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世界の渦

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 小さな精霊たちが言うまで気づかなかった。
 いつから泣いていたんだろう?


「大丈夫、俺、諦め早いからさ」

 そっぽ向いてる運になんていつまでも縋っていられないし、ここに連れて来た騎士団の三人にも大概腹が立っていた。
 
「ジョージ!クイン!
 お前ら、俺をここに連れて来たのは、こうなるって知ってたのか?!
 シイラの事はもう諦めたけどな、カシュクールの事はこの先も絶対に関わりたくないし、この国の人たちが大っ嫌いだ!!
 だから、絶対にお前らを選ぶことは死んでも無いからな!!」
 
 -ライカ!死んじゃう! 
  カシュクール人がライカを殺す!
  ライカを守れなかった精霊王はいらない!-

「ライカ!
 精霊王は救世主と共にあるって、教会との契約で決まってるんだ。
 だから他の国へは行かないはずなのに、逆鱗を残していった精霊王が選んだのは、魔力もないライカではこの国は困ったことになる!
 だから、儀式を使って水の精霊王だけは連れ戻せたんだ。
 でも、ライカがいれば他の精霊王もついてくるって事なら、話は別だよね?」

 また、おかしな事を言い始めてる。
 ユアは魅了魔法を掛け直してるの?

 -ライカ、魅了魔法を使えなくする?-

「出来るのそんな事?」

 -出来る!
  ライカが、闇の精霊王にお願いすればいいの
  僕たちは、あのキモチワルイのを消すことは出来るけど、同じことを繰り返すから-

「タラント?お願い!」

 こんな真昼間に闇の精霊を呼ぶのって大丈夫なのかな?

「ターセル!タラントが今の時間を少しだけ使えるようにして!お願い!!」

 すると空はこの王宮の上空だけ、夜の闇が訪れ昼間の時間が少しだけ切り取られた。

「ライカ、呼んでくれた。」
「ライカ、これで良いかい」

 白い大きな鳥と白い大きな馬が俺の元に現れた。

「ライカ、ライカ、可哀相に。
 シイラは後でお仕置きだな」
「アレは駄目だ。」

 タラントは、闇の精霊たちを集めると、ユアの魅了魔法を封印した。

「ねぇ?何で最初から封印しなかったの?
 それに、何でシイラだけあんな契約になってるの?」

 他の精霊王が契約破棄させれば良かったんじゃないか?
 ここに来てユアが魅了魔法使ってるって知ってたんだから、タラントが封印したら良かったんだ。

「精霊王は不可侵なのだ。
 個々の事情に関わってはいけない。
 だが、精霊が召喚した愛し子だけは、共有事項なんだ。
 召喚するためには、全精霊全ての意志が揃ってないとだからね。」
「そう、ライカは救世主召喚に巻き込まれたって思ってるけど、巻き込まれたのはアッチだから。
 人間の魔力如きじゃ、召喚なんかできないからね。
 シイラだけがこんな契約になってる理由はね、最初の救世主召喚に力を貸しちゃったからだよ。
 ライカみたいな愛し子が来ると思ってたんだろうね。
 勝手な事したから、この国だけ水の精霊から嫌われてるんだよ」

 タラントとターセルは畳みかけるように、そして淡々と告げた。

「それにな、ライカの額にはアイツの印が付いてるじゃん。
 こんなとこに保険かけやがって」

 へ?オデコに?
 触ってみても全然分からなかった。

「何で、何で、お前だけこんなに!!!」

 ユアが怒りを爆発させても、残念なことに誰も手を貸す人はいなかった。
 魅了魔法を封印したから、必然的に魔法自体も解呪されていた。

「救世主殿、これはやり過ぎですよ。
 魔力供給もせず、男漁りに現を抜かして、更には他の精霊王も怒らせて!!!」
 
 おいおい、自分たちが魅了魔法に掛かってたくせに、責任は全部コイツかよ。

「僕は悪くない!!
 魅了魔法なんか使ってない!」

 無自覚無意識って質悪いな。

「シイラ、来いよ。
 遊びは終わりだ」

 ターセルが不機嫌にシイラを呼びつけていた。
 そしてタラントが闇を更に一部だけ深くして、ターセルが眩い光を混ぜ合わせた。
 
 -ライカ、渦が出来る。
  渦に巻き込まれたら、会えなくなっちゃう-

「渦?って何?」

「サリュー、来い!!」

 渦を巻きながら、闇と光が細く鋭くなり、そこに現れたサリューが大地に大樹を一気に成長させた。

「ユグドラシルに切れ目を」

 サリューが育てたのはユグドラシルと言う世界樹だった。

 -これで渦が繋がった。
  あいつを元の世界へ還す-

「シイラ、私たちはかなり怒っている。
 分かるな?その意味が」

「おうよ、分かって居るわ」

 ユアの腰を抱いていた手が、そのまま水流になり水の球を作って水牢のように閉じ込めた。

 『なにすんだ!!
  シエラザード様、助けて下さい!!』

「ったく、めんどくさい手を使わせやがって」
「それはお前が悪いからだ!!」

 三人の精霊王が一斉にシイラに突っ込んだ。
 
 『シエラザード様!
  僕がいなくなってもいいのですか!!?』

「君なんか一ミリも求めてないよ?
 さっきも言ったじゃない」

 え?あれって俺に言ったんじゃなかったの?

「俺にも言ったよね?」

「ライカなんて一言も言ってないよ?」

 悪びれもせず!

「え、てことは魅了魔法に掛かって無かったの?」

「掛かる訳無いだろう?
 魔法の権化の精霊王だぞ!」

 何だよソレ!!どっかの芸人じゃあるまいし!

「心配したし、俺、凄く傷ついた!!!」

「契約をどうにかしないと、鬱陶しくてな
 すまん!すまんかった!!
 ごめんなさい!」

 調子よすぎるよ。

「でな、とにかくコイツをそこの渦にぶっ込んで、元の世界に返しちゃっていいかなぁ?
 あ、ちゃんとこっちでの記憶も、魔力とかそう言ったの全部取り上げて、普通の人にしてからだから!」

 ユアにとって、居心地が悪い世界かもしれないけど、自分が選んで選択した結果なんだから、そこは頑張って欲しいと思う。
 嫌な奴だけどさ。

「シイラ、早くしろ!
 ここは精霊界じゃないんだから、ユグドラシルが出せておけるのは、そう時間が無いぞ。
 ここに来た日に戻してやるなら、軸がずれる前にやれ」

 サリューがシイラに催促した。

「分かった。
 じゃぁな、クソガキ」

 『シエラザード様!!!
  サノヤマさん!!
  たすけ』

 ドップン…

「バイバイ、ユア。」

 一連のやり取りを見て聞いていたカシュクールの王侯貴族は茫然としていたけど、いち早く体制を整えたのはジョージとクインで、急に態度を変えた。


 
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