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しおりを挟む神族の戸籍を死亡で届け出られるのは、神族の族長しかいない。
それはこの国では常識であった。
「族長本人がトウカを差し出したのか、それとも神族の誰かなのか。
この戸籍が死亡で、公爵の力で新しい戸籍を作ったのか……」
神族へ接触するのは容易いし、神事を個人的に依頼することもあるが族長と関りを持つのは難しかった。
「トウカ殿の神族としての戸籍は難しいが、新たな戸籍と言うのであれば、公爵でなくとも私でも出来る事だ。
あとは本人がどうしたいか、と言う事になるな」
もし、神族として生きたいと言うのであれば、戸籍を抹消した族長に連絡を取り復活させる手続きを、神族側にしてもらわなければならなかった。
意図してトウカを差し出したなら、その接触は危険としか言いようがなかった。
「何としても、トウカ殿をこちらへ来させないと、公爵家から出る理由が必要だな」
前に聞いた年二回の親子の逢瀬を利用できないだろうか、とザクロは考え公爵家へ申し入れの手紙を出し、答えを待つことにした。
一番早いタイミングは三週間後のテイトの誕生日だった。
手紙を出してからすぐに返事が届き、公爵側はトウカをこちらの屋敷で一晩は過ごさせることを約束した。
その為に差し出した物は、高価な葉巻や織物、それに、ヒヒ爺が好みそうな媚薬と称した幻覚系のハーブを付け加えた。
この計画は既に風の子を通してトウカに伝えられていたので、贈り物として入っていた幻覚系のハーブを使い公爵にはいい夢を見て貰う事にした。
テイトの誕生日は執事見習いの子らと使用人たちが、盛大に準備を凝らしていた。
広間には沢山の花々が飾られ、食がまだ細いテイトの為に、小さなオードブルやメインの肉や魚も細かく練り込んだものや、細工された野菜などに飾られて、目にも楽しい物になっていた。
「旦那様、テイト様、トウカ様が御着きになられます。
先ほど門番より連絡が入りました」
「テイト、トウカ殿を出迎えよう」
「はい!」
綺麗に着飾ったテイトをエスコートするようにザクロが肘を出すと、嬉しそうに手を伸ばして絡めた。
その仕草に満足したのはザクロと屋敷の者たちだった。
「ようこそお越しくださいました」
「お会いしたかったです」
それぞれが馬車から降りて来たトウカに挨拶をし、その挨拶を受けて屋敷内へと歩き出した。
「テイト、本当に綺麗に治ったんだね」
「はい、神様が治してくださいました」
歩きながらテイトの傷が綺麗に治ってる事をトウカが嬉しそうに見ていた。
初めてのザクロの屋敷は公爵家と比べても遜色がなかった事を確認すると、トウカは先に提案されていた神族側から死んだことにされたやり方と同じ方法で公爵家から自由になる事を決めた。
これだけの屋敷や使用人たちが維持できるなら、対抗できる手段があると言うのも本当だろうと思ったからだった。
「ザクロ殿、テイトを大事にして下さってありがとうございます。
まぁ、前の事はこの度の提案で水に流しましょう」
綺麗な顔で鋭利なナイフの様に切り込まれた。
「はい、そう言って頂けて助かります」
ザクロがトウカに負けた瞬間を見た執事が、珍しく声を上げそうになっていた。
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