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お題「自室に死を飼っている」
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自室に死を飼っている。だから僕は日ごと街のジャンク屋を訪ね回り、潤沢とはいえない有り金をはたくことになる。隣の街まで出掛けて棒のようになった足で、錆びた金属の階段を上る。こつん。こつん。建物自体が廃材の塊みたいな集合住宅が僕のねぐらだ。生体認証によるロックは一応機能していて、僕の網膜をスキャンした上で扉が開く。
「ただいま」
静かだった。小さな部屋に存在しているものは机と椅子と本棚とベッド、それからその上に安置された――死。ベッドの上に横たわる彼はさまざまな部位が欠けていた。腹は抉れ、閉じられた眼窩に眼球はなく、右腕と右足は中途半端なところで千切れている。その断面の全ては、金属の部品で構成されているのだった。
「古いパーツを見つけたから、試してみよう。君の時代のモノかもしれない」
答える声はない。遙か昔に廃棄となったのであろう彼をゴミ捨て場で見つけたのは、細い月が架かった夜だった。体中に電撃が走ったように痺れた。彼を連れて帰ったその日から、まっさらなシーツを僕は使わない。その場所を彼に譲り、毎晩床で眠る。
「新品で流通しているパーツで一切代替できないなんて……いつ、どんな技術で君は作られたんだろうね」
きっと彼はかつて喋っただろう。歩いただろう。ヒトのように人に寄り添っていたのだろう。その姿を僕は夢想する。夢想して、彼の目覚めに不足しているパーツを探し続ける。
けれど果たして。果たして本当に僕はそこに辿り着きたいのだろうか?
女神になどなり得ない彼を、けれど僕はニケと呼ぶ。
(了)220212
「ただいま」
静かだった。小さな部屋に存在しているものは机と椅子と本棚とベッド、それからその上に安置された――死。ベッドの上に横たわる彼はさまざまな部位が欠けていた。腹は抉れ、閉じられた眼窩に眼球はなく、右腕と右足は中途半端なところで千切れている。その断面の全ては、金属の部品で構成されているのだった。
「古いパーツを見つけたから、試してみよう。君の時代のモノかもしれない」
答える声はない。遙か昔に廃棄となったのであろう彼をゴミ捨て場で見つけたのは、細い月が架かった夜だった。体中に電撃が走ったように痺れた。彼を連れて帰ったその日から、まっさらなシーツを僕は使わない。その場所を彼に譲り、毎晩床で眠る。
「新品で流通しているパーツで一切代替できないなんて……いつ、どんな技術で君は作られたんだろうね」
きっと彼はかつて喋っただろう。歩いただろう。ヒトのように人に寄り添っていたのだろう。その姿を僕は夢想する。夢想して、彼の目覚めに不足しているパーツを探し続ける。
けれど果たして。果たして本当に僕はそこに辿り着きたいのだろうか?
女神になどなり得ない彼を、けれど僕はニケと呼ぶ。
(了)220212
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