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二学期 六章 文化祭

032 彼女はきっとシェイクスピアを槍系統の武器か何かと思っている

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 風花たちと別れ、俺は自分のクラスに顔を出した。といっても記録写真をおさめるためであり、仕事を手伝うわけではない。

 生徒会が忙しく、クラスの方にはあまり貢献できていない。その事はみんな了承してくれているのだが、このままだとクラスから存在を消されかねないので、一応顔を出しておきたいという気持ちもあった。

 我がクラスは、クラス委員長脚本の演劇――『社畜と御令嬢』という謎の公演をしていた。

 クラス委員長が脚本を担当した作品である。本人曰く、現代版の『ロミオとジュリエット』……などと宣っていたが、あまりに原作への敬意が足りない。

「委員長ってシェイクスピアの原作読んだことあるの?」

 初めて脚本を読んだ時、俺の問いに対し、彼女は「シェイクスピア……? 武器?」と首を傾げた。

 きっとシェイクスピアは槍系統の武器か何かと思っているのだろう。

「そんなことよりどう? 感想は?」と目を輝かせるクラス委員長。

 彼女の脚本とシェイクスピアの原作を比較するのもおこがましいというのが正直な感想である。本音を言って忠言するのが、本当の優しさかもしれない。まぁ言わないのだけど。

「うん……、いいんじゃない。」

「ほんと!? よかった~!」

 空気を読むのが生きるための処世術だ。主のために苦言を呈す忠臣は早く死ぬ。俺はそれほどクラス委員長に忠誠は誓っていない。

 きっと俺が苦言を呈さずとも、クラスの誰かが言ってくれるだろう。

 しかし、クラスの他の連中は、「逆にありじゃね?」「ストーリーがエモエモ~!」と意味不明の言葉を述べており、賞賛しているようであった。


 教室の前では、帰宅部の田中が受付の椅子に座っていた。

「あっ、青葉君! 来てくれたんだね!」

 田中はエロゲの主人公みたいに長い前髪をなびかせ、にこやかな笑顔で出迎えてくれた。

「おう、記録写真撮りにきただけどな。クラスの演劇の方は順調?」

「うん! クラス委員長の脚本、面白いって好評だよ。」

「まじか……。」

 シェイクスピア作品の有名シーンだけパクリ脚本……いや、原型ないからオマージュというべきか。

「今公演中だから静かに入ってね。」

 田中に誘導され、俺はやや暗い教室内へと足を踏み入れる。

 教室の前面が舞台となっており、眩いスポットライトが当てられている。段ボールで作られた城の上に、御姫様姿に着飾った菅野さんがいた。

 そして城の下には、ラグビー部の太田くんがいる。中世西洋風の世界観の中で、彼だけ何故かスーツにネクタイ姿である。

 初見の人は既に意味不明である。

 菅野さんは、高らかに響く声で太田くん演じるロミオに呼びかけた。

「おぉ! ロミオ~! どうしてあなたは社畜なのっ!」

「ジュ~リエット! 社長令嬢の君とは身分が違い過ぎるんだ!」

 太田くんも低く伸び伸びとした声で、菅野さんに呼びかけた。

「身分の差が何だというの! 会社を辞めて独立するのが無理なら、せめて私を愛すると誓って!」

 ふむ……脚本は酷いものだが、菅野さんと太田くんの名演技も相まって、なかなか面白いかもしれない。彼らの頑張りを写真におさめる。

 劇終盤にて、ロミオとジュリエットのキスシーンがある。もちろんキスするふりであり、実際に唇が触れ合うわけではないが、そのシーンに差し掛かった際、観客席から一人の男が騒ぎだした。

「あぁ……っ! そんな……いやだぁぁ……」

 菅野さんの彼氏である月山である。月山は観客席から舞台上へと上がろうとした。しかし、すかさずうちのクラスの男子連中に阻止された。

「ちょっと、周囲のお客様のご迷惑ですっ!」

 月山があえなく外に連行されていくのを、舞台上の菅野さんは呆れ顔で眺めていた。
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