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カシュクール騒動

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 カシュクールでは騒ぎが起こっていた。
 救世主が七色の鱗を隠匿していたことに始まり、それを渡された門番がその意味を理解していた事、そして、救世主ではないと判断され城下に住んでいたサノヤマがそこから国外へ出て言った事に加えて、一緒に出て行ったのは七色の鱗の持ち主である事が城下ではすでに広まっていた。
 本来なら、すぐに宰相の手に渡る物が、救世主のせいで一日近くその存在を知らされなかった。
 ‶七色の鱗”それは水の精霊王からの怒りの手紙だった。
 誰が逆鱗に触れたのか、何がその逆鱗に触れたのか、本来ならすぐさま手順を踏んで精霊王に謁見するのに、その手順さえ踏めなくなっていた。
 時間が経ちすぎたのだ。

「クラン!!
 何故あの救世主は仕事をしない?」

「それは、召喚に巻き込まれたあの者が邪魔をしていると、ユア殿は言っているが」

「そんな訳あるか!!
 魔力供給するだけだろ!?」

 宰相はおかしいと感じてはいても、今までは何が?どこが?と考えずに漠然と感じていただけだった。
 今回の七色の鱗はその腑抜けた思考を、がツンと殴るくらいの衝撃があった。
 逆鱗に触れた、と言う事は水の供給が止まる可能性が高いと言う事で、ひいては、他の精霊王も力を貸さなくなる可能性が高いと言う事だった。

「今朝、門番が‶七色の鱗”を持って、王宮を訪ねて来たそうだ。
 だが実際、私の手に届いたのはつい先ほど。
 門番が託されたのは、昨夜だ。
 但し、門番には明日以降、渡すようにと言い含められていたそうで、それを忠実に守って持ってきた。
 それを、あの救世主が、自分が持つに相応しい物だと言い張って、隠匿したそうだ。
 それを咎めた者たちが拘束されている。
 お前の指示でそうしたと聞いたが、おかしいだろうが!」

「何がだ?」

「お前!本気で言ってるのか?
 七色の鱗だぞ!!?
 精霊王の逆鱗に触れたんだぞ!!!」

「それはきっと、アイツの所為だ。 
 あのライカって奴の」

「バカ者!!!
 ライカ殿は、逆鱗の持ち主と国外へ出て行かれた。
 お前の大事な救世主殿が出て行けと言ったそうだ。
 これでもお前は理解できんのか?」

 クランがまるで質の悪いドラッグをやってる様な、違和感のある態度が宰相は気になり、精神魔法、もしくは解毒魔法が使える者を呼んで、クランの状態を確認させた。
 結果、答えは魅了魔法に掛かっていた。

「解呪は出来るのか?」

「はい、ですが…」

「何だ?」

「ここにいらしては、また同じように魔法が掛かる可能性があります。」

「そうか…
 対処は解呪後考えるとして、即刻クラン隊長の解呪を頼む」

「はっ!!」

 宰相は魅了魔法を掛けてる者が救世主だと理解した上で、今後のクランの事を考えた。
 その場で解呪されたクランは、今までの行動自体、ちゃんと記憶があって酷く自分を責めていた。

「私は、何て事を…
 この国を窮地に追いやり果ては、ライカ殿を追放したのも容認していた。 
 頭では分かっていたのだ。
 だが、抗えずに、あの方の言う通りの行動をしてしまっていた。」

「そうだね、君にしては余りにおかしかった。
 その時、我々もちゃんと対処すべきだったんだ。
 そう言う意味では、ジョージとクインは本能で理解していたようだ」

 宰相の言葉は重く、クランの心に残った。
 
「クラン、今、一番急がなきゃいけないことは、水の精霊王の逆鱗に触れてしまった事だ。
 理由に心当たりがあるか?」

「いえ、全く。
 すぐに謝罪に行きましょう!」

「ところが、既に、サノヤマ・ライカと出国してしまっているんだ。
 あの、サノヤマ・ライカとだ。
 分かるか?救世主が追放した、サノヤマ・ライカだ。
 あれと一緒、と言う事は、サノヤマ・ライカが問題なのは確かなんだ。」

「では、ジョージとクインを連れて、追いかけます!
 魔力が無いので、精霊から助力を受けられるとは考え難いのですが、ドラゴンを使用してもよろしいでしょうか?
 先回りして、ライカを取り押さえ、精霊王には謝罪をしたいと、誠心誠意お願いをしてみます。」

 いつの間にかクランと宰相の頭の中では、すっかりライカは犯罪者になっていた。
 ここで、解呪された魅了魔法がまた掛け直されたことに二人は気づいていなかった。
 

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