子豚のワルツ

ビーバー父さん

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エナグラへ

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鳥獣人に擬態した僕は、偽名を付けてもらった。

サキエラと呼ばれる事になった。
生活を支えられるように、大きく強い方にエルが最後に付き、卵を産み育てる方がエラがつくそうだ。

だから、サキエラ。

それはどうなんだ?と思う。
僕だって、男に生まれたんだから、サキエルでも良いじゃないか、と言いたかったけど全員から却下された。

「トルク、ライハンの言葉とか無いのかな?
 練習しなくて大丈夫かな?」

「卵から孵化した時にはこちらで生活していた、だから、知らないでいいよ。
 それに今、国外にいる子は卵の時に盗まれて来た子だよ。
 だから、知らなくても不思議じゃ無い。」

「酷い。
 お父さんやお母さんを知らずに、インプリンティングされて、嫌なことや苦しい事をさせる道具にするなんて」

僕は、怒りと悲しみで胸の奥が重く苦しくなった。

「鳥獣人は、その綺麗な見た目と裏腹で性格はいたって、獰猛なんだよ。
 だから、殺しとか暗部に向いてる。
 その為に背中の羽を切り落とされるせいで短命だと言われている。」

「神経繋がってるのに!?」

「そうだ。」

「それを許してるわけじゃない。
 法の抜け道や、高位の者が関わればどうにもならないのだ。」

どこにも持って行きようの無い憤りだけが、僕の中に残された。






エナグラまでの旅は船で7日程で到着した。

お約束のフードを深く被り、下船すると、トルクを見知った人がすぐに近づいてきた。

「トルク様、お待ちしておりました。
 ワイス様より指示を受けております。
 宿はこちらで手配いたしました。」

トルクに話しかけてきたのは、普通の若い男性で、顔色が悪い以外には特に特徴は無かった。

「サキエラ、うちの暗部の者だ。
 怖がらなくていい。」

この人にも、鳥獣人で通すのか。
既に、演技は始まっていた。

コクリと頷いた。

「君、名前は?」

トルクが珍しく暗部の人に名前を聞いた。
彼は一瞬、目を見開いてすぐに伏せた。

「スワラと申します。」

「よろしく頼む、スワラ」

彼がトルクの横に僕が少し後ろに下がって付いて歩いた。
背中の翼は、どうやってもフードコートの下から少しだけ出てしまい、ギリギリ引き摺るか引き摺らないかのとこだし、背中の盛り上がりは奇異だった。

あちこちから、鳥獣人だ、鳥獣人がいると囁かれ、見た目に反して獰猛で、肉を食い散らかすと言われていれば、遠巻きにするのも頷けた。

中には値踏みするような目を向ける輩もいたが、側にトルクを見つけるとギョッとした顔もしながら、ニヤニヤと嫌な笑いを浮かべた。

「トルク様、こちらの宿で二部屋用意致しました。
 取り敢えず7日分の宿泊費は支払い済みですので、入り用な物があればお申し付けください。
 私はこちらの鳥獣人のサキエラと部屋におりますから。」

「え、あ、そうだな。」

トルクったら、おバカさんだ。
サキエラと咲季は別人なんだから、同じ部屋はまずいし、自分の身分を分かってないんだから。
サキエラはあくまで、保護した鳥獣人で立場は使用人と変わらないんだよ?分かってる?と言う目を向けてやった。

ふふんだ。

「サキエラ、こちらが私達の部屋になる。
 言葉は大丈夫か?」

「はい、生まれた時からこちらの奴隷でしたから」

「ふぅー、そうか辛かったな。
 お前が、さき様より早くトルク様に出会えていれば、伴侶にもなれたかもしれんが、残念だが無理だ。
 あの方々は言祝ぎの誓いで繋がっている。
 努努、忘れるで無いぞ。」 

「はい」

真面目で誠実な人なんだと好感が持てた。

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