上 下
104 / 121
二学期 五章 文化祭準備

024 肩書を一々気にするな

しおりを挟む

 文化祭――生徒主体となり、主に各クラスや部活などの創作活動、演劇発表、模擬店を開催する学校行事であり、教育課程において履修(出席)が義務づけられている行事だ。

 文化祭成功という目標のために、文化祭実行委員会なるものが設立され、生徒会や各種委員会と協力し、OB・OGや地域も巻き込んでの大きな行事となる。

 最近は毎日文化祭実行委員会が開かれており、放課後から夜遅くまで企画会議や予算編成が行われている。

 次期生徒会の庶務として、俺も参加が義務づけられてはいるが、サッカー部主将としての仕事を優先させてもらっている。

「雪ちゃんせんぱ~い……。今日も生徒会の仕事ですか……?」

 部活が終わった下校時、後輩のちろるはとても残念そうな顔で尋ねてきた。

「そうだなぁ……。部活の時間は免除されてるから、せめて部活終わりは顔出そうかなと。」

「うぅ……。先輩と一緒に帰りたいですよ~。」

 基本的にちろるは俺のことが大好きである。

 思えば事の始まりは、七月の最初にちろるから告白を受けたことだ。

 しかし、俺には神崎さんという大好きな女の子がいて、その時はよく考えたいと返事を保留。

 その後、ちろるから猛アピールを受け、いつしか俺もそんな一途な彼女に惹かれ始めた。一学期末に何やかんやあり、俺から彼女に告白した。

 ところが、俺の気持ちにまだ迷いがあったことを見透かされ、クリスマスまでを期限に、俺は自分の心をはっきりとさせ、ちろるは俺を惚れさせるという決意をした。

 ――以上、回想終了。

「いや~だ~、先輩と帰りたいっ! 帰りたい! 帰りたい!」

 最近は校内でも、ちろるは積極的にアプローチしてくるようになった。期限のクリスマスまで、もう残り二か月ほどに迫ってきたからだろうか。一方の俺はというと、概ね自分の気持ちを固めつつあった。

「駄々っ子かお前は。」

「むぅ~、あのロリっ子次期会長めっ……。」

 ちろるは恨みがましそうにそう言った。生徒会長選挙以来、氷菓の呼称がロリっ子副会長から、ロリっ子次期会長に変わっている。

「こらこら、逆恨みはやめなさい。っていうかそれなら、ちろるんも生徒会に立候補したらどう?」

「しましたよ! 雪ちゃん先輩が生徒会入るなら、私も入れてくださいって! そしたらロリっ子次期会長に、『嫌よ』とばっさり切り棄てられましたよ!」

「あぁ……そうだったのか……」

 そういえば、氷菓とちろるの二人はよく喧嘩してたな。

 それに生徒会に入りたい志望動機が、好きな人がいるからなんて理由じゃ無理だろう。

「あっ、じゃあ生徒会は無理でも、文化祭実行委員に参加したらどう?」

「おぉ、なるほど! そうしたら一緒に作業できるし、一緒に帰れますね。今すぐ文化祭実行委員に登録してきます!」

「でも、担当部署が一緒になるとは限らないけど……。ってか多分ならないけど。」

 ちろるは俺の言葉を聞かずに、校舎内へと急いで駆けていってしまった。

「仕方ないなぁ、俺も生徒会室の方へ向かうか。」

 各クラスの文化祭準備期間はまだ始まっていないが、既に生徒会及び文化祭実行委員の主要メンバーは大忙しである。

 現生徒会メンバーはもちろん、次期生徒会メンバーもまた各自役割を当てられ、文化祭成功を目標に活動している。

 現生徒会長の姉貴は、全体の監督責任者であり、企画・安全管理・予算決済など全てに渡って、不備や改善点がないかチェック後、それらの承認をする。

 現副会長兼、次期生徒会長の氷菓は、姉貴の補佐として、同様にチェック・承認を担当したり、各部署の進捗状況を確認したりしているらしい。

 現会計の言葉先輩は、文化祭の予算管理や決済報告など、財務管理の長になっている。

 次期副会長の伊達丸尾は、選挙時の宣伝活動が認められ、広報担当の長に抜擢されたらしい。

 そして次期庶務の俺はというと……。

 姉貴は最初の会議で、俺の担当業務を言い渡した。

「雪――お前は、各部署で人手が足りない時に、各長の指示に従い下僕の如く働け。」

「下僕……って、何か正式な担当部署名みたいなのは、俺にはないのか?」

「肩書を一々気にするな。どうしても付けたければ、後で自分で考えてスペシャルコーディネータでもインテグレータでも勝手に名乗るがいい。」

 実体はただの雑用係なのに、そんな仰仰しい肩書を自分でつけるのはさすがに恥ずかしい。

「あと、当日の記録もお願いする。お前カメラ好きだろ。異論はないだろ? ないよな。あるわけないだろ?」

 姉貴の凄みある言葉に、異論を言える空気ではない。

「……はい。」

 肩を落としてしぶしぶ了承する俺に、氷菓は宥めるような微笑みをみせた。

「雪が撮った体育祭の時の写真、躍動感あるいい写真がいっぱいだったって好評だったよ。」

「えっ、そうなの?」

 驚く俺に、隣りに座っていた伊達丸尾が口を開いた。

「あぁ、僕のいる五組でもなかなか評判だったよ。ご苦労様だったね。今回の文化祭でも、いい写真を撮ってくれたまえ。」

 度のきつそうな丸眼鏡をくいっと上げながら、やや上から目線で丸尾は言った。

「おいおい、無知な丸尾くんに教えておくが、『ご苦労様』は目上の者が目下の者に使う言葉だ。」

 俺の言葉に、伊達丸尾は腹立つ顔で反論した。

「何か問題でも? 役職上、次期副会長である僕は、次期雑用係の君よりも上の立場だろう。」

「俺の役職は次期庶務だ。落選したくせに偉ぶってんなよ。」

「何だと! それは聞き捨てならん!」

 ヒートアップし始めた俺と丸尾を諫めたのは、姉貴の一声だった。

「――黙れ。」

 この学校の全員を否応なしに黙らせる冷たい一喝。

「「すみませんっ!!」」

 何はともあれ、生徒会長選挙後の会議でそんな事があり、俺は雑用係兼当日の記録係という役職に当たった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

校長先生の話が長い、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
学校によっては、毎週聞かされることになる校長先生の挨拶。 学校で一番多忙なはずのトップの話はなぜこんなにも長いのか。 とあるテレビ番組で関連書籍が取り上げられたが、実はそれが理由ではなかった。 寒々とした体育館で長時間体育座りをさせられるのはなぜ? なぜ女子だけが前列に集められるのか? そこには生徒が知りえることのない深い闇があった。 新年を迎え各地で始業式が始まるこの季節。 あなたの学校でも、実際に起きていることかもしれない。

♡ちょっとエッチなアンソロジー〜おっぱい編〜♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート詰め合わせ♡

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

13歳女子は男友達のためヌードモデルになる

矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。

これ以上ヤったら●っちゃう!

ヘロディア
恋愛
彼氏が変態である主人公。 いつも自分の部屋に呼んで戯れていたが、とうとう彼の部屋に呼ばれてしまい…

おもらしの想い出

吉野のりこ
大衆娯楽
高校生にもなって、おもらし、そんな想い出の連続です。

処理中です...