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始まりは異世界
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肩に掛けたビジネスバッグと、スマホの存在感だけが、自分が違う世界に来たんだと理解させた。
営業で山道を走ってた。
車は峠を爆走してた。
田舎の会社で、車必須の地域への営業。
介護用品を販売してるから、商品を乗せて運んでたその帰り、車も軽いしどっかの豆腐屋の漫画みたいに(あくまでそのつもりっぽく)峠を下ってた。
サンプルの車椅子とか杖とか、歩行器はいつも積んでるけど、それでも売れたのは心が軽かった。
ガタガタと揺れて、後部座席に捨ててたペットボトルが足元に転がって、ブレーキが踏めなかった。
ヤバいと思った時には視界がグルグル回って暗転した。
あーこれ死ぬなぁ、ってのんびり思ってた。
施設で育って、高卒で働いてやっとそこそこまともな給料で暮らせるようになったのに、これで終わりかぁ。
25年の人生は、あっけなく幕を閉じるんだな、次は、良いところのお坊ちゃまになりたいなぁ、って。
死んだ、俺、死んだはず。
でもどこも痛くない。
山道だったのに、平らな場所で石畳が敷かれてる、どう見ても道だった。
散らばった車の残骸もない。
ただ足元にはいつも持ち歩いてたビジネスバッグと、尻のポケットに入ってたスマホが残されていた。
ナニコレ、追い剥ぎにでもあったのかよ。
追い剥ぎなんて今時言わないか。
相手にするお客さんは大抵介護手前の高齢者だから、なんか出てくる言葉も古いのかな。
ご丁寧に鞄の中身は空っぽだし。
しかしスマホ、よく割れなかったな。
無事かどうか電源を入れてみれば、まったく反応しなかった。
そういや、いつも山の中の電波拾うのに、電池使うから大抵帰りは充電切れしてたんだ。
クソ!!
荷物も無くなってるし、充電出来ないじゃん!
悪態をついていたら道の向こうから物音が近づいてきたのが分かった。
え、もしかして、俺を襲った奴らが戻ってきたとか?
隠れる場所を探して周りを見回したら、道から離れた所に雑木林っぽいのが見えて、急いで走った。
日頃重い機材とかも持つ俺の体力、頑張れ!
走れ自分!
うおうおと、頭の中でモー娘。さんの歌を歌って走った。
やっとの思いで辿り着いて、雑木林の中で体を低くして隠れていたら、程なくして現れたのは、どう見ても日本人でもなければ、地球人でもないだろう、って人種?だった。
何かのイベントかコスプレか?
ケモミミってやつか。
凝ってんなー
唯一現れた人達だし、ここは聞かずにはいられなかった。
「すみません、此処は何県になります?
事故ったと思ったら車から投げ出されちゃったみたいで、気づいたらこんな場所で途方に暮れてたんですよ」
ここは一つ、田舎のじーちゃんばーちゃんを落とす営業力と営業スマイルで、相手の懐に飛び込む作戦だ。
「え?
お前、何?」
強そうな虎模様の腕や体に、動くケモミミ。
甲冑まで凝っていた。
三人でまるで本当の騎士みたいだった。
一人は、凄い美形で普通の虎の色じゃなくてホワイトタイガーみたいだった。
部下っぽい二人は俺のよく知る虎柄で、そんな色でやっぱり外人ってみんなハンサムだった。
ん、動くケモミミ?
「あ、私はニコニコ介助器具の佐野山 来夏と申します。
皆様素晴らしいお召し物でございますね。
このカチューチャに着いたお耳は、脳波で動かすタイプですか?
やはり、海外から来られた方は最先端の物をお持ちですね~」
最近の脳波で動かすやつ出始めてるのは知ってたけど、すげ~なぁ。こう言う時はとにかく褒める、持ち上げる、これに限る!
「怪しい奴!
どこの国の者だ!」
「え、国って、ここ日本じゃないですか。」
待って待って、おかしいよね?
腕とか、どう見ても体毛だよね?
おしゃれ染してるわけじゃないよね?
「この国は我等獣人族が支配する国、カシュクール国だ!」
「じ、獣人?
カシュクール?
すみません、冗談ですよね?
どっかにテレビカメラ有るんじゃないですか?」
手が込んでるなー。
「貴様!!
いい加減にしろ!」
甲冑まで誂えたんだろうか?
このアニメなんてタイトル何だろう?
真剣に考えていたのに、それを中断させられた。
「貴様、怪し過ぎる!
その様相も、異国の者にしても、この様な文化の国など見た事も聞いた事もない!
連行する!」
そう言うと、俺の腕を掴んで前で拘束された。
これ、逮捕?
「え?ちょっと!
