103 / 122
雪、ユキ、ゆき!
しおりを挟むこの船を普通の旅客船として、何箇所か港を経由して入国する手筈になっていた。
初めての船旅は二人にはいい経験になったみたいだった。
夜の海が怖いと言うエリュは、まだまだこどもだなぁ、なんてちょっと安心したりもした。
「さぁ、気を引き締めてな。
チビッ子ども」
うちのデカくなった息子たちをチビッ子と言うのは、うちの家族だけだ。
特にロゲルは身体も大きいから、言っても違和感が無いし、シュリも強いとはいえ戦術とかならロゲルやシャズが確実に勝っていた。
経験値の差だと、よく一笑されては悔しいらしく、何度も挑戦しているのを見て来た。
最近は大分戦術を考えるようになったと、マナイから聞いた。
「今回、俺は父親だ。
お父様でも父上でも、パパでもいいぞ~」
凄く嬉しそうだ。
「ロゲル父様?」
エリュがこてん、と首を傾げた。
「うおっ、可愛い!
シュリもほら、どうぞ」
「ん、ロゲル父上」
言いにくそうに、何とか呼ぶとため息をついて、あまり呼ばない様にすると付け加えた。
「ふふ、二人とも可愛い」
「咲季ちゃん、笑い事じゃないよ?
君もだよ、ホラ」
「え?父上ですか?」
「はあ?
何でよー、それは無いよー」
「あ、えと、ロゲル様、ですかね?」
「もっと、こう、伴侶っぽく!」
「伴侶っぽいって言われても…
旦那様、とか?」
「惜しい!
アナタ、がいいなぁ」
無かったわ、その選択肢。
「あ、アナタ、ですか。」
「そうそう、にっこり笑って、アナタ、で」
あー、はいはい、分かりましたよ。
「アナタ」
「くーっ!!」
いよっしゃ!と気合が入った掛け声を上げていた。
「母様、僕から離れないでね」
エリュは何を察したのか、僕を守るように少し前に出ていた。
「さあ、そろそろ到着だ。
準備はいいかい?」
其々が、返事を返して、下船の準備を始めた。
僕は、擬態をする為にプラチナに近い金髪にして、瞳も金色にした。
レイシンの人が少しだけ興味を惹く様にするのが目的だった。
言われていた様に、寒い!
凍る!
「咲季、大丈夫かい?
もうすぐ宿だから、頑張れ。」
違和感が無いとは言わないけど、これは仕事だし、こんな事で照れてる場合じゃない、って言い聞かせた。
エリュは外套を着ていても、寒いらしくシュリが抱っこして歩いていた。
僕も、ロゲルに腰を抱かれて歩くと、確かにあったかくて助かった。
「こんなに雪深いとは思いませんでした。
レイシンの空調に魔力や魔石が足りないと言うのは納得です。」
「だからこそ、奴隷を欲しがるんだろうな」
街の中はまだマシだった。
街道は雪掻きがされていて、排水設備があるようで、雪をそこに落としていく。
「ふぅ~っ、やっと歩きやすい道に出ましたね。
エリュはやっぱり赤ちゃんだしね」
ふふって笑ったら急に、赤ちゃんじゃ無いって言い出してシュリから降りようと暴れた。
「おりーるー!
僕、赤ちゃんじゃないもん!」
「それが赤ちゃんだよ。」
シュリが付け加えて、がーん!って顔をしたから、笑ってしまった。
「エリュ、抱っこしてもらえるなんて今のうちだけだよ。」
宥める様にロゲルがエリュにだっこされとけ、と言った。
「そ、そっかなぁ」
今のうちって言葉にエリュは反応して、抱っこしてもらえる事に感謝をした。
素直で可愛いと、三人とも思ったのがその表情で分かった。
「あ、あれだ
これからしばらく泊まる宿だ。」
街の中で、広場に面した一等地と言える場所に構えた、高級な宿と言うよりホテルだった。
「わぁ、ロゲル父様
今日からここに住むの?」
「住むって、ふふ
そうだね、しばらくお父様のお仕事が終わるまではここに住むよ」
「母様!僕、シュリ兄様と寝る!」
「え?」
いや、そうするとロゲルと一緒の部屋になっちゃうじゃん!!
