上 下
10 / 62

傭兵団カヌレ

しおりを挟む
「盗賊団カヌレ副団長!!」

「ばっ!バカ野郎! 声がでけーって!」

 だってわざとだもーん。

「無事だったんですね」

 一応社交辞令で言ってみた。

「すっげー警戒してんな」

 にやにや笑う副団長に、言葉には出さずとも当たり前だろって思った。

「そんなに警戒するなよ。
 昨日言った強盗団は嘘だからさ」

「今更、嘘って言われても信じられませんよ!」

 つい、言い返してしまった。

「俺たち傭兵団って最初から悪いイメージだから、それを逆手に取ってんのさ。
 敵に潜入する時とか便利だからな。
 あと、俺の名前はカヌレじゃねー、それは団の名称だからな」

「傭兵が悪いとは思いませんけど、わざわざ強盗団ってする方が面倒じゃないですか?
 仮に、嘘でも犯罪者じゃないですか」

 やってないって言われたって、自ら強盗団って名乗ってんだからそれなりに強盗やってんじゃね?って普通は思うよ。

「だがな、これも王室の意向でな。
 王室が抱える暗部を俺たちが引き受けてる分、なるべく王家から離れた存在でいなければいけない、だから強盗団さ」

 それ、僕に言ったらだめでしょ。

「聞かなかった事にします」

 街道をせかせかと歩いて、なんとか引き離したいけど、さすがに傭兵だか強盗だかで体力は僕の千倍はありそうだった。
 
「ふぅ、ふぅ、早く、街に着かなきゃ」

「街で何するんだ?」

「大丈夫です、聞かないでください」

「えー、なんでだよ~」

 無視だ無視。

 さっきまで米粒だったサイズの人たちが、やっと普通サイズつまり挨拶出来る距離になった。

「あの! こんにちは! 街まではあとどのくらいですか?」

 前を行く大きな荷物を荷車で運んでいる夫婦者に声をかけてみた。

「お、あぁ、こんにちは。
 街はもうすぐだよ。
 だから人が増えて来ただろ? 門番が身分証を確認して通行料を払ったら入れるからその順番待ちだ」

 通行料! 考えて無かった。

「ちなみに通行料ってどのくらいですか?」

「身分証によって違うけど、私ら夫婦は移住して商売をするから三割ほど高い。
 ただ通過するだけなら、通常の料金で銅貨一枚だよ。
 冒険者は確か免除だったはずだけど、君は冒険者ではないだろうから、仕事を探すなら一割ほど高くなるよ」

「あ、冒険者なら免除なんですね、良かった。
 手持ちが怪しかったので、ホッとしました」

 冒険者、優遇されてるなぁ。

「え!? 君、冒険者なの?
 そんな華奢な体で? あ、魔法使いって希少だし、剣士でもなさそうだけど」

「ははは、まだ駆け出しで剣士とかの職ではなく、生産職なんです」

「へぇ、ならお店でもやるのかい?」

 さすが商売をしようとしてる夫婦だ。

「まだ、決めてないんですけど、家財道具を作ろうかと思ってます」

 相手に警戒させないように、でも、そんなにすごくないって風で。

「家事道具か……、確かに鍋とかいいかもね。
 私らは衣料品を扱う店をやる予定なんだ。
 良かったら、君、その、すごく汚れてるから、着替えを買いにおいで、安くするから」

 この服装で気の毒がられるのには、慣れた。
 旅支度の為にロープを買うときに、それよりも服を買えって言われたっけ。
 木に登ったりしたせいで、あちこち小さな破れは出来てるし、泥汚れなんかは当たり前についてた。

「今手持ちのをギルドで換金したら、買いに行かせてください」

「うん、待ってるよ。
 私の店の名前はクイニーアマンだからね」

 うぉ、ここでもスイーツ、って事はこの夫婦も何かしら関係が出て来るって事?
 それなら、後ろにいる傭兵団カヌレもそれなのか。








 財政とローレンツォ捜索と、やらなければいけないことが山積みの時に、王室、つまり国王からの呼び出しを受けてしまった。

 王城に到着して謁見室で待っていると、城の給仕係がお茶とお菓子を運んできた。
 
「何奴だ? 給仕係はここまで入って来れるはずがない!」

 ピンクの髪に目を涙ぐませてこちらを見つめる給仕の女が、いきなり私の手を触って来た。

「無礼者!!!」

「あ、あの! 助けてください!! 私はミルフィーユ、神の加護を持っています」

 神の加護だと?

「それはスキル持ちと言う事か」

「はい、『息吹』というスキルで、治癒再生能力です」

「そうか、ならば教会か修道院に行くとよいだろう。
 だが、今私への無礼とは別問題だ」

「えぇ、なんで、なんでよ? この魔具、どうなってんのよ?
 息吹が使える私は聖女でもおかしくないのに!!」

 ピンクの髪の女はあろう事か、聖女とまで言い出した。

「誰か! 衛兵!! この女を捕らえろ!」

 謁見室が一瞬で、賊を取り押さえる現場と化した。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

虐げられ聖女(男)なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました【本編完結】(異世界恋愛オメガバース)

美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!

転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる

塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった! 特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。

孕めないオメガでもいいですか?

月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから…… オメガバース作品です。

王弟転生

焼きたてメロンパン
BL
※主人公および他の男性キャラが、女性キャラに恋愛感情を抱いている描写があります。 性描写はありませんが男性同士がセックスについて語ってる描写があります。 復讐・ざまあの要素は薄めです。 クランドル王国の王太子の弟アズラオはあるとき前世の記憶を思い出す。 それによって今いる世界が乙女ゲームの世界であること、自分がヒロインに攻略される存在であること、今ヒロインが辿っているのが自分と兄を籠絡した兄弟丼エンドであることを知った。 大嫌いな兄と裏切者のヒロインに飼い殺されるくらいなら、破滅した方が遙かにマシだ! そんな結末を迎えるくらいなら、自分からこの国を出て行ってやる! こうしてアズラオは恋愛フラグ撲滅のために立ち上がるのだった。

ふしだらオメガ王子の嫁入り

金剛@キット
BL
初恋の騎士の気を引くために、ふしだらなフリをして、嫁ぎ先が無くなったペルデルセ王子Ωは、10番目の側妃として、隣国へ嫁ぐコトが決まった。孤独が染みる冷たい後宮で、王子は何を思い生きるのか? お話に都合の良い、ユルユル設定のオメガバースです。

エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!

たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった! せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。 失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。 「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」 アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。 でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。 ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!? 完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ! ※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※ pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。 https://www.pixiv.net/artworks/105819552

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成) エロなし。騎士×妖精 ※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? いいねありがとうございます!励みになります。

処理中です...