上 下
5 / 24

うさ耳

しおりを挟む
 ドラニスターへきて早一週間。
 トルシエ嬢は毎日、王妃様教育に出向ていた。

「ねぇ、イル。
 王が何か困ってるようなの」

「早く式を挙げたくて?」

 からかうと、口を尖らせて違うわよ、と否定した。

「僕が教えるメイク、ちゃんと自分でもしてくださいね」

 ちょっとキツ目な美人から、知的な可愛い子に変貌していたトルシエ嬢に、メイクを教えるのが僕の役目になっていた。

「う~ん、聞きだすならもうちょっと可愛く、ケモミミとか付けてみるか」

 カチューシャに毛皮でうさ耳を作って、それで髪をまとめさせると可愛いウサギ人が出来あがっていた。
 うん、これで可愛く聞かれたら、それなりに喋ってくれるんじゃないかな?
 夜、寝る前の交流をする習慣があるらしく、ドラニスター王の執務室で一日の報告をし合うらしい。

「これで行っといで」
 
 送り出すと、振り向きながらありがとう、と頬をちょっとだけ染めて残していった。






「陛下、トルシエです」

 ドアをノックするとすぐに扉が開いた。

「トルシエ、嬢、……そ、その耳は」

「可愛いですか? 私の未来のお兄様が作って下さいました」

「そう、ですか。
 そうなんですね」

 まるで歓喜と言った風でトルシエを抱き上げると、その姿をヒグマに変えた。

「知っていたんですね、ビランコ家はやはり凄い」

「え、え? えぇ?」

 当然トルシエは知るはずもなく、可愛いから作ったって言うだけカチューシャで、まさか国王がヒグマだとは思いもしなかった。
 だが、ここで騒いではいけない。
 公爵家令嬢として、トルシエはただ優しく微笑んで、国王にされるがまま、振り回されていた。

「へ、陛下、そろそろ、おやめに」

 目を回したトルシエが制止してもらう様に言うと、やっと気づいたドラニスター王は謝罪をしながらそうっと下ろした。

「トルシエ嬢はご存知だったんですね、王族に近い者が獣の姿になれることを」

 内心は心臓がバクバクしてるトルシエだったが、にっこり笑ってドラニスター王のモフモフな腕に寄りかかる様にした。

「陛下、私はそのようなこと存じ上げませんでしたわ。
 でも、こうやってそのお姿を拝見すると、より、愛しさが生まれました」

「まさ、か、私の勘違いだった?」

「まぁ、そうですわね。ですが、それもまた楽しゅうございましたわ」

 ヒグマの姿でしゅんと項垂れるドラニスター王が可愛く見えて仕方なかったトルシエは、姿形よりその人の心が大事だと告げると、私の前ではクマでも大丈夫ですよ、と囁いた。

「トルシエを王妃に迎えられるなんて、奇跡としか言いようがない。
 だが、ビランコ家では……、子供は獣の姿で生まれて来る事がほとんどだ」

「まぁ、さすがに陛下の様な大きい子熊でしたらみんなビックリするでしょうけど、家の家族はそのあたりも軽く超えて来ますから心配いりませんわ」

 特にお母様は溺愛されることでしょうね、と。

「黙っておくのは間違ってる気がするので、ビランコ家の家族には伝えようと思うのだ」

「そうですわね、きっとみんな喜びますわ」

 え? という顔をしたドラニスター王に私の家族ですよ?と付け足した。

「では、明日、どこかで時間を貰えないだろうか?」

「そうですわねぇ、いっそ今からではいかがでしょう?
 あとは寝るだけででしたし、それこそ丁度いいじゃありませんか」

 珍しくトルシエがイタズラを思いついた子供の様な顔をした。
 そしてドラニスター王に至っては、そんな表情をするトルシエに心臓を鷲掴みされていた。
 なんと言っても、うさ耳付きだったので。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】役立たずの僕は王子に婚約破棄され…にゃ。でも猫好きの王子が溺愛してくれたのにゃ

鏑木 うりこ
BL
僕は王宮で能無しの役立たずと全員から疎まれていた。そしてとうとう大失敗をやらかす。 「カイ!お前とは婚約破棄だ!二度と顔を出すんじゃない!」  ビクビクと小さくなる僕に手を差し伸べてくれたのは隣の隣の国の王子様だった。 「では、私がいただいても?」  僕はどうしたら良いんだろう?え?僕は一体?!  役立たずの僕がとても可愛がられています!  BLですが、R指定がありません! 色々緩いです。 1万字程度の短編です。若干のざまぁ要素がありますが、令嬢ものではございせん。 本編は完結済みです。 小話も完結致しました。  土日のお供になれば嬉しいです(*'▽'*)  小話の方もこれで完結となります。お読みいただき誠にありがとうございました! アンダルシュ様Twitter企画 お月見《うちの子》推し会で小話を書いています。 お題・お月見⇒https://www.alphapolis.co.jp/novel/804656690/606544354

転生したら、ラスボス様が俺の婚約者だった!!