「いいよね?
シュリ兄様?」
「あぁ、いいぞ」
「やったぁ!」
喜び合ってる二人に水を差す訳にもいかなくて、はぁ、どうしよ?と言う気持ちしかなかった。
1
お気に入りに追加
790
あなたにおすすめの小説
キャンピングカーで往く異世界徒然紀行
タジリユウ
ファンタジー
《第4回次世代ファンタジーカップ 面白スキル賞》
【書籍化!】
コツコツとお金を貯めて念願のキャンピングカーを手に入れた主人公。
早速キャンピングカーで初めてのキャンプをしたのだが、次の日目が覚めるとそこは異世界であった。
そしていつの間にかキャンピングカーにはナビゲーション機能、自動修復機能、燃料補給機能など様々な機能を拡張できるようになっていた。
道中で出会ったもふもふの魔物やちょっと残念なエルフを仲間に加えて、キャンピングカーで異世界をのんびりと旅したいのだが…
※旧題)チートなキャンピングカーで旅する異世界徒然紀行〜もふもふと愉快な仲間を添えて〜
※カクヨム様でも投稿をしております
虐げられ聖女(男)なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました【本編完結】(異世界恋愛オメガバース)
美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!
ようこそ異世界縁結び結婚相談所~神様が導く運命の出会い~
てんつぶ
BL
「異世界……縁結び結婚相談所?」
仕事帰りに力なく見上げたそこには、そんなおかしな看板が出ていた。
フラフラと中に入ると、そこにいた自称「神様」が俺を運命の相手がいるという異世界へと飛ばしたのだ。
銀髪のテイルと赤毛のシヴァン。
愛を司るという神様は、世界を超えた先にある運命の相手と出会わせる。
それにより神の力が高まるのだという。そして彼らの目的の先にあるものは――。
オムニバス形式で進む物語。六組のカップルと神様たちのお話です。
イラスト:imooo様
【二日に一回0時更新】
手元のデータは完結済みです。
・・・・・・・・・・・・・・
※以下、各CPのネタバレあらすじです
①竜人✕社畜
異世界へと飛ばされた先では奴隷商人に捕まって――?
②魔人✕学生
日本のようで日本と違う、魔物と魔人が現われるようになった世界で、平凡な「僕」がアイドルにならないと死ぬ!?
③王子・魔王✕平凡学生
召喚された先では王子サマに愛される。魔王を倒すべく王子と旅をするけれど、愛されている喜びと一緒にどこか心に穴が開いているのは何故――? 総愛されの3P。
④獣人✕社会人 案内された世界にいたのは、ぐうたら亭主の見本のようなライオン獣人のレイ。顔が獣だけど身体は人間と同じ。気の良い町の人たちと、和風ファンタジーな世界を謳歌していると――?
⑤神様✕○○ テイルとシヴァン。この話のナビゲーターであり中心人物。
雪狐 氷の王子は番の黒豹騎士に溺愛される
Noah
BL
【祝・書籍化!!!】令和3年5月11日(木)
読者の皆様のおかげです。ありがとうございます!!
