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契約内容

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 空は青く澄み渡り、公爵邸の敷地の広さにイラっとしながらも、自由を満喫しながら門まで歩いてきた。

 門番はいたけど、顔も見た事の無い元公爵夫人でしかも使用人より酷い服を着てれば、出入りの業者としか思えなかったみたいで、あっさりと押してくれた。
 これで晴れて本当の自由だ!
 ローレンツォ・モンブランから、平民のルイになります。
 実家に売られたも同然だったし、戻る訳無いじゃん。
 
 公爵邸を出て少し歩くと広い馬車道に出た所で、街へ行く馬車に乗せて貰った。

「街へは何の用事で?」

 街へ入る門の所で用向きを衛兵に聞かれた。
 本当は国を出たかったけど、まずは身分証明を手に入れないと何も出来なかった。

「冒険者になりに来ました」

「はははは、そのナリで冒険者なんて出来るのかい?」

 女性と間違われても、いや、女性の方が僕よりがっしりしてるな。

「大丈夫です。
 薬草採取とか出来ますから」

「アレも冒険者ギルドの範疇だったな」

 身分証明書を手っ取り早く手に入れて、こんな国とはおさらばすると決めていた。
 冒険者になれば、国境に縛られることはなくなる。
 今ごろ離婚が王室に伝わって、追手が来ないとも限らないから、一刻も早く冒険者登録をしてこの国を出なくてはいけなかった。






「一体これはどうした事だ!
 説明しろ!」

 ローレンツォがスキルを使って見せられたものは、使用人のほとんどが彼から宝石を奪っていた、という事実だった。

「旦那様、夫人から下賜をされて」

 侍女長が口を開いた。

「そんなはずが無かろう?
 お前たちはローレンツォから非道な扱いを受け、私からの贈り物も捨てて悪態を吐きさらにはそれが気に入らないと暴力を奮っていたと言ってたではないか!」

 長年勤めていた執事は宝石を持っていなかったが、この事態を把握していたのか問うた。

「お前はその場を見たのか?
 それとも下賜をする様に言われたのか?」

「いえ、このような事が行われていた事は把握しておりませんでした」

「それでも家令か?」

「申し訳ございません」

 深々と腰を折る初老の執事に、使用人たちからこれまでの事を聞いて厳重に罰するように厳命した。

「何も出来ない夫人を私たちの主人にするなんて!」

 侍女長がまたしても口火を切ると、他の使用人たちまでが口々に不満の声を上げ始めた。

「旦那様だって、疎ましく思っていたから一切の権限も与えずに無視していたのではないですか?
 私たちはそれに倣っただけでございます!
 旦那様の思う事を手助けするのが私たちの役目でございますから!」

「それは、いや、だが、宝石を盗むのは違うだろ!」

 危うく正しい事の様に丸め込まれそうになった。

「ですが旦那様がこの事態を招いていたのも事実でございます。
 奥様がこの一年服装を一度も変えていない事にも気づかれず、専属の侍女もつかせずにいた事でこのように使用人をつけ上がらせたのでございますよ」

 子供の頃からこの執事には叱られて来た。
 早くに両親を亡くし、十歳になったばかりの頃公爵を継いだことで、色々な事が起きた。
 その度に奔走してくれ、立ち回りに気を使い今の私が出来上がった。

「ではお前は気づいていたにも関わらず、何故諫めなかった?」

「旦那様のご意向に沿った次第です」

「どう言う事だ?」

 不愉快そうに訊ねても、表情一つ変えずに答えた。

「奥様の服装の事をご進言させていただいたところ、そこの侍女長が服を引き裂いて捨てた、と話した事に真偽も確かめずそのままにされておりました」

 ローレンツォが着替えないと駄々をこねていると聞いていた。
 だから気に入るような新しい服を与えれば良いと思っていた。
 それなのに引き裂いたと聞いて、放っておけばいいと言った。

「わ、たしが、決めたんだ」

「さようでございます。
 お食事も、準備してやる必要は無いと申されて、好きにさせると使用人達は聞き及んでおりましたから、どんなお食事をしていたのか不明です。
 分かっていることは、奥様の食費が計上されていないと言う事だけです」

 まさか! 食べていなかったのか? いやきっと誰かに言って作らせるなり持ってくるなりさせたはずだ。

「傲慢にも家畜の様な食事だと言って拒んだと聞いている」

「真偽は分かりかねますが、夜中に厨房から出て来る姿を何度となく見ておりますが、火を使った形跡もなく食器を使った形跡もありませんでした」

「どうやって食べると言うのだ」

「下品な奥様でしたから、きっと手づかみで盗み食いをしていたんですよ」

 他の使用人や侍女たちが嘲るように言った

「好きな物を食べれば良いと言ったが、食べさせるなとは言っていない。
 盗み食いと言う事は、何を食べていたか知っているのだな?
 食費を計上していないのに、何を食べると言うのだ?」

「おそらく、捨てる食材ではないかと」

「捨てる食材?」

「はい、残飯や生ごみをどうにかしていたのかと」

 その姿を想像して、ゾッとした。

 今日の服装を見てもどこか薄汚れて、サイズがあっていない気がする。
 艶やかだったハニーブロンドはパサついた麦の穂の様な色になっていた。
 
「痩せた、のか?
 食べる物がなく? この公爵邸の公爵夫人が?」

 愕然とした。

「私が、この政略結婚を受け入れなかったから、なのか?
 誰もローレンツォの味方がいないこの屋敷で、こんな非道な虐待を受けていながら私には一言も言わずに」

「旦那様、王室からの婚姻の契約内容には、一切の不満を禁ずるとありました。
 政略結婚だからと不仲にならないように、との配慮でもありますが強引な内容でした。
 ですから奥様はこの現状を旦那様に訴える事は出来なかったのだと思慮いたします」

 私も不満を言えないから、無視をした。
 ローレンツォのスキルを王室で確保したいから、婚姻と言う縛りをと言われ断れなかった。
 どんなスキルかも知らないまま、婚姻の契約をした。

「スキルを使えば良かったじゃないか」

「契約では王室に許可を得ずに使用してはならない、となっておりました」

「まるで奴隷じゃないか」

 断れないから深く考えなかった。
 自分には関係ない、契約上の関係だけだと目を背けていた。

「更には、奥様の生活費も支払われておりませんでした」

「はぁ?」

 ハンマーで殴られたようだった。

「では、無一文で着の身着のままの状態で追い出したのか?」

「そうなるかと」

 私は何という事をしてしまったのだろうか。

「すぐに追いかけて連れ戻してくれ!」

 執事に命令をし、衛兵を動かし、そしてこれに加担した使用人を全員処罰することになった。


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