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初めての喧嘩
しおりを挟む衝撃音と、建物の揺れに僕はビックリして涙も止まった。
急いでタオルを巻き付けたとこまでは良かったんだけど、そこから一歩を踏み出すのに時間がかかった。
ガクガクと力の入らない足腰で、バスタブを出るまでに物凄く時間を要した。
その間も衝撃音が響く。
建物もビリビリと揺れた。
文字通り、生まれたての小鹿状態で、部屋へ行くと、半獣化してるトルクとワイスさんが、まるでトキとラオウの様な世界を繰り広げていた。
「あらお風呂出たのね」
「拭きましょう」
「着替えましょう」
「飾りましょう」
「行きましょう」
「え、でもワイスさんとトルクが!!」
既にトルクはボロボロだった。
「咲季様をあれほど泣かせて、私は育て方を間違ったようです」
「すまなかった、私が、悪かったんだ!!」
「わかりますか?
咲季様は泣きながら、死にたいと、そうおっしゃったのですよ!」
「まさか、ほんとか?」
「えぇ、貴方の無茶な要求をあんな小さな体で受け入れてくれる健気な方に、貴方は何と言う事をしたんですか!!!」
トルクは僕を見つけて、蒼白になりながら、ごめんねって謝ってくれた。
「咲季、ごめんね、本当にごめんね」
「トルクの前でだけならいい、でも他の人がいるようなところで、あんな事二度としないで!!!」
本気で怒ってるのがやっと伝わったのか、耳が垂れて、尻尾が股に入ってた。
もう、こんなぺしょんな姿見たら許すしかないじゃん。
だって、憎いわけじゃないもん。
「僕も、嫌いって言ってごめんね」
そう言ったら、急に耳もピンと立って、尻尾も、ぴーんと張った。
「咲季、咲季、大好き、大好きだから、嫌いにならないで」
「もう、仲直りのお約束は?」
「仲直りのキス」
「そうだよ」
僕たちは、キスをしてごめんねって言い合った。
ワイスさんに怒られてるトルクは、ほんとに可愛かった。
彼の前ではきっと子供の頃みたいに甘えられるんだね。
「坊ちゃま、十分反省してくださいね
さて、準備に入りましょう」
僕は使用人さんたちのおかげて、着替えだけは済んでいた。
昨日着た服に、また少しアレンジが加わっていたけど、もう気にしない。
例え、ニーハイの白い靴下に、昨日より短い短パンになっていたとしても。
小学生じゃないんだけど。
凄く短い短パンだからって、しっかりホールドする下着に、ニーハイの靴下を止めるガーターまで。
女性が使うガーターじゃなくて良かったけど。
「咲季、ちょっと丈が短くない?」
「僕もそう思うよ」
「ねぇ、ワイス、これじゃ、横から大事な可愛いペニスちゃんが見えちゃわないかい?」
そこ!!!
ねぇ、そこなの?
見えるとしたらハミ玉だ!
僕のおちんちんは小さいから見えるわけない!
「えぇ、ですからしっかりホールドする下着で補正させていただいてます」
「なら安心だね。
これは兄上たちもびっくりするなぁ」
うん、ある意味育てたのはワイスだ。
そして間違ってるのもワイスだ。
宰相トルクとか英知トルクとか、この数日でどこかへ旅に出たんだろうか?
僕が現実逃避してる間に、トルクも着替え終わってた。
銀糸の髪が結い上げられて、白いローブを斜めに掛けて出来上がったのは、第三王子だった。
何度も見惚れて、何度も惚れ直して、何度も好きになった。
「トルクは王子様だね。
僕だけの王子さまでいてね?」
「咲季もだよ?
僕だけの可愛い王子様でいてね」
「では、お二人とも、帰国です。
よろしいですね」
ワイスさんと使用人の人たちも、黒い礼服に着替えて先頭をワイスさん、僕たちの両脇に二人ずつ、最後に一人がついた。
「心配いらないよ。
彼らは暗部の者たちだから、大抵の厄介事は知られる間もなく片付けてくれるからね」
そんな凄い人たちが、使用人としてこの国を守ってるんだ。
それじゃ、アサルトとかのことを弱いって言うわけだ。
ワイスさんも、トルクと互角にやっていたような気がするし、すごいなぁって感心しながら馬に乗った。
トルクたっての希望、後ろから僕を抱っこして馬で入国、ね。
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