上 下
5 / 19

※R-18あり 信じたいから蓋をした

しおりを挟む

「シアン・トロワ! 前へ!」

 壇上に呼ばれ、トリサム教授が僕に帝都経理部への配属が決まった過去一番の生徒だと告げると、会場中から割れんばかりの拍手が起きた。
 
「これから君の世界に光があることを願う。
 何か困ったことがあれば、いつでも訪ねて来なさい」

「ありがとうございます」

 若い教授は愛嬌のある笑顔で僕を送り出してくれた。

 壇上から拍手で送りだされる途中で、軍服の正装をしたベオクが目に入った。
 そして目が合うと、凄く嬉しそうな笑顔で拍手をしてくれた。
 それだけで、昨日の手紙の事を許せてしまえた。

「シアン!! 凄い! そして可愛い!
 俺のシアン!」

 人目も憚らず一直線に僕の所へ駆けて来ると、僕よりもかなり大きい体で力いっぱい抱きしめてくれた。

「ベオク!」

「おめでとう! 帝都経理部なんて! 本当に凄いよ、お前は!」
 
 肩を抱きしめられながら、僕らは会場を出てベオクが予約してくれたお店へと連れ立った。
 連れて行かれた店はこの街では一等地に建っている、かなり高級なお店だった。

「ベオク、ここってかなり」
「お祝いだろ! それにちゃんとしておきたいから」

 少し照れ臭そうにしながら、記念だからと言って中に入った。
 中は高級店らしく白を基調とした内装で、個室になっていた。

「改めて、おめでとうシアン」

「ありがとう、ベオク」

 向かい合って座ると、改めて見るベオクの軍服姿に惚れ惚れとしてしまった。

「シアン、俺、数日中に出征が決まるんだ」

「え、どうして?」

 あの手紙にもあった。
 僕は、手紙の事を切り出そうとしたけど、その言葉が出てこなかった。

「一応さ、俺も軍部でかなり優秀なんだぜ。
 だから出征が認められたんだ」

「優秀なのは分ってるけど」

「うん、だから、待っててって言えない。
 出征したら少なくとも三年は戻れないから」

「そう、なんだ」

「だけど、必ず迎えに行く!」

 ベオクが僕の手を握って祈るように自分の額に当てる。

「出征って事は当然戦いがあるって事だよね?」

「そうだ、だからこそ俺は強くなった」

 確かに、先月のあの時よりさらに体が大きくなっていたし、今握られている手も随分ゴツゴツとしていた。

「僕、待ってるよ。
 ベオクが迎えに来てくれるのを、ずっと待つから!」

 あの手紙の事を聞かなきゃいけないのに、こんなベオクを前にしたら聞けなかった。
 それよりも、自分の心を信じたかった。
 ベオクを信じると決めた心を。

「シアン、ありがとう、ありがとう!」

 思いつめたベオクの表情が、ぱぁっと明るくなったのを見ると、これで良かったんだと思った。
 ちょうど話が一息ついた時に、豪華な食事が運ばれて来た。
 ここからはお互い胸のつかえが取れたように食事を楽しみ、卒業を成人とみなすこの世界で初めてのお酒を飲んだ。
 生まれて初めて、幸せだと思った。
 相思相愛の相手とこんな風に過ごす時間が、例え出征までのわずかな日々だとしても。

「ベオク、一緒に泊ってもらえないか?」

 出征するまではある程度時間に自由がきくと言われて、僕は思い切ってそう告げた。

「シアン、俺、お前を抱かずにはいられない、それでもいいのか?」

「だって、このまま離れるなんて嫌だよ! 
 絶対、絶対僕を迎えに来て!」

 お酒の勢いもあったけど、それが僕の本心だった。

「分かった、この店の上が泊れるから、今日からお前が明後日帝都に行くまで、一緒にいよう」

 ベオクは恭しく膝をついて、僕に手を差し出した。
 そして、僕は迷う事なくその手を取り、店の上へと二人で向かった。


 離れていたくなかった。
 短い時間でも、これが最上だと。
 たくさんキスをしてくれて、お互い初めての睦言に照れたり大胆になったり、貪るように欲しがって繋がった。

「愛してる、ベオクが迎えに来てくれるのを待ってるからね」

「ああ、シアンを必ず迎えに行く」

 三日目の朝、僕らは約束だけを残して別れた。
 ベオクの出征はそれから一週間後だと手紙で知らされた。
 その手紙が僕の手元に着いた時には、とっくにベオクは出立した後で、あの別れた後の一週間で何があったのか、僕は知らなかった。