黒猫を庇って派手に死んだら、白いふわもこに転生していた。
死を望むほど過酷な奴隷からスタートの異世界生活。
闇オークションで競り落とされてから獣人の国の王族の養子に。
そこから都合良く幸せになれるはずも無く、様々な問題がショタ(のちに美青年)に降り注ぐ。
BLよりもファンタジー色の方が濃くなってしまいましたが、最後に何とかBLできました(?)…
連載は令和2年12月13日(日)に完結致しました。
拙い部分の目立つ作品ですが、楽しんで頂けたなら幸いです。
Noah
インバーション・カース 〜異世界へ飛ばされた僕が獣人彼氏に堕ちるまでの話〜
月咲やまな
BL
ルプス王国に、王子として“孕み子(繁栄を内に孕む者)”と呼ばれる者が産まれた。孕み子は内に秘めた強大な魔力と、大いなる者からの祝福をもって国に繁栄をもたらす事が約束されている。だがその者は、同時に呪われてもいた。
呪いを克服しなければ、繁栄は訪れない。
呪いを封じ込める事が出来る者は、この世界には居ない。そう、この世界には——
アルバイトの帰り道。九十九柊也(つくもとうや)は公園でキツネみたいな姿をしたおかしな生き物を拾った。「腹が減ったから何か寄越せ」とせっつかれ、家まで連れて行き、食べ物をあげたらあげたで今度は「お礼をしてあげる」と、柊也は望まずして異世界へ飛ばされてしまった。
「無理です!能無しの僕に世界なんか救えませんって!ゲームじゃあるまいし!」
言いたい事は山の様にあれども、柊也はルプス王国の領土内にある森で助けてくれた狐耳の生えた獣人・ルナールという青年と共に、逢った事も無い王子の呪いを解除する為、時々モブキャラ化しながらも奔走することとなるのだった。
○獣耳ありお兄さんと、異世界転移者のお話です。
○執着系・体格差・BL作品
【R18】作品ですのでご注意下さい。
【関連作品】
『古書店の精霊』
【第7回BL小説大賞:397位】
※2019/11/10にタイトルを『インバーション・カース』から変更しました。
Switch!〜僕とイケメンな地獄の裁判官様の溺愛異世界冒険記〜
天咲 琴葉
BL
幼い頃から精霊や神々の姿が見えていた悠理。
彼は美しい神社で、家族や仲間達に愛され、幸せに暮らしていた。
しかし、ある日、『燃える様な真紅の瞳』をした男と出逢ったことで、彼の運命は大きく変化していく。
幾重にも襲い掛かる運命の荒波の果て、悠理は一度解けてしまった絆を結び直せるのか――。
運命に翻弄されても尚、出逢い続ける――宿命と絆の和風ファンタジー。
婚約破棄王子は魔獣の子を孕む〜愛でて愛でられ〜《完結》
クリム
BL
「婚約を破棄します」相手から望まれたから『婚約破棄』をし続けた王息のサリオンはわずか十歳で『婚約破棄王子』と呼ばれていた。サリオンは落実(らくじつ)故に王族の容姿をしていない。ガルド神に呪われていたからだ。
そんな中、大公の孫のアーロンと婚約をする。アーロンの明るさと自信に満ち溢れた姿に、サリオンは戸惑いつつ婚約をする。しかし、サリオンの呪いは容姿だけではなかった。離宮で晒す姿は夜になると魔獣に変幻するのである。
アーロンにはそれを告げられず、サリオンは兄に連れられ王領地の魔の森の入り口で金の獅子型の魔獣に出会う。変幻していたサリオンは魔獣に懐かれるが、二日の滞在で別れも告げられず離宮に戻る。
その後魔力の強いサリオンは兄の勧めで貴族学舎に行く前に、王領魔法学舎に行くように勧められて魔の森の中へ。そこには小さな先生を取り囲む平民の子どもたちがいた。
サリオンの魔法学舎から貴族学舎、兄セシルの王位継承問題へと向かい、サリオンの呪いと金の魔獣。そしてアーロンとの関係。そんなファンタジーな物語です。
一人称視点ですが、途中三人称視点に変化します。
R18は多分なるからつけました。
2020年10月18日、題名を変更しました。
『婚約破棄王子は魔獣に愛される』→『婚約破棄王子は魔獣の子を孕む』です。
前作『花嫁』とリンクしますが、前作を読まなくても大丈夫です。(前作から二十年ほど経過しています)
【完結】白い塔の、小さな世界。〜監禁から自由になったら、溺愛されるなんて聞いてません〜
N2O
BL
溺愛が止まらない騎士団長(虎獣人)×浄化ができる黒髪少年(人間)
ハーレム要素あります。
苦手な方はご注意ください。
※タイトルの ◎ は視点が変わります
※ヒト→獣人、人→人間、で表記してます
※ご都合主義です、あしからず
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる