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最愛の彼
しおりを挟むやめてくれ。
これ以上私にミラを憎ませないでくれ。
言葉にならない叫びをあげていた。
「あああああああああ!!!」
その叫びを聞いた監視としていた騎士が駆けつけてくる音が聞こえた。
「リュシアン卿! 如何なさいましたか?!」
牢の鉄柵を魔法で広げると、その中で横たわる彼を抱きしめた。
「急いで治癒が使える者たちを集めてくれ!!
私の治癒力では難しいかもしれない! 早くしてくれ!」
騎士たちが使うカラスの伝令鳥を使うと、治癒力が強い魔法使いが数名集まってくれた。
なぜ銀色なんだ! 緑か青であれば治癒に特化することができたのに!
中途半端な銀色は確かに攻撃力に優れた魔法を使えるが、治癒的なことにはほとんど使えない。
母様の金色であれば、緑や青の持つ治癒に匹敵する力が出せたのだろうか?
否だ。
あくまで魔力量が多いという部分で治癒のように不得手なことを、その魔力量で補うだけだから、治癒を得意とする魔法使いが瞬時に治せる傷を数時間かけて治すようなものだった。
「リュシアン卿、この者の治癒はミラ様より金色の魔法使い様の命を狙ったということで最低限の延命と言われておりますが、嫌疑が晴れたのでしょうか?」
ミラが彼らに通達ししているのは、だいぶ悪意が込められていた。
「彼は母上を庇い助けた者だ!
何故このような状況になったかは未だ定かではないが、この者の意識が戻らねば聴取もできぬではないか!
ミラは一体何を考えているんだ!!」
憤りにも似た怒りが湧いてきた。
いくら俺の大事な人だと知らなかったかもしれないが、説明された状況を聞いても彼が庇ったことは明白だった。
ただ、なぜ母様が彼のところへ行ったのかが分からなかった。
それだけだ。
「彼のおかげで母上の命を助けられたのに、これ以上どんな嫌疑があるというのだ?」
「は、はい! 急ぎ!」
数名がそれぞれの部位の治療を始めると、傷だけは塞がったが彼の意識は戻ることはなかった。
魔力の限り手を尽くしてくれた、それは理解できる。
誰もが精いっぱい俺の命令を遂行しようと必死に魔法を使ってくれていた。
それでも、彼の意識が戻ることはなく、ただ息をしてるだけの「彼」という人形のようだった。
「リュシアン卿、これ以上は無駄だと思います」
一番治癒に長けていた魔法使いがそう判断した。
「そう、か。
このままだと、どうなるんだ?」
「眠った状態では、いずれその命を維持できず亡くなってしまいます」
無情にも望みは薄いという現実を突きつけられた。
「あの、兄さま? どうし」
「うるさい」
治癒しの話を聞いたミラが伯父様たちを伴って現れ、後ろから声をかけられたがその甘えるような声にすら怒りがこみ上げた。
「この方は母様を救っては下さいましたが、この方のところへ母様が行かなければ」
「行ったのは母様だろ! 彼が呼びつけた訳がないんだ!
もっと早くちゃんと治癒を使っていれば、今は目を覚まして笑ってくれていたかもしれない!
それを、それをよくも、お前は……!!」
「兄さま、どうしたんです? 一体、なんで」
「うるさい、うるさい! うるさい!!
ミラ、お前のことを憎ませないでくれ! だから、ここから出て行ってくれないか」
「リュリュ、一体どうしたのだ?
彼は知り合いなのか?」
「えぇ、私の最愛の人です。
休暇明けには、伴侶として紹介するつもりでした」
彼の眠るベッドの側で、祈るようなポーズのまま跪くと、自分の魔力を分け与えるように流した。
魔力質が違うから、流しても受け取れないだろうとは思うけど、少しでも刺激を与えて彼が目覚めないかと願った。
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