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

完結・虐げられオメガ妃なので敵国に売られたら、激甘ボイスのイケメン王に溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

転移した体が前世の敵を恋してる(旧題;砂漠の砂は海へ流れ)

せりもも
BL
ユートパクス王国で革命が起きた。貴族将校エドガルドは、王への忠誠を誓い、亡命貴族となって祖国の革命政府軍と戦っていた。エイクレ要塞の包囲戦で戦死した彼は、ユートパクスに征服された島国の王子ジウの体に転生する。ジウは、革命軍のシャルワーヌ・ユベール将軍の捕虜になっていた。 同じ時間軸に転生したエドガルドは、再び、王の為に戦いを続けようと決意する。手始めに敵軍の将軍シャルワーヌを亡き者にする計略を巡らせる。しかし彼の体には、シャルワーヌに対する、ジウ王子の激しい恋心が残っていた……。 ※革命軍将軍×異国の王子(亡命貴族) ※前世の受けは男前受けで、転生してからはけなげ受けだったはずが、どんどん男前に成長しています ※攻めはへたれで、当て馬は腹黒、2人ともおじさんです ※伏線、陰謀に振り回され気味。でもちゃんとB(M)Lしてます 表紙画像 Jorge Láscar "Pont d'Avignon" https://www.flickr.com/photos/jlascar/49808689937

夢見がちオメガ姫の理想のアルファ王子

葉薊【ハアザミ】
BL
四方木 聖(よもぎ ひじり)はちょっぴり夢見がちな乙女男子。 幼少の頃は父母のような理想の家庭を築くのが夢だったが、自分が理想のオメガから程遠いと知って断念する。 一方で、かつてはオメガだと信じて疑わなかった幼馴染の嘉瀬 冬治(かせ とうじ)は聖理想のアルファへと成長を遂げていた。 やがて冬治への恋心を自覚する聖だが、理想のオメガからは程遠い自分ではふさわしくないという思い込みに苛まれる。 ※ちょっぴりサブカプあり。全てアルファ×オメガです。

すれ違い片想い

高嗣水清太
BL
「なぁ、獅郎。吹雪って好きなヤツいるか聞いてねェか?」  ずっと好きだった幼馴染は、無邪気に残酷な言葉を吐いた――。 ※六~七年前に二次創作で書いた小説をリメイク、改稿したお話です。 他の短編はノベプラに移行しました。

婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました

ヒンメル
BL
フロナディア王国デルヴィーニュ公爵家嫡男ライオネル・デルヴィーニュ。 愛しの恋人(♀)と婚約するため、親に決められた婚約を破棄しようとしたら、荒くれ者の集まる北の砦へ一年間行かされることに……。そこで人生を変える出会いが訪れる。 ***************** 「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/703283996)」の番外編です。ライオネルと北の砦の隊長の後日談ですが、BL色が強くなる予定のため独立させてます。単体でも分かるように書いたつもりですが、本編を読んでいただいた方がわかりやすいと思います。 ※「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく」の他の番外編よりBL色が強い話になりました(特に第八話)ので、苦手な方は回避してください。 ※完結済にした後も読んでいただいてありがとうございます。  評価やブックマーク登録をして頂けて嬉しいです。 ※小説家になろう様でも公開中です。

婚約破棄された悪役令息は従者に溺愛される

田中
BL
BLゲームの悪役令息であるリアン・ヒスコックに転生してしまった俺は、婚約者である第二王子から断罪されるのを待っていた! なぜなら断罪が領地で療養という軽い処置だから。 婚約破棄をされたリアンは従者のテオと共に領地の屋敷で暮らすことになるが何気ないリアンの一言で、テオがリアンにぐいぐい迫ってきてーー?! 従者×悪役令息

僕の番

結城れい
BL
白石湊(しらいし みなと)は、大学生のΩだ。αの番がいて同棲までしている。最近湊は、番である森颯真(もり そうま)の衣服を集めることがやめられない。気づかれないように少しずつ集めていくが―― ※他サイトにも掲載

処理中です...