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エナグラのスワラ
しおりを挟む部屋はベッドが二つ、お風呂とトイレは共同だった。
この国の宿としては、普通より少し良い部屋だそうだ。
トルクの部屋は当然最上級で、お風呂もトイレも綺麗な物が別室にあった。
まぁ、別に構わないけど。
昔家族でキャンプに行った時はもっと大自然の恵み的な感じだったしね。
「サキエラ、食事は何を食べるのだ?」
「割となんでも食べられます。
好きなのは果物です」
この世界に来て初めて食べたのは、甘い木に生ってた果物だった。
「獰猛な肉食と聞いていたが、サキエラは違うのだな」
「あ、えっと、僕は弱虫だったので…」
生肉とか狩りとか出来ないし、美味しく焼いたお肉は好きだけど…。
「その綺麗な容姿に、合ってる。
お前は今まで頑張って来たんだ。
決して弱くなんかないからな。」
んんん?
これって…。
「ありがとうございます」
心苦しかった。
だって、僕は鳥獣人じゃないし、スワラの気遣いに申し訳ない気持ちになった。
こうやって、ちゃんと考えてくれる人だっているんだし、ライハンの為に何か協力できる事が無いか探そうって。
おこがましいとは思ったけど、何かをしなくちゃいけないって衝動に駆られた。
「スワラ様、僕の事は大丈夫です。
貴方の気持ちが他にも伝わるといいですね」
僕はずいぶん大人になったと思った。
自己満足だけどね。
コンコンコンコン
「スワラ、サキエラ、この国の知り合いに会いに行くから支度できる?」
トルクが、挨拶と言ってるのは、二人の母であるこの国の王の義弟だとすぐ理解できた。
二人からの伝言を伝える役目があるし、なるべく早く会って最近のこの状況を確認したかった。
「もう、約束はしてあるから
この近くの魔道具屋で待ち合わせてるんだ」
観光や買い物ですれ違ったように見せる手筈をこの短期間で取付けていた。
「サキエラはそのままで良いよ。
スワラは、そうだね…
先に魔道具屋に行っててくれるかい?」
「畏まりました」
トルクはそう言って、スワラを先に出かけさせて、僕の腰を抱き寄せた。
「誰が見ているかも分からないのにダメです!」
「咲季…、こんなことなら」
「もしかして、今回のことを旅行か何かと勘違いしてないですか?」
「いや、まぁ、ちょっとだけ新婚さんっぽくって思ってたよ。
だって、咲季と旅行したのって、あんまりいい思い出の無いあの道中だけじゃない
それからは咲季を悲しませたり、あんな日々を過ごすのは嫌なんだ。
本当なら、あの国も出て、誰も知らない二人っきりの国で暮らしたいって思った程だもん」
だもんってなんだ、だもんって!!!
「スワラは僕が鳥獣人で、奴隷だったって話したら
辛い思いをしたなって、気遣ってくれましたよ。
それなのに、態と先に行かせましたよね?」
「う、はい。
だって部屋も別だし、もしかしてスワラがそんな気を起さないとも限らないし!」
「なら、スワラには事情を話そうよ、ね?」
こんな押し問答をしていた時に、先に行ったはずのスワラが戻って来てしまった。
「何をしてるんですか!!」
「あ!!」
トルクが声を上げて、僕の腰に回っていた手を振りほどいたけど、時は既に遅かった。
「サキエラ!!!
お前には、釘を刺して置いたはずだ!
トルク様も、サキ様がいらっしゃるのに何をやってるんですか!!
この国の王と同じような事をしないでください!!」
「どういうことだ?」
スワラの最後の言葉に、トルクは顔色を変えた。
「あ、いえ、」
「この国の王は何をしている?」
「近々、毛色の変わった子を娶ると」
「ハランはどうなった?」
「ハラン様は、王宮を追い出されて、城下で暮らしています」
「その報告は上がっていなかったが?」
「トルク、ハランってトリシュとマナイの?」
気色ばんでるトルクの袖を引っ張って、ハランと言う名前の人物を確認した。
「そうだ、ハランはこの国の伴侶として嫁してきたはずだ。」
「なんで、城下に?
スワラ、何を知ってるの?」
僕が詰め寄ると、お前に関係ないと言われて、僕は擬態を解いた。
「じゃぁ、改めて、トルクの伴侶咲季です。
ちゃんと話を聞かせて」
「まさか!!」
「取り敢えず、待ち合わせに向かう。
咲季、隠しなさい」
言われて、鳥獣人の擬態を纏った。
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