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俺じゃなかった。
しおりを挟む「魂が綺麗なのって、これだったんだろうか?
いや、性的な部分と魂の清廉さは関係ないはずだが、これは…」
「それにしても有り得ない、どうしてこんな間違った知識を持ってるんだ?
ライカの世界はそう言う世界なのか?」
トライガとターセルが二人でブツブツと話し合っていた。
「ライカ、娶られるの意味分かってる?」
タラントが真面目な顔をして俺に聞いてくるから、ちゃんと分かってると答えた。
「その、お嫁さん、になるって事ででしょ?
そ、そんで、エッチな事もするって、ちゃんと理解してるよ。
この世界は男同士で、その、するから、どうなるのか分からないけど、ちゃんと、皆の事が好きだと思うし大事で家族になりたいって思ったから、娶られるって、嬉しいって思えたんだけど…
皆は違った?
何かの儀式的な必要性で、俺を選ぶしかなかったのかな?
それでも、俺は嬉しかったんだ。
今まで一人で、手探りで生きて歯を食いしばって悔しい事も辛い事も、全部飲み込んでただ穏やかにいつか笑って死ねたら良いってずっと思ってた。
仕事行って、食って寝て、また仕事行って、休みの日は家の事をしたら、ずっと寝てた。
この世界でも必要とされてない自分なんか、生きててもあんまり意味が無いなって。
でもさ、いざ死ぬかもしれないって思ったら、殺さないでって言葉が口から出てた。
俺の魂が綺麗とか、そんな訳無いんだよ。
ユアが俺の養子先を横取りした時だって、心の中では恨み言や罵詈雑言並べ立てたさ。
俺の人生を台無しにされたって。
でもさ、タラレバな話も想像も意味が無いんだよ。
生きるために選択して毎日、今も、選択の繰り返しをして生きてるんだ。
だから、アンタたちが思ってるほどじゃなくて、俺を娶っるって話が勘違いだったって思ったなら、それも正解なんだ。
そう言う選択が繰り返されて今の俺があるんだから。
だから、大丈夫、ね?」
さっきの気持ちよかった事が嘘みたいに体の中が冷えて強張っていた。
シイラが言った言葉は、本音だったんだろうなって勝手に想像してた。
ターセル達も無言で何も言わないし、俺は気まずくなってこれ以上ここに居たら、彼らの親切心に甘えて重い奴になってしまう。
そうなる前に、一人でもう生きられるんだから
「ライカは何も知らない身体と知識で、私たちの家族になろうとしたんだな?」
ターセルが皆を代表して聞いた。
「知らなくはないよ、そりゃちょっと疎いかもしれないけど。
だから、ちゃんと合意の上で良かったんだけど。」
「ライカ、すまない」
「何で、謝るの?
俺じゃなかったのかな?あは、は、は。
俺、先にどこかの国へ行ってちゃんと生きて行くし、トライガの車椅子は記念に上げるから、それで移動したらきっと良い人探せるよ!
じゃあね。
どうするか決まったら、教えて。
ちゃんとそれを受け入れるから」
笑って言えた。
そうだ、いつか王子様がって思うのは自由だもんな。
インベントリで収納して支度を急ぐと、車で走り出した。
その間、誰一人俺に声をかける者はいなかったって事実が俺の心を切り裂いたけど、面倒くさいと思われたかもしれない。
どっかの国の検問所で商業ギルドの登録証と、冒険者登録証を出して、入国許可を待つことにした。
「ライカ・サノヤマ殿、カシュクールから伝言が届いております。」
「え?」
検問所の役人が出してきた紙には、王太子殿下からのプロポーズがまだ有効であることと、シイラが事態収拾を付けるには精霊が言う事を聞かないと書いてあった。
「だからって、どうしろって言うんだ」
小さな声で悪態を呟けば、役人が困った顔をして返事を待っていた。
「分かりました。
俺はこの国で商売を始めますから、こちらへ来られるなら話を聞きます、とお返事しておいてください。」
「分かりました。こちらから、そのように返事を出しておきます。」
やっと入国出来て、城下を歩いていると活気のある通りから、裏路地のスラムの様なところまで様々な顔を持つ国だと言う事がすぐに分かった。
治世されていないわけでも無いが、多国籍というか人種が沢山いて移民が多いせいで、治安の悪い所もあるんだろけど、人間味があって俺には懐かしくなるような国だった。
この国に来て、一ヶ月が経った。
移民が多いと、俺みたいな奴もすんなり受け入れてくれて、空いてる場所に勝手にカフェをオープンさせても、カシュクールみたいな手続きは必要なかった。
国によって色々違うんだと改めて思った。
「ライカぁ~、今日のご飯ってなに?」
「まだ朝なんだけど、モーニングセット?」
「ライカのご飯ってさ超美味しいから、仕方ないじゃん!
夜なんて、お酒と合うもので、あの、チンミって言うのとかさ!!
もう、一週間分のメニュー貼りだしておいてよ~
それに合わせて、ダンジョンに行ってくるから~」
ダンジョンと森が近くにある場所でカフェを開いたんだけど、ダンジョン前と言う事もあって、大抵の冒険者がここでご飯を食べてから行くとか、食べて帰って行くようになっていた。
「なぁ、ライカって誰かから追われてたりする?」
「へ?何故ですか?」
「ここって、ダンジョンの近くで決して安全な場所じゃないのに、こんなところでお店開く奴って普通じゃないからさ。」
「ふふ、そんな事ないですよ。
ここだと、何を作っても美味しいって言ってくれるから、お店をオープンしたんです。」
にっこりと営業スマイルをして、常連の冒険者の会話を打ち切ろうとした。
「じゃぁ、アレは普通にライカを探してるってことなのか?」
え?誰かが探してるの?
シイラとか?
俺は、指先が震えるのが分かった。
何を焦る必要があるんだ。
もし、来てくれたなら、どんな答えだろうと受け入れるって決めたのに。
違う誰かを連れて来て、また、あのセリフを聞くかもと思うと怖かった。
‶お前なんか求めてない"って言葉を。
「天涯孤独ですから、多分人違いですよ。」
「そうか、分かった。
こっちへ来ない様に俺が守ってやる」
このひと月、殆ど毎日来るこの冒険者サリオスが、すっと目を細めた。
「大袈裟です。
明日から、食材の調達で店を閉めますから、今日はこれで店終いをしますよ」
ほら帰ってと言ってサリオスを追い出した。
サリオスは冒険者の割りに小綺麗で食べ方も綺麗だから、どこかの貴族の末子とかなのかもしれないけど、俺を探してる誰かの存在を教えてくれたのは態とだったんじゃないかって思ってる。
「明日からしばらく閉店だからね~」
最後の客を帰して、急いでカフェをバッグに仕舞った。
追手では無いけど、面倒くさい人なのは確かだと思った。
もし、ターセル達なら、探したりしない。
来ればいいだけだから。
でも探してると言う事は、彼らでは無いと言う事だった。
逃げる事が一番だって分かる選択をして、その場を立ち去ろうとした時後ろから声を掛けられた。
「ねぇ、守るって言ったのに、出て行くの?」
心臓が止まりそうになった。
恐る恐る振り返ると、サリオスが立っていた。
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