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披露宴

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 トルシエ嬢に至っては朝からマッサージに湯あみ、そしてピーリングを繰り返してプルプルのお肌を作り上げさせられていた。
 僕がメイクを担当してから、かなりお肌に関しては注意をしていたからそんなに心配してないけど、睡眠! いくら準備が多いからって、夜明けと同時に起こされていきなりマッサージとか、過酷すぎる。
 何の修行だよ。

「トルシエ嬢、式までは大変でしょうから、流動食を用意してもらいました」

 僕もコスプレするときは何日か前から体を作るし、着替えたらなるべく食べないようにしていたから、こんな時は流動食を少しずつ胃に入れて、ストレスに備えないといけない。

「ありがとう、イル兄様」

 準備をしながらで緊張もあるだろうけど、それ以外に体力を持って行かれてるトルシエ嬢に、頑張れとしか言えない自分が情けなかった。

「イル兄様、今日は私の晴れ舞台ですもの、このくらい熟してみせますわ」

 笑顔を向けらると、こっちまで頑張らなきゃって気持ちにさせられた。

「それにね、披露宴での余興を一番楽しみにしてますの」

「余興、ねぇ」

 あれだ。 アリステリア公の事だろう。
 どうやったら余興になるんだか。

「ふふ、イル兄様こそお兄様とどうなんですか?」

 え、いまここでソコ聞いちゃう?

「え、あー、そうね。
 一応、今度城下でデートする予定」

「まぁ! お兄様のポンコツな顔が見れますのね」

 ポンコツって……。 いつ覚えたんだ。

「その時を楽しみにしておりますわ」

 メイクも仕上げの段階で、トルシエ嬢の笑顔がより綺麗に見えるように、パールが入った仕上げの粉を振る。
 ウエディングドレスはドラニスター王が、トルシエ嬢がまだアレと婚約してるときにオーダーしてあったそうで、なかなか凝った作りになっていた。
 背中をコルセットのようなデザインでキュっと搾り上げ、胸はレースが幾重にも重なってボリュームを出すと、ウェストの細さを強調した。
 スカートは骨盤あたりまでピッタリとした作りにしてシンプルに、そして切り返して流れるようなドレープを作った裾にレースとオーガンジーを組み合わせたオーバースカートを纏わせていた。
 後ろは長く、裾を持つ者が何人いるんだってくらい。

「これ、着るのも大変だけど、重さ何キロだろう?」

「それこそ、一番の力持ちは私ではないかしら?」

 こんな重量のドレスを数時間着るって、物凄いことだった。

「うん、鎧だね」

「えぇ、この国を守る王妃の鎧ですわ」

 しっかりと前を向くトルシエ嬢の準備が整った。
 扉の前でドラニスター王が待ち構えていて、普段のヒグマからは想像できないほど優雅に、そして大きな岩のような体にトルシエ嬢を寄り添わせた。





 王妃の王冠をその頭上に戴いて、結婚式は無事に終了した。
 式には正式に招待された諸外国の王族や要人や貴族のみが参列でき、別枠の連中は締め出された。
 本来別枠って無いんだから当然だろう。

 披露宴会場は王宮の大広間で舞踏会と同じように開かれた。
 少し違うのは、普段の会場の続き間も解放して着席出来る晩餐テーブルもあると言う部分だった。

 国王陛下と王妃が入場し披露宴がスタートすると、それぞれの国を代表する人物たちが二人の前へ行って祝辞を述べてそれぞれの席へ下がる、と言う流れが始まった。

「ピルカスソーダ国王、王妃がご挨拶いたします。
 この度は親族となれた事、嬉しく思います」

 どの面下げてと思わなくはないけど、これが政略と言うやつなんだろうって飲み込んだ。

 王族関係が終わると貴族の挨拶が始まり、遅れてくるような貴族がいない限りアリステリア公とその婚約者が最後に挨拶を許された。

「ドラニスター国王、並びに、トルシエ妃殿下のご成婚、心よりお慶び申し上げます」

 続いて自分の名前と隣に並ぶ婚約者の名前を告げようとして、国王夫妻のすぐ脇で控えていた宰相とアス様が二人の言葉を遮った。

「名前は必要ないでしょう。
 一平民の名前を名乗られても、国王も王妃も困るだけですから」

「へ、平民だと? 私は元王太子アリステリアだぞ!
 ピスカルソーダ国との友好をしめしてやろうと言うのに、無礼だぞ!」

 平民と言う言葉を聞いて、元王太子は激高した。

 廃嫡されたじゃん。


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