79 / 166
異世界は続くよどこまでも
16
しおりを挟む「最初は、アキを手に入れて
神の代行者として傀儡にするつもりが
逃げられちゃった、って言うのが真相だろ?」
神様はセルゲートに尋ねた。
最初に、人間のところへ行って、状況を把握したのはセルゲートだったから。
「そうです。
アキ様がまだ幼い子猫の姿だった時に、
拘束魔法で一度は捕えてますから。
ただ、神がお与えになった能力でその時は事なきを得て
時間稼ぎができましたが」
その先は、みんなが知ってるところになる。
神様の結界領域で魔法の練習をしたり、まぁ、色々経験した。
「せっかくのお披露目だったのにね。」
神さまはどこか面白げに本当はそう思ってないだろうな、って取れる表情で告げた。
俺は心しておかないといけないんだ。
俺は捕えられた時、みんなの負担にならないように身体を霧散させてでも、この人たちにつらい決断をさせるわけにはいかない、ということを。
捕えられた魔族の人たちは、やはり、向こうの協力者だった。
話を聞くと、本当に心酔してる者と、脅されている者、そして、服従魔法で縛られている者とパターンがあった。
これも含めて、精霊王たちと真名のことや今までの事を話し合った。
神様が言った真名を解除してよかったの意味を知りたくて。
「アキ様と番になりたいは今も変わっておりません。
ただ、番になる理由が神獣だったから、が一番強い気持ちだったと、離れてみて思い知りました。
もし、次の神獣が出たらどうするのか、と神に問われて初めて思い知りました。
フェースライザーが顕著でした。
ですから、解除されてやっとアキ様の本来の心を考えることができたのです。
正直。私たちはみな今でも真名を捧げたい。
ですが、フェースライザーのように愚かなことで、アキ様の関心を惹くようなことはしたくないと一致しました。
この先も、アキ様の守護として存在しますが、その先は長い時間をかけて繋がっていきたいと思っております。」
やっぱり神獣って、何かの符丁の様なものなんだ。
俺は伴侶になったのだから、手伝えることはしなくてはって勢い込んでみたものの、タロー様からこの件にあまり近づくなと言われているので、もっぱら執事のカスティアさんのお手伝いの様な事がメインになっていた。
でも、この世界を知るためには、一番の近道であり先生だった。
魔族の生活も、人間の生活も変わらない。
ただ、魔力量とか姿が違うとかその程度しか差は無かった。
闇属性だからって暗闇で生きてるわけではない、最初にタロー様はそう言った。
明るい世界の中で笑い、歌い、泣いて、喜んで、悲しむ。
何も変わらなかった。
人間の姿の方が偉いわけでもないし、魔族の姿が間違っているわけでもない。
多いか少ないかの違い。
前の世界でもあったことだ。
マイノリティは悪の様な風潮が、迫害につながる地域も未だにあった。
数が少ない魔族だからこそ、魔獣も大事にしてるし、家族も大事にしてる。
同じ姿の子じゃなくても、それが当たり前で血を分けていようが、いまいが、愛するべき者という認識が定着してるのが羨ましかった。
タロー様自ら育ててるぐらいだもんね。
でもその分、裏切られたのは悲しかったんだと思う。
いま、タロー様の心を占めているのは、弟と甥っ子、その母親だろう。
慰めることも、踏み入ることもできなくて、真名以外で繋がることが無くなっていた。
それどころじゃないって俺も分かってるけど。
夜も寝室に戻ってくるのは、明け方近くで、ただ、睡眠を取るだけの時間を幾日も過ごした。
寂しい、悲しい、側にいて欲しい。
一度だけ、言ってみた。
「お忙しいのは分かってますが、寂しいので夜は一緒にいてください」
「う、ん、そうだな。」
そ言って寝入った姿を見れば、これ以上は言えなかった。
タロー様が、家族を思うように、俺もお母さんを救わなくてはいけない。
俺は色々頼りすぎて、自分の力で立つことが少なくなっていたんだって気づいた。
タロー様はご自分のご家族のために、俺は自分のお母さんのために、やれることをやろう。
夜、タロー様が寝室に戻らないので、夢を紡ぐ練習というか本番をやっていた。
毎夜、自分に子守唄を歌う。
初めて子守唄を歌って魔力を練った時みたいな影響が出ないように、でも癒しが必要な人が眠れるように。
タロー様がせめて、眠ることで癒されるように、歌った。
最初の頃は、眠ると夢の中でお母さんを探した。
でも、どうしてもお母さんに会えない。
すぐ夜明けが来て、告鳥が俺を起こした。
段々と、もう少し、長く、もう少し深く、そう思うと、告鳥に俺意外は起こさないといけないけど、自分で起きるから起こさなくていいと言うようになった。
実際、自分では起きれたから。
隣にタロー様がいないのを見ると、時々涙が落ちたけど、解決するのを待つしかなかったから、普段通りカスティアさんの手伝いをした。
夜、子守唄を歌う。
深く眠ると、前に見た夢と繋がった。
暗闇で、泣くお母さんがいた。
駆け寄るとやっぱり子猫の姿になってしまって、亜希ではなくなっていた。
「あら、この前の子ね。
また来たの?」
「お母さん、ここで泣かないで
俺、助けに来たの」
「子猫ちゃんのお母さんも、ここに?」
「違うよ!
