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しおりを挟む一連の騒動が決着を見せた頃、ザクロが医療室へと足を運んで来た。
「ご当主、このジョスクをこの度の共犯者として収監します」
二人の憲兵に両脇から抱えられるようにされて拘束されているジョスクをチラリと見ただけで、特に何も感情も見せなかった。
「旦那、様……、私を捨てるのですね。
あんな、バケモノのために、私は捨てられる……、ふふ、あはは、はっはっはっは!!!
いつかお前らみんな、ぶっ殺してやるから! 覚えてろよ!」
ジョスクが元々持っていた内面が現れた瞬間だった。
「その時は私の所へ来い、悪かったな。
テイトとは十八年前からの付き合いなんだよ」
ザクロが十八年前と言う事は、生まれた時からじゃないか、何だよそれ、とジョスクは笑いながら呟き、変態だな、と零した。
「ははっは、本当だな。
私は変態だ。
猫にすら欲情する変態だ」
手の中で失われて行く小さな命をどれだけ欲した事か、そして今その命が手元に戻って来てるのに手放すはずが無いだろう、と、ただそれだけなのにザクロはこの瞬間が嬉しかった。
「テイトが特別だから仕方ないんだ」
そう言って柔らかく微笑んだザクロを見て、ジョスクは諦めるしかない事を漸く飲み込んだ。
「私が賊を手引きして旦那様の伴侶であるテイト様を亡き者にしようと画策いたしました。
この罪を如何様にも償いたいと思います」
憲兵たちの前で、自らの罪を認めた。
先ほどとは打って変わって、憑き物が落ちた様に穏やかな、男爵と言う貴族の品位を見せたジョスクであった。
憲兵たちが引き上げると、屋敷内の広間に使用人や下男、下働きの子供までが集められた。
執事から何度か告られた、過ちについてザクロが決定を下すのだと、一様に震えていた。
お屋敷での働き口など、そうそう無い。
町で働くとしても日雇いか、安い賃金で重労働をする荷運びくらいしかなかった。
この職を失いたくない、失わずにすむ方法は無いか、そんな事で頭が一杯な連中の集まりになっていた。
「テイトが目を覚まさないんだ。
大きなけがをして、だが、神の奇跡で治療を施されたのに、食べていないせいでやせ細り体力的に回復が遅くなってるようなんだ」
ザクロが神妙な顔でそこまで言うと、下働きの子供が自分たちに食べさせて自分は食べていなかったことを教えてくれた。
「俺たち子どもが貰える食事なんて残り物しかないから、雑木林で何かないか探していたら、あの、テイト様が木の実や魚を食べさせてくれたんです。
自分はお腹いっぱいだからって、嘘だって分かってたけど、腹が減って死にそうだったから、いつも貰いに行ってたんです」
こんな下働きの子供の食事さえまともに与えない屋敷で、大人たちだけが私腹を肥やしているとは思ってもいなかった。
「そうか、テイトはそんなに」
「ですから旦那様! 俺たちの食事をテイト様にあげて下さい!」
バケモノだと謗るのは大人たちで、子供は食べ物の恩を忘れず目を覚まさないテイトに、自分の食事を分け与える事を望んだ。
「お前たちの食事すらまともな量が無いのに、テイトに渡してよいのか?」
「良いんです! テイト様が教えてくれたように、僕らも林の中で木の実や魚を獲ればいいんです」
そうか、とザクロは納得した。
「執事、お前の仕事振りは抜けが多いな。
まぁ、元々私の舎弟だったのだから、このような事には疎いか」
「執事さんは悪くないです。
ちゃんと僕たちに食事をする様にしてくれてたんです! でも、その、他の人達とか、ジョスクさんが」
執事の命令を覆して、このような事が出来るのは伴侶然としていたジョスクだけだろうと、容易に想像出来た。
「それでもだ。 執事は減俸。
使用人はテイトの生活費を着服した者全てに返済と賠償を。
本来の仕事を押し付け、食事や身の回りの世話という仕事を怠った者は解雇。
総合的に見て下働きの子供たち以外、全員解雇するようだな」
最初から解雇を言い渡したかったザクロだが、尤もらしい言葉で処分を下した。
「そんな! 旦那様! これからは誠心誠意尽くします!
テイト様が悲しまないように、しっかりお世話をしますから!」
「ちゃんと返済します! 一番金をとってたのはジョスクです! 悪いのはアイツなんです!!」
土下座をする者、泣き叫ぶように謝る者、家族がいる生活が出来ない、そう言い訳しながらどうにか残して欲しいと懇願する者ばかりだった。
「ふぅ、一月だけ猶予をやろう。
これからの働きをみて、私か執事がダメだと判断したら、その場でクビにする」
「はい! 絶対、二度とこのような事は起こしません!!」
ザクロを拝む様に使用人や下男たちは感謝の言葉を述べた。
「だが、このままの働きでは到底評価は出来ない。
使用人、下男の全員が下働きからやり直せ」
下働きの子供達を抜いて、他の大人たちを降格させた。
そして、一番年嵩の下働きの少年たち数人を使用人として昇格させ、下男として使えそうな下働きの子供や新たに雇う人数を執事に決めさせた。
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