29 / 61
反逆
しおりを挟む
確かにこの人、いやこの方が神官長様なのだろう。
だが、強盗団と行動を共にしているのは解せなかった。
「ボンクラ公爵さんは本当に血の巡りが悪いなぁ」
大剣を自称副神官長の肩口にサクッと突き刺して、身動きできなくさせた上で馬上から降りてギモーブと対峙していた。
「まあ、ボンクラでしたから私も動きやすかったんですがね。
強盗団のくせに王弟殿下の命を受けた私に歯向かうという事は、王族に剣を向けたとみなしますよ?」
「ああ、構わねーよ。
だがな、俺たちが剣を向けたのは王弟殿下と、その後ろにいるもちっと、位の高い誰かさんなんだがな」
ムッとしたギモーブが、失敬なと吐き捨てた。
「フィナンシェ様と王妃様にと言うのですね?」
王妃も、か。
「ギモーブ! この件には王妃も与してるのか!?」
「与するなんて、愚かな。
王弟殿下フィナンシェ様は国王になるお方、そして王妃様は真の王妃になられるのです。
そして、憂いとなる王太子殿下も真の王太子殿下としてね。
お世継ぎも正統な血筋が既にあるのですから」
「つまりは、国王陛下の子ではなく、王弟殿下の子だった、という事だな?」
「今更ですがね。
いま、城ではフィナンシェ様が兄君の国王、いや、元国王を討っているところでしょう」
大義を成してると言わんばかりに語るギモーブが、心から傾倒して王弟に従っているのが分かった。
「反逆者になり下がった、という宣言をしてくれてありがとうよ」
「はぁ? 反逆者ではありません!
国王を討てば、反逆者ではなく国王になるのですから!」
なんともおかしな理論だが、王室では幾度となく繰り返されて来た歴史の一つだった。
今回の様に兄弟で親子で争う場合もあれば、全くの他人が立ち上がって討たれる場合もある。
王族の血筋だなんだと言っても、数代血縁関係というだけで実際はどいつもこいつも、私も含めてどこの馬の骨とも分からない血筋って事だ。
「ギモーブとやら、正当な血筋などすでに存在しないのは明白であろう?
歴史書にも記載されておる。
それなのに正当な血筋とは……嗤えるな」
「ふ、言いたいことはそれだけか、たかだか神殿の大神官長だからと神に匹敵するわけではあるまい?
フィナンシェ様が王座に就いた瞬間から、この国は変わるのだ。
建国された初代の王としてな」
「お、なんだ? 国名を変えて初代の王を名乗っちゃうって事か?」
バカにしたように眼帯の大剣男が言うものだから、ギモーブはイライラとして来ていた。
「おしゃべりはこのくらいにしましょう。
そこのルイを渡しなさい」
馬の上で他の強盗団の一人に抱きかかえられるように、ぐったりと目を瞑っているローレンツォの目が開くことを願った。
「私は王弟殿下に逆らわない、だからローレンツォも助けて欲しい」
「貴方が逆らわなくても、逆らったとしても、そこのルイは殺しますよ。
だってねぇ、元国王のご落胤なんて国が乱れる素じゃないですか」
ギモーブがおかしなことを言った。
ローレンツォが、ご落胤って。
ご落胤ってなんだ?
私が知ってる言葉の意味と同じだろうか?
「国王陛下の派閥って厄介な奴らが多いんですよ。
担ぎあげられて、王権を奪還とかいう動きになったら困るじゃないですか」
「それは王弟の人気が無いって自分で言ったようなもんじゃね?
厄介な派閥ってのは上位貴族連中の殆どで、力関係は兵力財力共に高い連中だろ?
その点で言うなら、王弟には新興貴族しかいないって事だよな?
古参の歴史ある家門は誰一人、王弟の事なんざ認めていねぇ」
眼帯の大剣男は、はっきりと王弟は器じゃないと言った。
私は二人の、いや、大神官長との話も含めて、今初めて知る事ばかりだった。
何よ、この展開!
ローレンツォが王様の子供って!
これラノベでもゲームでもないじゃない!
ただの平行世界? それとも偶々名前が似ていて境遇も似通った世界って事?
でもモンブラン公爵を助けてあげたいって気持ちに変わりは無くて、どうにかこの均衡を破る手段は無いかと考えてる自分が好きだった。
ただ、途中から見ているだけの私では、どうしたものだろうか、とそれしかなかったけど。
アイテム、何かあったかしら?
