上 下
151 / 623

151.ヨモツヘグイの小話(day9「神隠し」) #ノベルバー

しおりを挟む
 こんな夢を見た。
 湊は宮殿の中を歩いていた。実際に王の居所であるのかは判然としない。ただ遙かに聳える天井や、金銀砂子を惜しみなく使った装飾はとても庶民の暮らす家とは思えなかった。
 その建物の意匠には、蓮が重用されているようだった。蓮の葉や花を象った造形がそこかしこで輝いている。
「食べるか? 蓮の実」
 背後から耳に馴染む声がした。振り返らなくても分かる。きっと幼なじみが実のついた蓮を持って立っているのだろう。湊は黙って歩き続ける。広間のような場所に出て、視界が開けた。大きく開かれた窓の向こうに真っ青な空が広がり、眼下には家々が小さく遠く並んでいた。
「オレ、この街には初めて来たけど、好きだな」
 声と気配は湊の後ろをついてくる。
「なんかすっきりしてるっつーか」
 なあ、食べるか、蓮の実。同じ質問が繰り返される。湊は唇を固く引き結ぶ。



(了)211109
しおりを挟む

処理中です...