お母さん、俺、亜希なの!!
亜希なの!」
涙がたくさん出た。
「亜希って、私の子よ。
でも、人間なの」
「俺、こんな姿だけど」
繋がりかけて、目が覚めた。
胸に手を当てて、号泣した。
「お母さん!!
亜希だよ!
亜希だよぉ!!!!」
尻尾を握って、また泣いた。
もう一度、もっと深く長くいかなきゃ、ちゃんと夢の中でも人の姿になれるように。
11
お気に入りに追加
789
あなたにおすすめの小説
配信ボタン切り忘れて…苦手だった歌い手に囲われました!?お、俺は彼女が欲しいかな!!
ふわりんしず。
BL
晒し系配信者が配信ボタンを切り忘れて
素の性格がリスナー全員にバレてしまう
しかも苦手な歌い手に外堀を埋められて…
■
□
■
歌い手配信者(中身は腹黒)
×
晒し系配信者(中身は不憫系男子)
保険でR15付けてます
【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。
キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成)
エロなし。騎士×妖精
※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。
木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。
色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。
ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。
捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。
彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。
少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──?
いいねありがとうございます!励みになります。
【完結】虐げられオメガ聖女なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました(異世界恋愛オメガバース)
美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!
婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました
ヒンメル
BL
フロナディア王国デルヴィーニュ公爵家嫡男ライオネル・デルヴィーニュ。
愛しの恋人(♀)と婚約するため、親に決められた婚約を破棄しようとしたら、荒くれ者の集まる北の砦へ一年間行かされることに……。そこで人生を変える出会いが訪れる。
*****************
「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/703283996)」の番外編です。ライオネルと北の砦の隊長の後日談ですが、BL色が強くなる予定のため独立させてます。単体でも分かるように書いたつもりですが、本編を読んでいただいた方がわかりやすいと思います。
※「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく」の他の番外編よりBL色が強い話になりました(特に第八話)ので、苦手な方は回避してください。
※完結済にした後も読んでいただいてありがとうございます。
評価やブックマーク登録をして頂けて嬉しいです。
※小説家になろう様でも公開中です。
転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。
大好きなBLゲームの世界に転生したので、最推しの隣に居座り続けます。 〜名も無き君への献身〜
7ズ
BL
異世界BLゲーム『救済のマリアージュ』。通称:Qマリには、普通のBLゲームには無い闇堕ちルートと言うものが存在していた。
攻略対象の為に手を汚す事さえ厭わない主人公闇堕ちルートは、闇の腐女子の心を掴み、大ヒットした。
そして、そのゲームにハートを打ち抜かれた光の腐女子の中にも闇堕ちルートに最推しを持つ者が居た。
しかし、大規模なファンコミュニティであっても彼女の推しについて好意的に話す者は居ない。
彼女の推しは、攻略対象の養父。ろくでなしで飲んだくれ。表ルートでは事故で命を落とし、闇堕ちルートで主人公によって殺されてしまう。
どのルートでも死の運命が確約されている名も無きキャラクターへ異常な執着と愛情をたった一人で注いでいる孤独な彼女。
ある日、眠りから目覚めたら、彼女はQマリの世界へ幼い少年の姿で転生してしまった。
異常な執着と愛情を現実へと持ち出した彼女は、最推しである養父の設定に秘められた真実を知る事となった。
果たして彼女は、死の運命から彼を救い出す事が出来るのか──?
ーーーーーーーーーーーー
狂気的なまでに一途な男(in腐女子)×名無しの訳あり飲兵衛
【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果
ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。
そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。
2023/04/06 後日談追加
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる