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 ザクロに抱きしめられたことで、しっかり覚醒したテイトがこの状況に困惑していた。

「旦那様? えっと?」

「テイト、良かった、良かった!」

 使用人の子らもニコニコと笑い、執事に促されて部屋を後にすると、風の子らがテイトに話かけた。

「テイトったら、なんで目が覚めなかったのさ!」

「え、なんか頭がボーッとしたままで、眠くて仕方無かったから?」

 その言葉を聞いて、風の子らはテイトをポカポカと殴り始めた。

「バカバカバカ! 心配した! すっごく心配したんだから!!」

 ザクロに抱きしめられているせいで、その可愛い攻撃から逃げる術がなかったので、大して痛くもない拳を甘んじて受けていた。

「くすぐったいよ、ふふ、あはは」

 風の子と戯れる美青年の図はまるでお話しの中の様だったが、それを微笑ましく見るほど余裕が無いザクロは自分だけを見る様に強要した。

「テイト、お前はあの時の子猫だろ?」

 疑問と言うか確信していた事を直球でテイトに聞いた。

「え、あれ?
 僕、人間ですよね?」

 ザクロの腕を押しのけて、体を見渡したり頭を触ったりして最後に自分の手を見た。

「ああ、人間だ。
 だけど俺はあの子猫だと確信してる」

「違いますよ、だって死んじゃったじゃないですか」

「ふふふ、あっはっはっは、そうか、やっぱりテイトだったんだな!!」

 テイトは墓穴を掘ったことに気づかなかったが、ザクロはその言葉を聞いて踊りだしそうな程喜んだ。

「ありがとう、テイト。
 俺の所へ戻って来てくれて。
 もう、絶対に離さない。
 絶対に間違えたりしないよ」

 抱きしめてその肩に顔を埋めるザクロに焦ったが、テイトもザクロが幸せそうに笑う姿に笑った。

「ねぇ、もしかしてアンタが僕たちの声を聞けるのも、見えるのも、テイトの、つまり巫覡の本当の伴侶ってことだから?
 あの時、テイトを刺した奴だって僕らの事は見えも聞こえもしていなかったのに……」

 巫覡に連なる者として考えたなら、おかしなことではなかった。

「トウカ様は伴侶を見つける前に汚されてしまったから……、でも、それならテイトは何でこんな事に?」

 テイトは話すつもりは無かったが、ザクロが確信してる以上神様の試練は終わったのだ、と言い、魂の話を始めた。

「旦那様が危なかった時、思わず身代わりになったんだけど、猫の姿じゃ一歩間違えたら庇いきれずに刺されちゃったかもしれないじゃない?
 だから神様にお願いして人間の姿に生まれ変わらせて貰ったんです。
 残り八個の命と引き換えに。
 風の子達も知ってるけど、神様や精霊様は人の運命に介入してはいけない、が大前提だからいくら猫とは言え人になるならそのルールに従わなくちゃいけなかった。
 そして僕を産むことになった親様が風の巫覡だったからこの魂の不思議さを理解してくれるって、神様は考えたんだけどその試練として、旦那様の元へ自分から行ってはいけないって事だったんだ。
 本当に旦那様と縁が繋がっているなら、必ず側へ行けるからって。
 だから公爵家を逃げ出したくても、逃げなかった理由。
 そして君らがその手助けを過剰にしてたら、違う罰を受けたと思うよ。
 それに僕は旦那様が幸せなら、それで良かったんだ。
 僕にとっては運命だけど、旦那様は人間だったし、おかしいじゃない?」

 困ったように首を傾げる仕草が可愛すぎて、ザクロは前かがみになった。

「親様はそんな理由も知らずに、僕を旦那様の元へ行ける様にしてくれたんだ。
 だから、親様があの場所にいたくないなら、僕は助けに行こうと思って山を越えたんだけど、なんか悪い人たちが来たから、引き返して来た」

「分かった、その件は俺が何とかしよう。
 テイトの親御さんだ、俺にとっても義理の親だからな。
 恩を返すためにも、トウカ殿には幸せになって貰わないとな」

 テイトにとって、ならず者と言われ続けたザクロが、とても頼もしく心強い存在だった。

「ありがとうございます。
 旦那様が幸せになれるよう、一生懸命頑張りますね。
 あ、ジョスク様には謝りましたか?
 ちゃんと大事な人を守って差し上げないとダメですよ?」

 ザクロは唖然とした顔になり、自分の気持ちが一ミリも届いてない事を思い知らされた。

 愛してるって言ったはずなのに、と。



 
 

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