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カシュクール

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 歩いて一時間くらいの所でやっと、街らしき建物の集まりが見えて来た。

「あの、ここはそのカシュクールという国の一都市もしくは街、という事でしょうか?
 それとも、王都、とか?」

 正直、王都と言われたら随分貧相な国だとしか思えなかったけど、そういう国もあるし、何よりここは異世界なんだと思うと、まずは世界の常識を一つずつ学ぶしかなかった。
 もしかしたら、いきなり処刑ってことになってしまうかもしれないけど…。
 それはそれで、まぁ、いっか、って気持ちだった。
 だって、あの時死んだと思ったし、この世界で一からやり直すのも面倒くさいって思ってた。

「黙れ」

 あーはいはい。
 これで異世界人だなんて言ったら、確実に処刑されるな。
 とにかく連れて行かれる場所で、異世界人とは言わずにそれ以外はなるべく正直に答えて、どうにかこの世界で暮らしていけるようにしてもらうか、処刑の二択で考えようと思った。

 街に着くまでの道で咲いている花や草を見ていると、勝手に文字が出て名前や効能が表示された。
 例えば、ミュゲ(スズラン) 毒草 って感じだった。

 日本で鈴蘭ってそんなに毒花ってイメージ無かったけど、俺だけかもしれない。
 普通に日本にあった草花なんかもあったりして、ちょっと近いのかもなんて安心感もあった。
 実際、言葉の壁も無かったし、油断していた。

 漫画やアニメのナントカの巨人みたいに高い塀で囲まれた場所の一部に、門の一か所に門番がいてこの街へ入る為に、身分証明のような札を出して通過して行く人達の後ろに並んで順番を待った。

「王宮騎士団 第二分隊隊長 バルレイシュ・クラン 部下のジョージ・カードとクイン・カード、それに不審者として捕らえた、サノヤマ・ライカだ。
 サノヤマは身分証明書も無いので、カクシュールでの発行になる。
 発行の手続きを頼む。
 裁きはカシュクールの法で裁くので、特急で頼む。」

 門番は急いで、奥から身分証明書発行の為の道具を出してきて、俺に指先の血を落とせを言っていきなり数本の指先を切った。

「いってぇ」

 こういうのって、一本切ったら良いんじゃないの?
 人差し指から、薬指までざっくり切りやがった。
 ダラダラと流れる血が、身分証明用の金属のプレートに落ちた途端、名前と年齢、種族にスキルなんかが現れた。
 おーこれ、RPGそのものって感じだった。
 ん?もしかして持ち物とかも見れるのかな?ビジネスバック(収容数∞)、スマホ、ボールペン、メモ帳、カッター、工具、車いす、杖、太陽光充電器、空きペットボトル、タオル、マスク(箱)、紙おむつ(大人用)、乗用車。

 は?はぁぁ?!

 何で乗用車!!!、あれか!?あれなのか?!!!
 実際声に出さなかったことを褒めて欲しいくらいに、驚いて自分の肩掛けしてるビジネスバッグを覗き込んだ。
 これもしかしてチートってやつ?
 中を覗いても何にも見えなかった。
 ここに来る前に乗ってた車も、このバッグの中に収容されてるって事か?
 仕事で持ち歩いていた物が全て、それこそ車まで入っているらしかった。
 
 「次は魔力があるか見るから、そっちの水晶玉に切った方の手を触れて」

 門番に言われるまま、手を触れた。

 バリン!

 割れた!!割れちゃったよ!!

「おい!何をした!」

「え、これ、俺?
 勝手に割れたんだけど?」

 もしや、チートの末の魔力が膨大過ぎて計測不能ってやつか。
 ちょっと心の中では、勝ち組かもって思ってた。

「魔力が無いことを誤魔化す為に、割ったのだろう?
 処刑はこんな事では免れないからな」

 バルレイシュは俺がズルをした様に決めつけた。
 これ、学校とかバイト先でも良くやられたな。
 集金した学級費がなくなった犯人にされたり、バイト先の納品の数が合わなくて、その時も俺の所為にされた。
 懐かしいな、この感覚。
 でも、この世界で特に生きて行くつもりもないし、それでいいやと思って黙った。
 魔力が無いと何か罪なんだろうか?

「魔力が無いと問題があるんですか?」

 俺の世界では魔力は無かったし、まぁ心霊とか超能力とかの話しは眉唾物としてはあった。
 物の怪に関しては、昔からおとぎ話みたいにあったけど、それはあくまでおとぎ話だったし、魔法とか魔力って夢の世界かテレビ画面の向こうの話しとしての認識しかなかった。
 ポッター君ですよ、あの世界。

「魔力が無い者は奴隷か犯罪者と決まっている。
 魔力が無ければ生活一つ出来ないからな。」

「そうなんですか。
 俺の世界では、魔法は無かったから」

 あ、ヤベ。

「世界じゃなくて、国です。国。」

 ジロッと俺をひと睨みして、門番と向き直って俺の入国手続きをした。
 




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