ミクリ21
BL
前世で、プレイしたことのあるRPGによく似た世界に転生したジオルド。 ゲームだったとしたら、ジオルドは所謂モブである。 ジオルドの婚約者は、このゲームのラスボスのシルビアだ。 笑顔で迫るヤンデレラスボスに、いろんな意味でドキドキしているよ。 「ジオルド、浮気したら………相手を拷問してから殺しちゃうぞ☆」

【完結】僕の異世界転生先は卵で生まれて捨てられた竜でした

エウラ
BL
どうしてこうなったのか。 僕は今、卵の中。ここに生まれる前の記憶がある。 なんとなく異世界転生したんだと思うけど、捨てられたっぽい? 孵る前に死んじゃうよ!と思ったら誰かに助けられたみたい。 僕、頑張って大きくなって恩返しするからね! 天然記念物的な竜に転生した僕が、助けて育ててくれたエルフなお兄さんと旅をしながらのんびり過ごす話になる予定。 突発的に書き出したので先は分かりませんが短い予定です。 不定期投稿です。 本編完結で、番外編を更新予定です。不定期です。

マジで婚約破棄される5秒前〜婚約破棄まであと5秒しかありませんが、じゃあ悪役令息は一体どうしろと?〜

明太子
BL
公爵令息ジェーン・アンテノールは初恋の人である婚約者のウィリアム王太子から冷遇されている。 その理由は彼が侯爵令息のリア・グラマシーと恋仲であるため。 ジェーンは婚約者の心が離れていることを寂しく思いながらも卒業パーティーに出席する。 しかし、その場で彼はひょんなことから自身がリアを主人公とした物語(BLゲーム)の悪役だと気付く。 そしてこの後すぐにウィリアムから婚約破棄されることも。 婚約破棄まであと5秒しかありませんが、じゃあ一体どうしろと? シナリオから外れたジェーンの行動は登場人物たちに思わぬ影響を与えていくことに。 ※小説家になろうにも掲載しております。

転生悪役モブは溺愛されんで良いので死にたくない!

煮卵
BL
ゲーム会社に勤めていた俺はゲームの世界の『婚約破棄』イベントの混乱で殺されてしまうモブに転生した。処刑の原因となる婚約破棄を避けるべく王子に友人として接近。なんか数ヶ月おきに繰り返される「恋人や出会いのためのお祭り」をできる限り第二皇子と過ごし、婚約破棄の原因となる主人公と出会うきっかけを徹底的に排除する。 最近では監視をつけるまでもなくいつも一緒にいたいと言い出すようになった・・・やんごとなき血筋のハンサムな王子様を淑女たちから遠ざけ男の俺とばかり過ごすように仕向けるのはちょっと申し訳ない気もしたが、俺の運命のためだ。仕方あるまい。 俺の死亡フラグは完全に回避された! ・・・と思ったら、婚約の儀の当日、「私には思い人がいるのです」 と言いやがる!一体誰だ!? その日の夜、俺はゲームの告白イベントがある薔薇園に呼び出されて・・・ ラブコメが描きたかったので書きました。

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

乙女ゲームのモブに転生したようですが、何故かBLの世界になってます~逆ハーなんて狙ってないのに攻略対象達が僕を溺愛してきます

syouki
BL
学校の階段から落ちていく瞬間、走馬灯のように僕の知らない記憶が流れ込んできた。そして、ここが乙女ゲーム「ハイスクールメモリー~あなたと過ごすスクールライフ」通称「ハイメモ」の世界だということに気が付いた。前世の僕は、色々なゲームの攻略を紹介する会社に勤めていてこの「ハイメモ」を攻略中だったが、帰宅途中で事故に遇い、はやりの異世界転生をしてしまったようだ。と言っても、僕は攻略対象でもなければ、対象者とは何の接点も無い一般人。いわゆるモブキャラだ。なので、ヒロインと攻略対象の恋愛を見届けようとしていたのだが、何故か攻略対象が僕に絡んでくる。待って!ここって乙女ゲームの世界ですよね??? ※設定はゆるゆるです。 ※主人公は流されやすいです。 ※R15は念のため ※不定期更新です。 ※BL小説大賞エントリーしてます。よろしくお願いしますm(_ _)m

悪役王子の取り巻きに転生したようですが、破滅は嫌なので全力で足掻いていたら、王子は思いのほか優秀だったようです

魚谷
BL
ジェレミーは自分が転生者であることを思い出す。 ここは、BLマンガ『誓いは星の如くきらめく』の中。 そしてジェレミーは物語の主人公カップルに手を出そうとして破滅する、悪役王子の取り巻き。 このままいけば、王子ともども断罪の未来が待っている。 前世の知識を活かし、破滅確定の未来を回避するため、奮闘する。 ※微BL(手を握ったりするくらいで、キス描写はありません)

処理中です...