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二学期 六章 文化祭

035 吹奏楽部の文化祭ステージ

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 午後からの吹奏楽部の演奏目当てに、体育館にはたくさんの人々が集まっていた。

 その中にはサッカー部の元主将にして、我が姉貴を恋い慕う須崎先輩の姿もあった。

「おぉ! 青葉じゃないか。それに、ちびっ子次期会長も。」

「あっ、須崎先輩。お疲れ様です。」

「ぐるるぅぅぅっ!」

 須崎先輩を目にとめた瞬間、氷菓は威嚇の動作に入った。姉貴に心酔している氷菓は。須崎先輩に敵対心を抱いているらしい。

「落ち着けガチレズロリ。ほら、お前の大好きな吹雪さまが出て来たぞ。」

 吹奏楽部がステージに上がり、我が姉貴はオーボエとかいう何だかよくわからない楽器を携えて現れた。文化祭準備に、受験勉強に加え、部活も両立させるというのはなかなか容易ではないはずだが、姉貴は涼しい顔でやり遂げる。

「吹雪さんは今日も麗しい! そう思うだろ? 弟くん。」

「須崎先輩、弟って呼ぶのほんとやめてください。」

 そして俺の大好きな神崎さんも、銀色に光るフルートを携えて現れた。

(やっぱり神崎さんは、今日も可愛いなぁ。)

 いつもの天然記念物級の可愛さに加え、今日はどこか凛々しさも感じられる。

 女子学生の指揮者が指揮台に上がるとともに、開演のブザーが鳴る。

「OPはみんなご存じのあの曲です。」

 聞き覚えのある軽快なイントロのメロディーは、日本の誰もが踊ったであろう某恋のダンスの曲だ。

「おぉ、これはテンション上がるな。」

 流行のポップな曲、吹奏楽の大迫力の生演奏は、聴く者のテンションを否応なく上げる。

 吹奏楽部の演奏のレベルの凄まじさに圧倒される。一つ一つの音の粒がたっており、それらが上手く調和されている――とか言ってみる。まぁ演奏の良しあしとかよくわからないが、それでも凄いのは感覚的にわかった。

 演奏だけでも十分満足な聴きごたえだが、さらに文化祭ならではのポップでキャッチな演出もあった。なんと神崎さんと姉貴を含めた女子生徒たちが、ステージ上で恋のダンスを踊り始めたのである。

「「「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」

 俺は連射機能で神崎さんの尊いダンスを撮影し、須崎先輩と氷菓はスマホで姉貴の動画を撮影していた。残念ながらツッコミは不在であり、俺たちの暴走を止めるものはいなかった。

 一曲目が終わった頃、ようやくツッコミ役が到着した。

「あちゃ~、もう始まってたかぁ。」

 思わず甘えたくなる母性の溢れる声、言葉おね……先輩である。いや、しかし最近は言葉先輩の秘密についてのすったもんだもあり、優しいだけでなく少し恐い部分もあることを知った。

「言葉先輩! お勤めご苦労様です。」

 俺はがに股で、片手の手の平を上にして伸ばした。

「ちょっと弟くん、ヤクザみたいな挨拶やめてよね。」

「夢を持つ先輩への、最大限の敬意を示した挨拶です。」

 夢という言葉を口にした瞬間、言葉先輩の雰囲気が変わった。

「あんまり調子に乗ってたら……怒るよ?」

 言葉先輩の優しそうな笑顔が逆に怖い。世の中、怒ったら誰でも怖いものであるが、普段怒らない人が怒った時の恐さったらない。

「……すみません。」

 調子に乗っていたことは否めない。俺もまた、知らぬうちに文化祭の空気に当てられてしまっていたようだ。

「今さっきまで仕事してたんですか?」

 氷菓がぴょこんと顔を出しながら、言葉先輩に尋ねた。

「うん。追加の搬入があったからね。ふぅ~やっと一息つけるよ。」

 言葉先輩は背伸びしながら、俺の隣のパイプ椅子に座る。

「氷菓ちゃんのパトロールの方は、特に問題なかった?」

「そうですね。リア充〇ね〇ね団の過激派が、カップルが手を繋いでいるのを、エンガチョして回っているというクレームが出たくらいですね。」

「おいおい、それって結構問題じゃね?」

「丸尾くんが厳重注意してくれたから、もう解決したのよ。」

「へぇ~、さすがリア充〇ね〇ね団の創始者だね。」

 言葉先輩は感心しながら言うが、そもそも丸尾の監督責任の気もする。丸尾には、午前中に妹と絵梨ちゃんにちょっかいを出された事もある。少し腹が立つから、俺は丸尾の悪評を広めておくことにした。

「丸尾は今日、まだ中学生の俺の妹とその友達に、可愛いとか言ってました。それも性的な意味で。」

「えっ、それって……ロリコンってやつかな?」

 言葉先輩は、わりと結構ドン引きしてた。

 氷菓は「来年の新入生、特に童顔な子には、要注意するように警告しておくわ。」と、大きなため息をついた。

 氷菓のその言葉に、「いや、お前がいうなよ。」と言ったところ、「それはどういう意味かしら?」とじろっと睨め付けられた。
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