そうだ、私のスキル『息吹』!
あのギモーブって奴の足元の草を急成長させられないかしら?
そしたら隙も出来るんじゃないかって考えた。
「息吹」
お願い! あいつの足元の草たち、あいつの邪魔をして!!!
すると、初めてスキルが発動した。
庭で争ってくれていたことも良かった。
「な、なんだ! これは」
あいつの周りだけ、色んな草や本来なら雑草として抜かれちゃうような蔓があるような草が、どんどん伸びて絡みつくとうまく拘束してくれた。
「やった!!!」
思わず立ち上がってしまって、大注目を浴びることになってしまった。
だが、強盗団と行動を共にしているのは解せなかった。
「ボンクラ公爵さんは本当に血の巡りが悪いなぁ」
大剣を自称副神官長の肩口にサクッと突き刺して、身動きできなくさせた上で馬上から降りてギモーブと対峙していた。
「まあ、ボンクラでしたから私も動きやすかったんですがね。
強盗団のくせに王弟殿下の命を受けた私に歯向かうという事は、王族に剣を向けたとみなしますよ?」
「ああ、構わねーよ。
だがな、俺たちが剣を向けたのは王弟殿下と、その後ろにいるもちっと、位の高い誰かさんなんだがな」
ムッとしたギモーブが、失敬なと吐き捨てた。
「フィナンシェ様と王妃様にと言うのですね?」
王妃も、か。
「ギモーブ! この件には王妃も与してるのか!?」
「与するなんて、愚かな。
王弟殿下フィナンシェ様は国王になるお方、そして王妃様は真の王妃になられるのです。
そして、憂いとなる王太子殿下も真の王太子殿下としてね。
お世継ぎも正統な血筋が既にあるのですから」
「つまりは、国王陛下の子ではなく、王弟殿下の子だった、という事だな?」
「今更ですがね。
いま、城ではフィナンシェ様が兄君の国王、いや、元国王を討っているところでしょう」
大義を成してると言わんばかりに語るギモーブが、心から傾倒して王弟に従っているのが分かった。
「反逆者になり下がった、という宣言をしてくれてありがとうよ」
「はぁ? 反逆者ではありません!
国王を討てば、反逆者ではなく国王になるのですから!」
なんともおかしな理論だが、王室では幾度となく繰り返されて来た歴史の一つだった。
今回の様に兄弟で親子で争う場合もあれば、全くの他人が立ち上がって討たれる場合もある。
王族の血筋だなんだと言っても、数代血縁関係というだけで実際はどいつもこいつも、私も含めてどこの馬の骨とも分からない血筋って事だ。
「ギモーブとやら、正当な血筋などすでに存在しないのは明白であろう?
歴史書にも記載されておる。
それなのに正当な血筋とは……嗤えるな」
「ふ、言いたいことはそれだけか、たかだか神殿の大神官長だからと神に匹敵するわけではあるまい?
フィナンシェ様が王座に就いた瞬間から、この国は変わるのだ。
建国された初代の王としてな」
「お、なんだ? 国名を変えて初代の王を名乗っちゃうって事か?」
バカにしたように眼帯の大剣男が言うものだから、ギモーブはイライラとして来ていた。
「おしゃべりはこのくらいにしましょう。
そこのルイを渡しなさい」
馬の上で他の強盗団の一人に抱きかかえられるように、ぐったりと目を瞑っているローレンツォの目が開くことを願った。
「私は王弟殿下に逆らわない、だからローレンツォも助けて欲しい」
「貴方が逆らわなくても、逆らったとしても、そこのルイは殺しますよ。
だってねぇ、元国王のご落胤なんて国が乱れる素じゃないですか」
ギモーブがおかしなことを言った。
ローレンツォが、ご落胤って。
ご落胤ってなんだ?
私が知ってる言葉の意味と同じだろうか?
「国王陛下の派閥って厄介な奴らが多いんですよ。
担ぎあげられて、王権を奪還とかいう動きになったら困るじゃないですか」
「それは王弟の人気が無いって自分で言ったようなもんじゃね?
厄介な派閥ってのは上位貴族連中の殆どで、力関係は兵力財力共に高い連中だろ?
その点で言うなら、王弟には新興貴族しかいないって事だよな?
