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145.譲ってほしくない小話(day3「かぼちゃ」) #ノベルバー

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「どうしたの? それ」
 湊が晴海の前髪の辺りを指さした。湊の人差し指が示したものが何であるか、晴海はすぐに思い当たる。
「アー、なんかクラスの女子がくれた」
 それはオレンジ色のヘアピンだった。数日前のハロウィンに合わせて買ったのか、デフォルメされたお化けのカボチャが飾りとしてついている。晴海の伸びかけの前髪が目についたのか、机に駆け寄って来たかと思うや、「これあげる」とヘアピンで髪を留めていったのである。視界がすっきりするのは確かであるし、わざわざ外すほどの理由もなく、付けっぱなしで放課後になったのだ。
「ふうん」
 ヘアピンに視線を感じる。お化けカボチャが口を頬まで裂けさせて笑っているのと対照的に、湊の口元は横一文字に引き結ばれていた。
「……怒ってんの?」
「ううん」
 湊はゆっくりと首を横に振る。
「晴海が色んな人と関わり合うのはいいことだし、晴海はこんなに可愛いんだからそれは愛されるよねえって改めて実感してる。……でもね」
 微かに墨の香りがする指がお化けカボチャのヘアピンを引き抜いた。落ちてこようとする前髪を湊が優しく掻き上げる。
「晴海の一番はずっと僕がいいんだよねえ。晴海のクラスにすっごい可愛い子がいても、晴海がどこかのお姫様に見初められても、譲りたくないな」
「そんなん」
 当然だろ、と晴海は唸る。譲らないで、譲ってほしくない。オレンジ色のヘアピンは湊のポケットに消えて、それきり戻ってこなかった。



(了)211103
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