上 下
38 / 116
天界よいとこ一度はおいで

本当の事は

しおりを挟む



痛みで泣きそうだ。
そう、痛みで。
きっと涙が出ても今なら、誰も気づかないさ。

「イズラエル、意識が戻ったって!
 大丈夫か?!」

ミカエルとウリエルが飛び込んで来た。

「お二人とも、お仕事は?
 こんなとこに来て、サボったらダメですよ」

笑えた。

これ以上はないくらい、綺麗に笑えたと思う。
壊れてしまいそうな気持ちに蓋をして、何でもない事のように振る舞おう。

「イズラエル、そんな事は重要じゃない!
 ウリエルの寝室で刺されたんだ!
 ちゃんと話しなさい!!
 誰かを庇ってもムダだ、言いなさい!」

「転んで」
「最初に、刺されたんだって言ったよ」

そうだ、そんな風に口に出てしまったんだ。

「ね?
 庇う事で、誰を守ろうとしてるの?」

口を開いたらボロが出てしまう。

首を横に振るしかなかった。

「ウリエル、様
 部屋を汚してごめんなさい」

「そんな事はいい。
 猿轡までされて、腕ごと簀巻き状態になってれば、自分で転んだなどと言うのはおかしいんだ。
 まさか、和郎をかばってるのか?!」

「違う!
 和郎さんは関係ない!」

「なら、ハルカの言う通り、誰かを部屋に連れ込もうとしてやられたのか?」

あいつ、まだ、そんな事を。

「……ちが、う」

瞳に涙が盛り上がるのが分かった。
涙が溢れて、溢れて止まらない。
あいつの言う事を信じてしまうの?

バンッ!!

「俺が関わってます!!」

扉を開けて入って来たのは、あの力天使だった。

「ヴァーチュースの君が?」

ウリエルが鋭い眼光で睨みつけた。

「はい、俺がこの子を捕まえて、連れて行こうとしました。」

「何故だ?」

「ウリエル様のとこのハルカと通じている所を見られたので、殺してでも黙らせようと思いました。
 ですがあまりの綺麗さに、俺のものにしようとして、連れ去ろうとしました。
 この子が欲しかった。
 この綺麗な顔に笑顔をのせて、俺の名を呼んで欲しくて、無理やり連れて行こうとしたんです。
 それをハルカが追い縋るので、吐き捨てたら、逆上して後ろから刺されそうになったのをこの子が庇って刺されてしまいました。
 俺は、おかしくなっていた。
 ハルカが刺したことにも、ハルカと通じた事にも。
 この子の目を見てから、罪悪感や今まで自分がやった事が許せなくて、懺悔と処罰を受けに来ました。
 許してくれ。」

俺に頭を下げる彼を許さない訳がなかった。

「良かった
 ありがとう、ございます。」

泣き笑いになってしまったけど、力天使様の本当の姿はこっちなんだ。
なんて潔いんだろう。

「では、処罰を」
「まって、待ってください
 メタトロン様!
 この方は謝って、きちんと告白してくれました!
 処罰を無くしてくれとは言いません、
 ですが、少し軽くしていただけませんか?
 僕はこの方を許していますから」

「イズくん
 君は何処まで優しいんだ。
 最初に言ったように、君の前では本性を晒してしまう者がほとんどだろうな。
 確かに、この力天使がこんな風になるのは余りにもおかしい。」

メタトロンが、ハルカ絡みの行動のおかしさに、声をあげた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

膀胱を虐められる男の子の話

煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ 男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話 膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)

だから振り向いて

黒猫鈴
BL
生徒会長×生徒会副会長 王道学園の王道転校生に惚れる生徒会長にもやもやしながら怪我の手当をする副会長主人公の話 これも移動してきた作品です。 さくっと読める話です。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

平凡な俺、何故かイケメンヤンキーのお気に入りです?!

彩ノ華
BL
ある事がきっかけでヤンキー(イケメン)に目をつけられた俺。 何をしても平凡な俺は、きっとパシリとして使われるのだろうと思っていたけど…!? 俺どうなっちゃうの~~ッ?! イケメンヤンキー×平凡

勇者の股間触ったらエライことになった

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
勇者さんが町にやってきた。 町の人は道の両脇で壁を作って、通り過ぎる勇者さんに手を振っていた。 オレは何となく勇者さんの股間を触ってみたんだけど、なんかヤバイことになっちゃったみたい。

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

処理中です...