古参の歴史ある家門は誰一人、王弟の事なんざ認めていねぇ」
眼帯の大剣男は、はっきりと王弟は器じゃないと言った。
私は二人の、いや、大神官長との話も含めて、今初めて知る事ばかりだった。
何よ、この展開!
ローレンツォが王様の子供って!
これラノベでもゲームでもないじゃない!
ただの平行世界? それとも偶々名前が似ていて境遇も似通った世界って事?
でもモンブラン公爵を助けてあげたいって気持ちに変わりは無くて、どうにかこの均衡を破る手段は無いかと考えてる自分が好きだった。
ただ、途中から見ているだけの私では、どうしたものだろうか、とそれしかなかったけど。
アイテム、何かあったかしら?
そうだ、私のスキル『息吹』!
あのギモーブって奴の足元の草を急成長させられないかしら?
そしたら隙も出来るんじゃないかって考えた。
「息吹」
お願い! あいつの足元の草たち、あいつの邪魔をして!!!
すると、初めてスキルが発動した。
庭で争ってくれていたことも良かった。
「な、なんだ! これは」
あいつの周りだけ、色んな草や本来なら雑草として抜かれちゃうような蔓があるような草が、どんどん伸びて絡みつくとうまく拘束してくれた。
「やった!!!」
思わず立ち上がってしまって、大注目を浴びることになってしまった。
55
お気に入りに追加
1,413
あなたにおすすめの小説
ほらやっぱり、結局貴方は彼女を好きになるんでしょう?
望月 或
恋愛
ベラトリクス侯爵家のセイフィーラと、ライオロック王国の第一王子であるユークリットは婚約者同士だ。二人は周りが羨むほどの相思相愛な仲で、通っている学園で日々仲睦まじく過ごしていた。
ある日、セイフィーラは落馬をし、その衝撃で《前世》の記憶を取り戻す。ここはゲームの中の世界で、自分は“悪役令嬢”だということを。
転入生のヒロインにユークリットが一目惚れをしてしまい、セイフィーラは二人の仲に嫉妬してヒロインを虐め、最後は『婚約破棄』をされ修道院に送られる運命であることを――
そのことをユークリットに告げると、「絶対にその彼女に目移りなんてしない。俺がこの世で愛しているのは君だけなんだ」と真剣に言ってくれたのだが……。
その日の朝礼後、ゲームの展開通り、ヒロインのリルカが転入してくる。
――そして、セイフィーラは見てしまった。
目を見開き、頬を紅潮させながらリルカを見つめているユークリットの顔を――
※作者独自の世界設定です。ゆるめなので、突っ込みは心の中でお手柔らかに願います……。
※たまに第三者視点が入ります。(タイトルに記載)
【R18】らぶえっち短編集
おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
調べたら残り2作品ありました、本日投稿しますので、お待ちくださいませ(3/31)
R18執筆1年目の時に書いた短編完結作品23本のうち商業作品をのぞく約20作品を短編集としてまとめることにしました。
※R18に※
※毎日投稿21時~24時頃、1作品ずつ。
※R18短編3作品目「追放されし奴隷の聖女は、王位簒奪者に溺愛される」からの投稿になります。
※処女作「清廉なる巫女は、竜の欲望の贄となる」2作品目「堕ちていく竜の聖女は、年下皇太子に奪われる」は商業化したため、読みたい場合はムーンライトノベルズにどうぞよろしくお願いいたします。
※これまでに投稿してきた短編は非公開になりますので、どうぞご了承くださいませ。
やり直しの悪役皇子~二度目の世界で悪の皇帝は弟を溺愛する~
荷居人(にいと)
BL
時に愛を求め諦めて、時に尊敬の念を抱きつつ抑え込んで、時に吐き出せない感情を全て憎しみに変えて、死ぬ瞬間すら僕だけの世界の中心にいた兄。
僕はそんな兄に憎まれて殺された。理由は単純に兄の大事な人を殺そうとしたから。
「いくら俺を嫌っても構わない。だが、周りを巻き込むお前には失望した」
失望するほどのものすらなかったくせに。そう思うのに、わかっていても僕は最後まで兄に執着してしまったのが運の尽き。嫌いという感情だけならどんなによかったか。
ただ僕は兄を自分の力で笑顔にさせてみたかったのだと死ぬ間際に理解したが、もはや叶うものでもない。
僕ができたことは今までの冷たい兄とは違う苦痛な表情を引き出させたくらい。それも僕が死ぬからではなく、兄の愛した人へ手を出した怒り故なのだから救われない。
それでも本当の想いを思い出し、死ぬ前に幸せになってと願い、言葉にしたことで、苦痛の表情から驚きを見せた兄の表情の変化に、自分が変化させた兄の表情という実感に、それが笑顔ではなくともそれを見て死ねることに後悔はなかった。
なのに、僕はまた同じ人生をやり直す羽目になった。僕には無縁とも言えた愛の神とやらのせいで。
戻ったところで僕がいくら頑張っても兄を笑顔にできないのはわかっているのだから、さっさと死んでやると思っていたのにうまくはいかないし、喋る猫が気がつけば傍にいるし、英雄王とも言われた兄は一度目とは違い正反対の悪の皇帝、暴君と言われていながら逆に僕にだけは態度が違ってなんだか怖い………一体何がどうなってるの?
