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初めてのキス
しおりを挟む今更、この歳でと言うか、前世持ちの僕がキスくらいで騒いでも仕方ない、とは思うけど!
「やめて下さい!!」
無意識に土工のスキルを使っていたらしく、ロイズと名乗った銀髪の青年は、結構深くて普通なら出られないくらいの穴へと落ちた。
「えー!!! ナニコレ! めっちゃ楽しい!!」
落ちた落とし穴にビックリするとか、怒るとかじゃなくて、子供の様に喜んでいた。
「ますます逃がせないな! 絶対俺の嫁にする! 浮気しないよ、俺!
結構優良物件だと思うんだよね」
自分で優良物件とか普通言わない。
笑って茶化しながら、足を強化したのか物凄い瞬発力で穴から飛び出して来た。
そして図々しくも、僕の肩を抱きよせた。
「ロイズ、その子も可愛いけどよ、お前を狙ってる連中が大勢なくだろう?
いい加減にしとけよ~」
他の冒険者たちが揶揄う様にそう言うと、やっと周りに目を向けて確認した。
「お、おぉ、んー、でもさ、俺、運命だと思うわけ。
ルイじゃなきゃダメだって、俺の本能がそう叫んでる」
どこの中二病だよ。
それに、躊躇したよね?
「信用できないので、離れて下さい」
肩を抱いていた手を払い落すと、威嚇するように睨みつけてギルドを出て行こうとした。
「ちょっと、ロイズの手を叩くなんてどう言うつもりよ?」
どこかの冒険者パーティのメンバーらしき女性が引き止めて来た。
「僕が出て行けば、終わると思うんですけど」
無性に腹が立って、関わりたくないのに態々引き止めるなよ。
ロイズがいかに良い奴だとか、モテるって事を認めれば良いのか?
ばかばかしい。
「ロイズをバカに」
「いい加減にして下さい!
最初から! 嫌だって言ってますよね?
ここから出て行けば、モテるロイズさんが貴女の方を選ぶかもしれませんよ。
でもここで引き止めたら、僕が選ばれるのは決まってます。
それでも良いんですか?! それとも、こんなにモテる人気者で自称優良物件がぞんざいに使われたのが気に入らないとかですか?!
だったら、あー素敵な人ですね、でも僕には勿体ないので辞退します。
これでよろしいですか?」
一気に言いきったら、周りは静まり返って唖然とした表情で僕を注目していた。
「ルイ、ごめん、本当にごめん!!」
ロイズが目一杯頭を下げて謝った。
「泣かすつもりはなかったんだ」
「何を言って、泣いてなんかいません!」
そう言うと徐に頭を抱えられて、体を抱き寄せられた。
「可愛かったし、その綺麗な顔で俺を見て欲しかったんだ。
だから、態としつこくした。
こいつらがこんなに絡むとは思ってなかったんだ」
「だから、泣いてなんか」
「泣いてるよ」
涙は流していなかった。
「とにかく、僕に関わらないでくれたら、それでいい、です」
何となく尻蕾になってしまった声に恥ずかしくなったけど、知らない国に来てまでなんでこんな目に合うのかと思ったら、正直泣けてきた。
「これからは本当に、真剣に、ルイを口説きたい。
それに、嫌な事全てから君を守りたいんだ。
俺のA級冒険者ランクは伊達じゃないって証明したいしね。
ゆっくりでいい、俺を見て」
結局口説くんだ。
「ふふ、あはっははっは!
そこは揶揄ってたとか、諦めるって方向にはならないのかよ」
僕も少し乱暴な砕けた言葉遣いが出てしまっていた。
「いや、ならない。
この先も、ルイを追いかける」
急に真剣な目をして真っすぐに言われると、すこし恥ずかしくなってその言葉をちゃんと受け止めている自分がいた。
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