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208.遺言に願いを託す小話(遺言の日)
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ユイゴンをさ、と酷く軽く言われたことがある。どこかの神社の境内だった。空が真っ赤に染まっていた。ユイゴンをさ、清書してくれないか、君は字が上手だから。笑みを含んだ声に導かれるまま幼い湊は小筆にたっぷりと墨を含ませた。真っ白な巻物につるつると湊の字が踊る。ユイゴンの出来に男は満足したらしく、二三度得心したように頷いた。
「いい仕事だ。褒美をあげよう」
男は着流しの腕をすいと伸ばし、余白を指し示す。
「ここにね、君の願い事もひとつ書いてご覧。私がくたばったらそのときは、きっとそれが叶うのだからね」
ユイゴンに一筆を加えたのかどうか、湊は覚えていない。そもそも夢か現かだって定かではない。けれど湊が何かを願ったのだとすれば、心当たりはひとつだけだった。
――晴海とずっといっしょにいたい。
果たして願いは叶うのか、それとも叶っているのだろうか。
(了)220105
「いい仕事だ。褒美をあげよう」
男は着流しの腕をすいと伸ばし、余白を指し示す。
「ここにね、君の願い事もひとつ書いてご覧。私がくたばったらそのときは、きっとそれが叶うのだからね」
ユイゴンに一筆を加えたのかどうか、湊は覚えていない。そもそも夢か現かだって定かではない。けれど湊が何かを願ったのだとすれば、心当たりはひとつだけだった。
――晴海とずっといっしょにいたい。
果たして願いは叶うのか、それとも叶っているのだろうか。
(了)220105
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