上 下
6 / 29

水の精霊王シイラ

しおりを挟む
 掃除はいつの間にか終わった。
 いや、やってた。
 自分でもすごくやってたんだけど、手を付けて無い所まで、終わってた。
 あれ、なんか家に付く妖精さんがいたのかな?って思ったけど、姿は見えずで勝手に綺麗になっていた。
 正直疲れ切っていたから、それはありがたくて、お礼を言ってお風呂に入った。
 ジョージとクインは手伝うと言ったけど、丁重にお断りした。
 これ以上、お貴族様と関わって良い事なんて無いと思うし、必然的にあの高校生のユアと関わる事になる。
 それは正直面倒だし嫌だった。
 同郷と思われるけど、あんなキツイ言葉を出せる子とは関わりたくなかった。

「ふー、なんかやっと、此処で生活するんだってら実感が湧いたな。」

 明日から取り敢えずどうやって生活するか、仕事は冒険者と言う、チャランポランな根無草的な仕事をするしかないけど、長くは出来ないと思うし、色々考えあぐねた。
 その瞬間、先の分からない恐怖とか元の世界に戻れない事とか、少ない友達にももう連絡は出来ない事とかが現実となって押し寄せて来て、暫く号泣した。
 お風呂の中でわんわん泣いた。
 一人ぼっちの部屋は慣れてたけど、違う世界の一人ぼっちなんて、人生初めてだから泣いて当たり前だと自分を肯定した。


 ー泣かないで、泣いたら皆んなが心配して泣いちゃう。
  そうしたら、世界は渦に巻き込まれちゃうよ。
  ね?愛しい子、泣かないで。
  僕達が側に居るから。ー


 何処からか、声がきこえた。
 お家に妖精が居るくらいだから、この世界では妖精が身近に居るんだろうと思い、顔を上げて周りを見た。

「誰?
 姿を見せて?」

 中二病かネズミーランドの住人かってセリフを吐いてしまった。

 しーん。

 何の反応も無くて、やべ、俺、毒されてるわ~、と一人照れた。
 こう言うのは救世主とやらの役目だろって一人呟いて、お風呂から出ようとしたところで水の中から足を掴まれた。

「ぎゃっ!!
 何?」

 足首に指の感触がはっきり分かった。

 ザバーッ!!

 水が盛り上がって、現れた者に水かきがあったり、耳がヒレみたいだったり、うろこが見えるとか、もうファンタジーを覚悟してたけど、この登場は想像していなかった。
 心臓弱い人だったら、確実に止まってるぞ、これ!!

「や、やめて、やめてぇ
 殺さないでぇ」

 この世界で生きなくても良いとか言ってたのに、いざ命が危ないかもって時には、汚く命乞いをするもんなんだなって思ったら、すぅっと諦めるみたいに落ち着いた。

「ごめん、俺、この世界でやる事もないし、生きててもしょうがないかなって、さっき迄そう思ってた。
 だから、殺してもいいよ。
 どんな理由で殺されるか分からないけど、きっと君にとって必要な事なんでしょ?」

 現金なものだ、と自分でも思うけど、死ぬんなら一度くらい誰かを好きになってみたかったし、嫌な事を嫌って言いたかった。

「ふふふ、あーはっはっはっは!!!
 ライカ!殺さぬよ。
 お前は我らの可愛い子だ。
 足を掴んで悪かった。
 くくくっ
 私は水の精霊王、名はまだ教えられないが、好きに呼べ。」

「えっと、精霊王とか、良く分からないんで、呼んでいい名前を教えてください。」
 
 普通なら追いつかない俺の頭は、この精霊王を見て不思議と落ち着いていた。

「では、シイラと呼んでくれ。
 ライカはこの世界の精霊全てから愛されて、人ではなく精霊から召喚された子だ。
 この世界でやるべきことは、幸せに暮らす、ただそれだけだ。」

「えーっと、俺が召喚されたのはあのユアみたいな感じではなくて、精霊さんたちが召喚してただこの世界で楽しく生きたら良いって事?」

 シイラにそう問えば、その通りだと答えが返って来た。
 
「ここは魔力が無いとなかなか生活も厳しいらしいんですけど、どうしたらいいでしょう?」

「はっはっはっはー!
 精霊の愛し子に魔力など必要な物か。
 皆がこぞってお前に力を貸したがるさ。
 魔法と精霊の力は根本は同じだが、持ってる魔力量に応じて精霊の力を貸し与える、それが魔法だ。
 だが、ライカは違う。
 魔力などの対価は必要ないんだ。
 この世界の精霊全てから、愛されている故、無償の愛ってやつだな。」

