかった。
「サイアス、サイダート男爵をしっかり探って欲しい。
侍従は城外で自決していた」
「やはりグルでしたか」
宰相と男爵家の家系や商業、領地経営、そして納税なんかを確認していると、密輸の疑いが出て来た。
法務の部署長を交えて裏を取っていくと、明らかにおかしい部分が出て来たので、男爵令息を連れて急いで男爵家を取り押さえる事になった。
法務の部署長と、男爵令息、そして私で一番早い馬車を出して向かうと、貴族街の一番端に邸宅はあった。
男爵程度だから貴族街の端っこって言うのも分かるが、これでは遠すぎる。
家宅捜査をするにも既に夕暮れで、これでは徹夜になってしまうではないか。
イルと話したいのに、くっそー!!!
その時、バカ―ってイルの声が聞こえた気がした。
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