は?」
ここで漸く、俺は日本でも地球でもない世界に来たことを理解した。
俺に残された物は肩掛けのビジネスバッグと、尻ポケットに入っていたスマホだけだった。
営業で山道を走ってた。
車は峠を爆走してた。
田舎の会社で、車必須の地域への営業。
介護用品を販売してるから、商品を乗せて運んでたその帰り、車も軽いしどっかの豆腐屋の漫画みたいに(あくまでそのつもりっぽく)峠を下ってた。
サンプルの車椅子とか杖とか、歩行器はいつも積んでるけど、それでも売れたのは心が軽かった。
ガタガタと揺れて、後部座席に捨ててたペットボトルが足元に転がって、ブレーキが踏めなかった。
ヤバいと思った時には視界がグルグル回って暗転した。
あーこれ死ぬなぁ、ってのんびり思ってた。
施設で育って、高卒で働いてやっとそこそこまともな給料で暮らせるようになったのに、これで終わりかぁ。
25年の人生は、あっけなく幕を閉じるんだな、次は、良いところのお坊ちゃまになりたいなぁ、って。
死んだ、俺、死んだはず。
でもどこも痛くない。
山道だったのに、平らな場所で石畳が敷かれてる、どう見ても道だった。
散らばった車の残骸もない。
ただ足元にはいつも持ち歩いてたビジネスバッグと、尻のポケットに入ってたスマホが残されていた。
ナニコレ、追い剥ぎにでもあったのかよ。
追い剥ぎなんて今時言わないか。
相手にするお客さんは大抵介護手前の高齢者だから、なんか出てくる言葉も古いのかな。
ご丁寧に鞄の中身は空っぽだし。
しかしスマホ、よく割れなかったな。
無事かどうか電源を入れてみれば、まったく反応しなかった。
そういや、いつも山の中の電波拾うのに、電池使うから大抵帰りは充電切れしてたんだ。
クソ!!
荷物も無くなってるし、充電出来ないじゃん!
悪態をついていたら道の向こうから物音が近づいてきたのが分かった。
え、もしかして、俺を襲った奴らが戻ってきたとか?
隠れる場所を探して周りを見回したら、道から離れた所に雑木林っぽいのが見えて、急いで走った。
日頃重い機材とかも持つ俺の体力、頑張れ!
走れ自分!
うおうおと、頭の中でモー娘。さんの歌を歌って走った。
やっとの思いで辿り着いて、雑木林の中で体を低くして隠れていたら、程なくして現れたのは、どう見ても日本人でもなければ、地球人でもないだろう、って人種?だった。
何かのイベントかコスプレか?
ケモミミってやつか。
凝ってんなー
唯一現れた人達だし、ここは聞かずにはいられなかった。
「すみません、此処は何県になります?
事故ったと思ったら車から投げ出されちゃったみたいで、気づいたらこんな場所で途方に暮れてたんですよ」
ここは一つ、田舎のじーちゃんばーちゃんを落とす営業力と営業スマイルで、相手の懐に飛び込む作戦だ。
「え?
お前、何?」
強そうな虎模様の腕や体に、動くケモミミ。
甲冑まで凝っていた。
三人でまるで本当の騎士みたいだった。
一人は、凄い美形で普通の虎の色じゃなくてホワイトタイガーみたいだった。
部下っぽい二人は俺のよく知る虎柄で、そんな色でやっぱり外人ってみんなハンサムだった。
ん、動くケモミミ?
「あ、私はニコニコ介助器具の佐野山 来夏と申します。
皆様素晴らしいお召し物でございますね。
このカチューチャに着いたお耳は、脳波で動かすタイプですか?
やはり、海外から来られた方は最先端の物をお持ちですね~」
最近の脳波で動かすやつ出始めてるのは知ってたけど、すげ~なぁ。こう言う時はとにかく褒める、持ち上げる、これに限る!
「怪しい奴!
どこの国の者だ!」
「え、国って、ここ日本じゃないですか。」
待って待って、おかしいよね?
腕とか、どう見ても体毛だよね?
おしゃれ染してるわけじゃないよね?
「この国は我等獣人族が支配する国、カシュクール国だ!」
「じ、獣人?
カシュクール?
すみません、冗談ですよね?
どっかにテレビカメラ有るんじゃないですか?」
手が込んでるなー。
「貴様!!
いい加減にしろ!」
甲冑まで誂えたんだろうか?
このアニメなんてタイトル何だろう?
真剣に考えていたのに、それを中断させられた。
「貴様、怪し過ぎる!
その様相も、異国の者にしても、この様な文化の国など見た事も聞いた事もない!
連行する!」
そう言うと、俺の腕を掴んで前で拘束された。
これ、逮捕?
「え?ちょっと!
は?」
ここで漸く、俺は日本でも地球でもない世界に来たことを理解した。
俺に残された物は肩掛けのビジネスバッグと、尻ポケットに入っていたスマホだけだった。
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