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旅立ち

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 バッグに車が入ってるなら、このカフェも入れられないかな?と思って、家を収納って言ってみたら、シュっと吸い込まれた。

「おお、ライカのバッグは優秀だの~。
 インベントリとしては、精霊の空間だからいくらでも入るが、建物もか。
 ん?それなら、精霊界で暮らせばいいのではないか?」

「え?だってこのバッグの中に入るとか怖いよ!
 もしかして息できないとかさ」

 この家、土地ごと買ったのになぁ。
 建物だけしか持って行けないのか。

「ライカ、土地は精霊の物だから、買ってないぞ。
 売買出来ないことになっておる。」

「え!?じゃぁ、あれって建物のみの対価だったのか!」

 この世界の仕組みがまた良く分からなくなった。

「さぁ、行こう。
 私も人になってるんだが、どうだ?」

 魚人って言うか煌びやかなヒレや七色の鱗を、服で隠しただけの精霊王でしかなかった。
 毛の生えた獣人にはならないところが、精霊王なんだな。
 
「じゃあ、シイラ。
 暫くは一緒だ、宜しくね。」

 肩にバッグを掛けると、すごく身軽にその場を後にした。




 夜でも門番はいて出入りをチェックされていた。

「こんな夜中に国外へ行くのか?」

「はい、すみません。
 お仕事を増やしてしまって。」

 シイラの証明書ってどうしたら良いんだろ?考えてなかった!

「こんばんは。
 私も今夜この国を出て行くから、これを明日以降に、宰相にお渡しなさい。」

 シイラがそう言って、一枚の鱗を門番に渡した。

「は?え?
 これは!今すぐにでも!」

「ダメですよ。
 明日以降、宰相にお渡しなさい。
 分かりましたね?」

 シイラが見据えると、門番は、はい、と焦点の定まらない目で、返事をした。
 
「さあ、ライカ行きましょう」

 楽しそうに夜の道を俺と歩き始めた。





 一時間くらい歩くと、辺りは真っ暗な世界で、足元も覚束なくなった。
 それまではまだカシュクールの領地だったのか、街灯っぽい物が点いていた。

「シイラ、少し早く行きたいから、これから俺が出す物に驚かないでくれる?」

「ライカのバッグは優秀だから、何か出てくるんだね?」

 ワクワクした目で見られると恥ずかしかったけど、車を出して少しでもカシュクールから離れる事にした。
 ガソリンはこの世界に無いし、別な原動力にならないかな~と思いながら出すと、表示がガソリンじゃ無くて水になっていた。
 電気系統は太陽光で充電出来るようになっているし、最新のエコカーに作り変えられていた。
 考えたり思ったりするだけで、変化するのはこのバッグだからか?
 水なら、申し訳ないけどシイラに頼めば何とかなりそうだし、助かった。

「ライカ!これ何?
 ねえ、凄いね!」

 まるで子供みたいにはしゃぐシイラを助手席に乗せて、道案内をして貰いながらゆっくり走り出した。

「シイラ、大丈夫?
 車酔いしてない?」

「大丈夫だ。
 ドラゴンに乗るより快適だぞ!
 柔らかいイスだし、揺れもひどく無い!
 凄いな!ライカ!」

 俺の力でも何でも無いけど、シイラを初めて喜ばせて上げられたのは、とても嬉しくて最高に楽しかった。

「この道しかないが、途中に山があるからこの車とやらは使えなくなるな。
 明るくなってから、山へ入って峠を越えた辺りで、野営をして翌日にまた車を使えばかなり離れるぞ。」

 シイラのナビで走るけど、基本は一本道だった。
 ただ、舗装とかされてないから、結構ガタガタしたけど、シイラに言わせればドラゴンよりも快適なんだとか。
 確かに、硬い鱗に乗るみたいだし、長時間はお尻も痛くなりそうだけど、俺も一度は乗ってみたいかな、なんて思ってた。
 当然車だから、カシュクールから誰かが追い掛けて来ようとしても、そう簡単には追いつけないだろうし、車で二時間ほど走った所で少し休憩しようと車を止めた。
 夜明けまで数時間、少し仮眠を取って明日の朝イチで走り出して、昼前には山に入る予定と決めた。

「シイラ、お茶飲んで。」

 出てくる時に、ペットボトルに詰めたお茶をシイラに渡した。

「この世界は月とか星とかは無いんだな。
 夜明けってただ明るくなるだけなんだ。」

「光の精霊王が目覚める、夜は闇の精霊王が目覚める、それだけだ。」

 太陽光じゃなくて、精霊光だな。

「太陽光じゃなくて、精霊光充電だなんて、この世界はやっぱり、俺のいた世界とはちがいすぎるなぁ」

「ライカの世界は楽しかったかい?」

「うーん、楽しもうとしていた、が正しいかな。
 俺は生きるのに必死で、楽しむ余裕なんか無かったから、どうなんだろうな?」

 嗜好品なんかは買う余裕が無かったし、普段の生活も自炊して、何でも作れるし安上がりだし、保存して食費を浮かす事しか考えてなかったしね。
 そう言う経験があったから、カフェが開店出来たし、やっとのんびり生きて行けるって思ったんだけどな。

「お、闇の精霊王が来たぞ」

「え?どこ?」

暗い中に、ホンワリと光る鳥が現れた。
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