上 下
22 / 36

22

しおりを挟む



 神族の戸籍を死亡で届け出られるのは、神族の族長しかいない。
 それはこの国では常識であった。

「族長本人がトウカを差し出したのか、それとも神族の誰かなのか。
 この戸籍が死亡で、公爵の力で新しい戸籍を作ったのか……」

 神族へ接触するのは容易いし、神事を個人的に依頼することもあるが族長と関りを持つのは難しかった。

「トウカ殿の神族としての戸籍は難しいが、新たな戸籍と言うのであれば、公爵でなくとも私でも出来る事だ。
 あとは本人がどうしたいか、と言う事になるな」

 もし、神族として生きたいと言うのであれば、戸籍を抹消した族長に連絡を取り復活させる手続きを、神族側にしてもらわなければならなかった。

 意図してトウカを差し出したなら、その接触は危険としか言いようがなかった。
 
「何としても、トウカ殿をこちらへ来させないと、公爵家から出る理由が必要だな」

 前に聞いた年二回の親子の逢瀬を利用できないだろうか、とザクロは考え公爵家へ申し入れの手紙を出し、答えを待つことにした。
 一番早いタイミングは三週間後のテイトの誕生日だった。

 手紙を出してからすぐに返事が届き、公爵側はトウカをこちらの屋敷で一晩は過ごさせることを約束した。
 その為に差し出した物は、高価な葉巻や織物、それに、ヒヒ爺が好みそうな媚薬と称した幻覚系のハーブを付け加えた。

 この計画は既に風の子を通してトウカに伝えられていたので、贈り物として入っていた幻覚系のハーブを使い公爵にはいい夢を見て貰う事にした。




 テイトの誕生日は執事見習いの子らと使用人たちが、盛大に準備を凝らしていた。
 広間には沢山の花々が飾られ、食がまだ細いテイトの為に、小さなオードブルやメインの肉や魚も細かく練り込んだものや、細工された野菜などに飾られて、目にも楽しい物になっていた。

「旦那様、テイト様、トウカ様が御着きになられます。
 先ほど門番より連絡が入りました」

「テイト、トウカ殿を出迎えよう」

「はい!」

 綺麗に着飾ったテイトをエスコートするようにザクロが肘を出すと、嬉しそうに手を伸ばして絡めた。
 その仕草に満足したのはザクロと屋敷の者たちだった。

「ようこそお越しくださいました」

「お会いしたかったです」

 それぞれが馬車から降りて来たトウカに挨拶をし、その挨拶を受けて屋敷内へと歩き出した。

「テイト、本当に綺麗に治ったんだね」

「はい、神様が治してくださいました」

 歩きながらテイトの傷が綺麗に治ってる事をトウカが嬉しそうに見ていた。
 初めてのザクロの屋敷は公爵家と比べても遜色がなかった事を確認すると、トウカは先に提案されていた神族側から死んだことにされたやり方と同じ方法で公爵家から自由になる事を決めた。

 これだけの屋敷や使用人たちが維持できるなら、対抗できる手段があると言うのも本当だろうと思ったからだった。

「ザクロ殿、テイトを大事にして下さってありがとうございます。
 まぁ、前の事はこの度の提案で水に流しましょう」

 綺麗な顔で鋭利なナイフの様に切り込まれた。

「はい、そう言って頂けて助かります」

 ザクロがトウカに負けた瞬間を見た執事が、珍しく声を上げそうになっていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうやら俺は悪役令息らしい🤔

osero
BL
俺は第2王子のことが好きで、嫉妬から編入生をいじめている悪役令息らしい。 でもぶっちゃけ俺、第2王子のこと知らないんだよなー

誰よりも愛してるあなたのために

R(アール)
BL
公爵家の3男であるフィルは体にある痣のせいで生まれたときから家族に疎まれていた…。  ある日突然そんなフィルに騎士副団長ギルとの結婚話が舞い込む。 前に一度だけ会ったことがあり、彼だけが自分に優しくしてくれた。そのためフィルは嬉しく思っていた。 だが、彼との結婚生活初日に言われてしまったのだ。 「君と結婚したのは断れなかったからだ。好きにしていろ。俺には構うな」   それでも彼から愛される日を夢見ていたが、最後には殺害されてしまう。しかし、起きたら時間が巻き戻っていた!  すれ違いBLです。 初めて話を書くので、至らない点もあるとは思いますがよろしくお願いします。 (誤字脱字や話にズレがあってもまあ初心者だからなと温かい目で見ていただけると助かります)

君のことなんてもう知らない

ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。 告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。 だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。 今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが… 「お前なんて知らないから」

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

孤独な王弟は初めての愛を救済の聖者に注がれる

葉月めいこ
BL
ラーズヘルム王国の王弟リューウェイクは親兄弟から放任され、自らの力で第三騎士団の副団長まで上り詰めた。 王家や城の中枢から軽んじられながらも、騎士や国の民と信頼を築きながら日々を過ごしている。 国王は在位11年目を迎える前に、自身の治世が加護者である女神に護られていると安心を得るため、古くから伝承のある聖女を求め、異世界からの召喚を決行した。 異世界人の召喚をずっと反対していたリューウェイクは遠征に出たあと伝令が届き、慌てて帰還するが時すでに遅く召喚が終わっていた。 召喚陣の上に現れたのは男女――兄妹2人だった。 皆、女性を聖女と崇め男性を蔑ろに扱うが、リューウェイクは女神が二人を選んだことに意味があると、聖者である雪兎を手厚く歓迎する。 威風堂々とした雪兎は為政者の風格があるものの、根っこの部分は好奇心旺盛で世話焼きでもあり、不遇なリューウェイクを気にかけいたわってくれる。 なぜ今回の召喚されし者が二人だったのか、その理由を知ったリューウェイクは苦悩の選択に迫られる。 召喚されたスパダリ×生真面目な不憫男前 全38話 こちらは個人サイトにも掲載されています。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

旦那様と僕

三冬月マヨ
BL
旦那様と奉公人(の、つもり)の、のんびりとした話。 縁側で日向ぼっこしながらお茶を飲む感じで、のほほんとして頂けたら幸いです。 本編完結済。 『向日葵の庭で』は、残酷と云うか、覚悟が必要かな? と思いまして注意喚起の為『※』を付けています。

さよならの合図は、

15
BL
君の声。

処理中です...