その執着は今更です。

ゲームなのか？

　ミル姐さんはやっぱりたくましかった。

「え、これでこの値段？　いくら何でもぼったくりでしょ！」

　港で売ってる魚の値段に、妥当な金額とは思えないと大分砕けた言葉を使って、値切り交渉をしていた。
　男の悪い所かもしれないけど、そのくらいって思ってしまった。

「彼らもお金を稼ぐのに汗水たらしてるけど、私達だって同じようにお汗水たらして働いてるんじゃない。
　自分の大事なお金を少しでもやり繰りするのは当たり前！
　ルイ君だって公爵家でお金ももらわずに生活していた時の事、思い出しなさいよ」

　本気でお叱りを受けてしまった。

「うん、ごめんなさい。
　確かにお金が無ければ買えないけど、いくら何でも港町でこの魚の値段が高いのはおかしいね。
　僕がいたスラムでも、この金額の半分以下だった」

　ギルドでそれなりの報酬を受けて、自分だけなら普通に食べて行ける金額を手にする様になって、傲慢になっていたみたいだった。
　数日前にスラムでの生活を思い出したところだったのに。

「ルイ君、めんどくさがってこういう交渉をしないのはダメよ。
　この先もっと色んな事が起きた時に、思考回路を止めたらダメ、分かった？」

　物凄い事やらかす癖に、こんな常識的な面を見せるから、ミル姐さんが分からなくなる。

「だから、ね。
　安くして！」

　魚の露店を出してる女性に、負けたと言わせて半分に値切っていた。
　そして同じように野菜やら、水とか柑橘系の果物も買ってインベントリを付与した鞄に入れて行った。

「便利ね、ソレ。
　私はそんなスキルも無くて、ヒロインなのに！」

　そう、そこだ。
　ヒロイン枠なのに、スキルがしょぼくてチートとか無いって言うのが謎だった。
　僕だけがチートで同じように転生したはずのヒロインがモブみたいな扱いって、しかも内容がBLだし。
　普通のライトノベルからのゲーム化だったはずなんだ。
　
　ふと頭をよぎったのは、もしかして、二次創作？って単語だった。






「公爵閣下は、もっと修行しないとダメですよ。
　そうやって自分勝手に都合の良い妄想を、現実だと思うのは脳の病気かもしれませんし」

　ギモーブはイライラとしているモンブラン公爵に、本質はやはりこちらでしたか、と呟いて見捨てる様に離れて行った。

「何でだ！　私がローレンツォを求めたのに！
　今までの事は水に流して、やり直したいと、ただそれだけなのに！」

　ギモーブが離れて行った先には、ギルド長であり皇太子のサントノーレとロイズが立っていた。

「皇太子殿下、彼は早急に処分をした方が良いかと思われます」

　サントノーレに膝をつきながら、ギモーブが報告をしていた。

「御苦労。　あちらの国は上が腐りきってるな」

「えぇ、王弟と王妃が密通しておりましたし、国王もルイ様の母君様と関係を持っていたとか」

「ロイズはルイを警戒させ過ぎだ、ばか者」

「申し訳ありません。
　不幸な状況にあった者なら、おだてたり優しくすれば落ちるかと思っていました。
　存外、手強くて……それにあれほどの美しさなら、本気になっても良いかと」

「私の妃に迎えるつもりだ、これ以上バカな事はするな」

　ロイズは御意、とだけ返した。

「我が二番目の主、そのアポロンの様なお姿を見ても、ルイ様は全く興味を示しませんでした。
　これから、どうしますか？」

　ふっと優しい笑顔を浮かべて、サントノーレは機会を待つだけだと言った。