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しおりを挟むテイトの側でザクロは夜を明かした。
風の子達が治した傷は問題がなさそうなのに、テイトは目を覚まさなかった事に不安で離れる事が出来なかったからだ。
「この頬が丸くなるのを見たいんだがな」
猫を撫でる様に頬から喉元へ掌を滑らせた。
朝一番に憲兵がザクロの屋敷を訪れ、昨夜の事件の調書と合わせて現場を確認し始めた。
「犯人たちの証言だけではさすがに逮捕が出来なかったのですが、こちらの門番の方や状況を鑑みて使用人のジョスクが共犯だと立証できます。
本日、逮捕します」
「お願いいたします。
昨夜、治療は終えて医療室におりますので」
執事が対応しながら、憲兵を屋敷の中の医療室へと案内した。
医療室近くの廊下から怒鳴り声が響いてきた。
「放せ!! 私の体に触るんじゃない!!」
「憲兵が来てるんだ、お前を引き渡す!
いい加減大人しくしろ! もうお前はただの使用人なんだ!」
これまで、この屋敷内で主とばかりの態度で仕切って来たジョスクに、少なからず不満を持つ者もいた。
昨夜のうちに事件の一部始終が明るみになり、執事もジョスクを使用人として扱っていた事で、彼のこの屋敷での権力が失墜した事を物語っていた。
「私は旦那様の伴侶だ!
なぜ使用人なんだ! 使用人はあのバケモノじゃないか!」
「口を慎みなさい!
テイト様がこの屋敷の家内を取り仕切る方です。
そのお方を侮辱するのは許されませんよ」
後ろには案内で憲兵を連れた執事がはっきりと、ジョスクの言葉を否定した。
「何やらこの事件の裏事情が分かった気がしますが、どうでしょう?」
憲兵の一人がこの状況をみて一言いうと、周りに集まっていた使用人も各々頷いた。
「私たちは同じ過ちを犯しました。
ですが、取り戻せない過ちをジョスクは犯し、その裁きを受けねばならない、と言う事です」
執事の過ちと言う言葉はそれぞれにも響いた。
テイトへの虐めや虐待、それに加担した上に生活費として出ていた金銭も着服し、食事すら与えなかった事を指していると理解していた。
「執事さん、わしらも憲兵に連れて行かれるんだろうか?」
大なり小なり加担していた使用人や下男が、自分たちがしでかしていた事に漸く不安を覚えた。
「確かに過ちですが、もう少しで犯罪でした。
それを判断し、裁くのは旦那様ですから、沙汰を待ちましょう。
私も同罪ですから」
不安そうにしている使用人や下男の中には、金銭を着服していた者たちも含まれていた。
暴れるジョスクを二人の憲兵が拘束した。
既に片足が使えなくなってる体では、この場から逃げようがなかったのも手伝って、簡単に捕らえられた。
「このままでは済まさないぞ!
私は男爵なんだ、貴様ら平民とは違うんだ!」
「既に没落した家門に、その力を奮えるだけの金銭力も無いと思いますが?」
ジョスクの言葉に執事が現実を叩きつけた。
どんなに身分の高い貴族でも、資金が無ければどうにもならないと。
「私にはまだ、助けてくれる家門がある!」
「そうですか、では、ザクロ様の執事として、貴方の身辺調査したものを回状として公爵家以下の貴族たちに送り付けましょう。
貴方が裏酒場で密かに体を売っていた事、男爵位を維持する税金すら払えずにザクロ様の宝石類を売っていた事、テイト様が受け取るべきものを横領していた事、全て書き連ねた物をお送りいたします」
それを受け取って尚、助け出る家門があるかどうか確かめればいいと言い放った。
腐ってもザクロの執事であった。
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