子豚のワルツ

ビーバー父さん

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勇者の意味

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有末にこの世界の事を教える為に、王太子の時に使っていた執務室へ有末を招き入れた。

王自らトルクと有末の勉強会に参加する訳にはいかないので、執務室内でだけ僕は子豚に戻って、トルクとの様子を確認する事にした。
ただし、レオハルトからは抱っことか非常事態以外はさせてはいけない、と言う約束の下にだけど。

「さきちゃん、抱っこしましょうか?」

デレデレの顔で抱っことか言われても怖いだけなんだけど。

トルク様はちゃんとして!
〔ぷきゅぷきゅきゅぶいぷ!〕

子豚に戻ると会話は通じないみたいだ。

「さきちゅわ~ん!」

やだ!
〔ぶきゅ!〕

蹄で必死に抵抗していたら、有末がその様子を見て、首を傾げた。

「トルク様、子豚に"さき"なんて名前をつけてるんですか?
 それ、魔獣ですよね?
 従魔契約してるんですか?」

立て続けに聞いて来た。

「さきちゃんは、この国の至宝です。
 何よりこの可愛さ!
 この体型も全て愛らしい!」

トルク、これ、マジで言ってるわ。

「至宝?ですか?
 どうして、豚が至宝なんですか?」

「この存在自体が奇跡なんですよ
 この可愛さが奇跡!」

ただの変態チックな表現をするキモい奴になってるぞ。
会話が成り立っていないきがするのだけど、トルクは気にしない様子だし、少し離れた所で見ていた。

「この世界は獣人しかおりません
 従魔契約をご存知の様でしたが、教わりましたか?」

「あー、私の世界の中の娯楽にそういった遊びがあるんで、そうかな、と。」

「そうですか。
 魔獣と言われる子たちと契約をする事で従魔とできます。
 私たち獣人は獣化しますが、魔獣は人化する事はできません。」

獣人と言われても、レオハルトもそうだけど人と全く変わりが無い。
よくあるケモミミがあるわけでも無いから、最初は、キラッキラの王子様としか思わなかったしな。

「そうなんですね。
 私も従魔が欲しいなぁ。」

「従魔は愛玩動物ではないですから、契約はよく考えてしてください。
 あと、契約できる子、できない子がいますからね。」

にっこり笑って当たり障り無い話をしていた。
トルクもコイツが、従魔を弄ぶように殺しているのを、レオハルトから聞いているから。

「私は、向こうの世界で豚を飼っていたんですけど、事故で亡くしてしまって。
 このさきちゃんを見ていたら思い出したんですよ。
 せっかく可愛がって、お菓子とかご飯とかたくさんあげていたのに、目を離した隙に外へ出たみたいで、車に轢かれてペシャンコでした。
 その時、山際もいたはずなんですが、死んだのは私の豚だけで、会えたら事情を聞きたかったんですよ。
 あいつも、豚を凄く可愛がっていたから。」

コイツ、絶対狂ってる!
僕はコイツらに殺されたんだ。

「名前も同じ咲季だ」

「さき、いい名前です。
 こちらの言葉で、言祝ことほぐと言う意味なんですよ」

マジ?
マジなの?
いや、なんか胡散臭!

「そうですか
 私の所では漢字と言うのがあって、
 それに意味があるんですよ
 季節に咲くで咲季でした。」

「それはまた、きっと大事にしていたんですね。
 お寂しい事でしょう。」

いたぶる相手が居なくなって寂しいって事か。

「まあ、次を探します。
 さあ、勇者が必要な理由を教えてください」

話題を切り替えると、この数千年の間に魔王が出たことは無いが、度々、災害級の魔物が生まれているそうだ。
その討伐の為に、勇者候補が生まれている。
ただ、勇者候補の基準がこの討伐の為だけならば、わざわざ召喚する必要もない気がする。
ここの住人たちは十分強いからだ。

「この世界にも多くの候補がいます。
 生まれながらに勇者の称号を持っていて、勇者選定を受けるかどうかでその後の人生が大分変るようです。」

「選定を受けなければどう変わるんですか?」

「称号が消え、村人やスキルがあれば冒険者になったりですね」

「今まで受けた者たちから勇者は出ていないのですか?」

「勇者は残念ながら出ていません。
 選定は、この王宮の地下にある迷宮から出る事だけです。
 ドロップアウトを宣言すれば、そのまま元の生まれた場所に戻ります。
 迷宮で朽ち果てる者もいるようです。」

「ドロップアウトは候補の称号が消えるだけですか?」

「いいえ、スキルも消えてしまいます。
 そして、数年のうちに寿命が来て無くなるものが殆どです。」

「迷宮に行ってもクリアできなければ、短命 
 行かなければ、ただの人として人生を全うするということですか?」

「そうですね。
 ですから、受けなくてもいいのです。
 災害級とは言え、我らの世界の事。
 召喚者ではなく、この世界に生きる者たちで解決するのが筋でしょう」

トルクは憂いを含む様にその言葉を出した。

自己責任だと。
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