ご都合主義なところもあります。BL大賞にも応募しますので応援いただけたら嬉しいです!
【R18】翡翠の鎖
環名
ファンタジー
ここは異階。六皇家の一角――翠一族、その本流であるウィリデコルヌ家のリーファは、【翠の疫病神】という異名を持つようになった。嫁した相手が不幸に見舞われ続け、ついには命を落としたからだ。だが、その葬儀の夜、喧嘩別れしたと思っていた翠一族当主・ヴェルドライトがリーファを迎えに来た。「貴女は【幸運の運び手】だよ」と言って――…。
※R18描写あり→*
【R-18】踊り狂えその身朽ちるまで
あっきコタロウ
恋愛
投稿小説&漫画「そしてふたりでワルツを(http://www.alphapolis.co.jp/content/cover/630048599/)」のR-18外伝集。
連作のつもりだけどエロだから好きな所だけおつまみしてってください。
ニッチなものが含まれるのでまえがきにてシチュ明記。苦手な回は避けてどうぞ。
IF(7話)は本編からの派生。
茶番には付き合っていられません
わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。
婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。
これではまるで私の方が邪魔者だ。
苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。
どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。
彼が何をしたいのかさっぱり分からない。
もうこんな茶番に付き合っていられない。
そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。
淫行教師に全部奪われて恋人関係になっちゃう話
キルキ
BL
真面目な図書委員の男子生徒が、人気者のイケメン教師に身体を開発されて最後まで奪われちゃう話。
受けがちょろいです。
えろいシーン多め。ご注意ください。
以下、ご注意ください
喘ぎ/乳首責め/アナル責め/淫語/中出し/モロ語/前立腺責め
アイオライト・カンヴァス 下【前編完結済み】
緒形 海
BL
BL小説アイオライト・カンヴァスの後編【下】です。前編からの続きのお話となります。過激な性描写有り、R18指定。
※性描写のあるエピソードタイトルには▽マークが入ります、背後にご注意下さいませ。
前編はこちら↓
アイオライト・カンヴァス 【上】※現代BL
https://www.alphapolis.co.jp/novel/868483896/236881564
※暴力・傷害etc.過激描写有 R18指定
*高校美術科教師兼画家の夕人(ゆうと)23歳
*大手文具メーカー営業マンの速生(はやみ)23歳
【これまでのあらすじ】
ある事件を理由に転居をすることになった中学3年の相模夕人(さがみ・ゆうと)は、隣家に住む同級生の玖賀速生(くが・はやみ)と出会う。
心に傷を抱えた美しい顔立ちの夕人に、屈託の無い明るい笑顔で包み込むように癒しを与える速生。
二人は惹かれ合い、徐々に歩み寄り想いを通わせるも、すれ違いの末に高校卒業時決別することとなった。
5年の空白期間を経て社会人となった二人は、
広く、狭い、この東京の地で、
運命とも思える偶然の再会を果たした。
二人の行く末はーーー……。
【溺愛ワンコ系営業マン×ツンデレ美形高校教師】
受け視点メイン。基本受けが愛されます。
総受け、ツンデレ、不憫受け大好きな作者です^^
ライトノベル風味にサクサク読み進めていただけるのを目指して書いております。
※作中に登場する学校、企業等の名前について、実在の人物、団体とは一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる