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惨状
しおりを挟むどこでも〇〇は母様の居室の扉と繋がった。
「母様! 何があっったんだ!?」
ベッドの周りに立つ、父様、ミラ、伯父上たちや医者なんかを押しのけて枕元へ割り込むと、血の気のない白い色の顔がまるで死期を暗示しているようだった。
「リュシアン!」
「兄様!」
「リュリュ!」
口々に私を止めるけど、息をしてるのか確認したくて震える手で頬を撫でた。
「暖かい……、だが」
「うん、血が流れすぎたみたいで、でも、もう命に別状はないんだよ」
だから大丈夫だとミラは言いたげだった。
「シアンが受けた傷よりも、たまたま、いや、シアンが何か話したらしい人のほうが重症なんだ。
何を話したか分からないんだが、急に走り出そうとした、という証言も出ていて」
「父様、庇った方じゃなかったのか?
それに亡くなったと」
「シアンが、襲われながら、治癒をしたんだ……」
誰に? その庇った人が? だから魔法が使えなかったのか……?
「間に合ったんだ。
その人は襲われそうになった母様を庇うために戻ってきて、間に割って入ってしまって……、切り付けられたらしいんだ。
だけど、母様も犠牲になりながらだったから、あの人は重体で、意識が戻らない。
そして、その人が庇わなかったら、今、母様はここにいなかったと思う。
庇ってくれたから、騎士たちが駆けつける時間が出来たんだ」
「なんで母様はその人のところへ? しかも護衛もつけずに?
ほかに犯人がいるということだな! 捕まえたのか?!」
分からないと、皆が一様に首を振った。
状況が曖昧過ぎて理解できることが少ない事にもイラついた。
「分からないってどういうことだ!
皇族に連なる、しかも金色の魔法使いが襲われたのに、犯人の一人や二人なんで捕まえられないんだ!
母様を庇った人はどこにいるんだ? また襲われるかもしれない」
犯人が捕まったとは聞いていないし、狙いが母様だったとしても邪魔をしたその人も狙われて当然だと思った。
「あの、あのね、その人は重要な参考人として地下牢で治療を受けてるんだ」
地下牢にと言うのも分からなくはない措置だが、状況的に見れば恩人に当たるのにいくら何でもそれは国民感情的にもよくないだろう、と言うと、それを決めたのはミラだった。
「ミラ、なんで地下牢なんだ?
治癒院とか場所は選べただろう?」
「だって、だって、逃げようとしたって聞いたから!」
普段ならこういう強引はわがままじみた行為も許せるが、この状況では許せなかった。
「分かった、私がその人を治癒院へ移動させて監視下に置こう」
「兄様がそんなことしなくても」
「ミラ、お前は殿下の評判が下がってもいいのか?
国民はそのシーンを見ているんだろ?」
黙って俯く弟に、イラつきを隠せなかった。
地下牢の寒々しいベッドに横たわる人物を見つけた瞬間、血の気が引いた。
「ど、いうこと、だ?」
そこにいたのは、一生の伴侶として迎えようとしていた、彼だった。
「う、そだろ? おい、目を開けてくれ!!」
意識不明の重体、まさに死体と思えるほど微動だにしない体が横たわっていた。
これが現代社会なら、人口呼吸器で生かされている、そんな状態だった。
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