 面白そうに笑うシイラに、う~ん、何で?俺?と聞いてみても、魂がそうだから、としか答えなかった。
 魂なんて自分じゃ分からないし、まして、異世界でどうやって知るんだよ、って突っ込みは心で飲み込んだ。




 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

総受けルート確定のBLゲーの主人公に転生してしまったんだけど、ここからソロエンドを迎えるにはどうすればいい?

寺一(テライチ)
BL
──妹よ。にいちゃんは、これから五人の男に抱かれるかもしれません。 ユズイはシスコン気味なことを除けばごくふつうの男子高校生。 ある日、熱をだした妹にかわって彼女が予約したゲームを店まで取りにいくことに。 その帰り道、ユズイは階段から足を踏みはずして命を落としてしまう。 そこに現れた女神さまは「あなたはこんなにはやく死ぬはずではなかった、お詫びに好きな条件で転生させてあげます」と言う。 それに「チート転生がしてみたい」と答えるユズイ。 女神さまは喜んで願いを叶えてくれた……ただしBLゲーの世界で。 BLゲーでのチート。それはとにかく攻略対象の好感度がバグレベルで上がっていくということ。 このままではなにもしなくても総受けルートが確定してしまう! 男にモテても仕方ないとユズイはソロエンドを目指すが、チートを望んだ代償は大きくて……!? 溺愛&執着されまくりの学園ラブコメです。

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

転生したけど赤ちゃんの頃から運命に囲われてて鬱陶しい

翡翠飾
BL
普通に高校生として学校に通っていたはずだが、気が付いたら雨の中道端で動けなくなっていた。寒くて死にかけていたら、通りかかった馬車から降りてきた12歳くらいの美少年に拾われ、何やら大きい屋敷に連れていかれる。 それから温かいご飯食べさせてもらったり、お風呂に入れてもらったり、柔らかいベッドで寝かせてもらったり、撫でてもらったり、ボールとかもらったり、それを投げてもらったり───ん? 「え、俺何か、犬になってない?」 豹獣人の番大好き大公子(12)×ポメラニアン獣人転生者(1)の話。 ※どんどん年齢は上がっていきます。 ※設定が多く感じたのでオメガバースを無くしました。

【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜

N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。 表紙絵 ⇨元素 様 X(@10loveeeyy) ※独自設定、ご都合主義です。 ※ハーレム要素を予定しています。

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

腐男子(攻め)主人公の息子に転生した様なので夢の推しカプをサポートしたいと思います

たむたむみったむ
BL
前世腐男子だった記憶を持つライル(5歳)前世でハマっていた漫画の(攻め)主人公の息子に転生したのをいい事に、自分の推しカプ (攻め)主人公レイナード×悪役令息リュシアンを実現させるべく奔走する毎日。リュシアンの美しさに自分を見失ない(受け)主人公リヒトの優しさに胸を痛めながらもポンコツライルの脳筋レイナード誘導作戦は成功するのだろうか? そしてライルの知らないところでばかり起こる熱い展開を、いつか目にする事が……できればいいな。 ほのぼのまったり進行です。 他サイトにも投稿しておりますが、こちら改めて書き直した物になります。

小学生のゲーム攻略相談にのっていたつもりだったのに、小学生じゃなく異世界の王子さま(イケメン)でした(涙)

九重
BL
大学院修了の年になったが就職できない今どきの学生 坂上 由(ゆう) 男 24歳。 半引きこもり状態となりネットに逃げた彼が見つけたのは【よろず相談サイト】という相談サイトだった。 そこで出会ったアディという小学生? の相談に乗っている間に、由はとんでもない状態に引きずり込まれていく。 これは、知らない間に異世界の国家育成にかかわり、あげく異世界に召喚され、そこで様々な国家の問題に突っ込みたくない足を突っ込み、思いもよらぬ『好意』を得てしまった男の奮闘記である。 注:主人公は女の子が大好きです。それが苦手な方はバックしてください。 *ずいぶん前に、他サイトで公開していた作品の再掲載です。(当時のタイトル「よろず相談サイト」)

処理中です...