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二学期 四章 生徒会選挙
022 最終演説
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生徒会長選挙――全校生徒の前での最終演説の日。全校生徒は体育館に集められ、生徒会長選挙の立候補者たちの演説に耳を傾ける。
壇上に上がった伊達丸尾は、流暢に自分の掲げる志を語った。
「私、伊達丸尾は……みなが平等な学校を目指し、肩身の狭い思いをする生徒がいなくなる学校を実現させたいと思います!」
「「おぉぉ―――!!!」」
伊達丸尾を支援するリア充しねしね団の面々が、大きな歓声をあげた。
「私は見ての通り、あまり異性にモテる容姿ではありません……。友達も多い方ではありませんでした。休み時間は寝たふりをして過ごしたり、昼休みは一人で弁当を食べるのを見られたくないため、トイレで過ごしたりする時もありました……。」
わざとらしく同情を誘うような声音で、伊達丸尾は演説を続ける。
「しかし、私は思ったのです。学校で一人過ごすことは本当に恥ずかしいことなのか? もちろん友達は大事ですし、僕だって友達はほしい。だが、トイレに立つ時ですら友達とつるんで、一人で過ごす者を馬鹿にする方がおかしいのではないか。」
「そうだ、そうだー!!」
伊達丸尾は声の調子をやや上げていき、檄をとばすように言った。
「友達に合わせて空気を読むだけでは、一人じゃ何もできなくなってしまいます。同調圧力に屈せず、一人で昼飯食べて何が悪い!」
「おぉー!!! いいぞー!」
「そこで私は約束します。私が生徒会長になれば、ぼっちが快適に人目を気にせず過ごせる個室スペースの作成。また好きな者同士、自由に二人組を組ませる制度は禁止します! その他にも、みな平等に学園を安心して過ごせるような案を出していくつもりです。」
ここにきて伊達丸尾は声音を、どこか宥めるような優しい調子へと変えた。
「勘違いされる方もいるでしょうが……、決して私は友達がたくさんいて、人気がある人達を目の敵にしているわけではありません。リア充の人たちは、無論これまで通りで構いません。私達ぼっちで非モテな人間も、学園生活を楽しみたい。自由気ままに過ごしたい。それを分かって頂きたい。そしてリア充の皆様も、ぜひぼっち体験をしてみてほしい。一人で過ごす時間は、決して恥ずべきものではなく、むしろ価値あるものだとわかってもらえるはずです。」
伊達丸尾は最後に、よく通る声で体育館全体に響かせるように言った。
「私はきっと皆が安心して暮らせる学校を実現します。どうか皆さま――この伊達丸尾に、清き一票を御願いします。」
会場は一瞬静まり、そして大きな拍手が起こった。それは伊達丸尾の支援者だけでなく、リア充と呼ばれる立場にある者たちからも拍手が起きていた。一人で過ごすのが恥ずかしいと感じる経験は、ぼっちの人間でなくても一度は経験があるだろう。一人でいるのが良い事だと認める彼の言葉は、おそらく多くの生徒から共感を得た。
伊達丸尾――なかなか油断ならない男だ。
多くの生徒は、完全に伊達丸尾のスピーチに飲まれている様子である。わざと自分の辛い過去のエピソードを交え同情を誘い、内容その物も悪くないスピーチではあったがそれだけではない。
昨日までの騒騒しくやや馬鹿げた内容を含んだシュプレヒコールも、わざと道化を演じて生徒の関心を高め、そして今日の演説で真面目で真摯な姿を見せるというギャップを狙っていたのかもしれない。
「がんばれ……氷菓。」
アウェイ気味の空気の中、とても高校生とは思えない小さな身体の少女が壇上に上がっていく。
壇上に上がった氷菓は、マイクを手に取って一歩前に出た。
いくら副会長をしていたとしても、全校生徒の視線の焦点が自身に結ばれ、緊張しないはずがないだろう。大きなプレッシャーが彼女の小柄な肩にのしかかっている。
ぺこりとお辞儀をし、意を決したように顔をあげる。そして会場全体をゆっくり眺めてから、大きく深呼吸をして氷菓は演説を始めた。
「みなさんは……将来の夢がありますか?」
その質問が特定の個人に当てられたものではないのは、会場の誰もが理解している。氷菓は落ち着いた様子で言葉を続けた。
「将来の夢を見つけるって、なかなか難しいと思います。きっとこの中には、もう自分の将来を見据えて、夢を実現するために時間と努力を捧げて日々頑張っている人がいるでしょう。そしてまだ、自分が何をしたいか夢を見つけられていない人もいると思います。」
自分の言葉が聴衆に染みていくのを確認しながら、ゆったりと落ち着いた調子で氷菓は言葉を続けた。
「将来の夢を見つけるには……、きっと先ほど伊達丸尾くんが言っていたように、一人で過ごす時間も大切だと思います。」
その言葉に、候補者席に座る伊達丸尾はやや怪訝そうな顔をした。
「しかし、それだけでは、自分の夢を見つけるのは難しい場合もあります。夢を見つけるには、きっかけとなる様々な経験や知識、それらを得られる場が必要でしょう。」
生徒たちの中には氷菓の言葉に、深く頷いて聞き入る者たちの姿が見られ始めた。
「そして夢が見つかった後……それが実現可能かどうかという問題が出てきます。既に大きな夢を持っている人は理解できると思いますが、大きな夢を叶えるには、それ相応の時間と努力を捧げ、上手くいかなくても諦めない情熱を持つことが必要だと思います。運や才能だけでトントン拍子に上手く人は、おそらく極稀な存在です。」
その言葉に、神崎さんが頷いてるのが見えた。その他にも大きく頷いている生徒達が見えた。彼らはどうも、既に大きな夢を見つけて努力を重ねている人間らしい。
「そこで私は、学校という場が――みなさんの夢を見つける場所であり、夢を応援する場所にしたいと思っています。」
会場からは、自然と拍手が起きた。きっと多くの人間が、自分の夢を見つけたい――夢を応援してもらいたいと願っているからだろう。
「夢を見つけ、夢を追いかけるのは勇気がいることです。でも私はそんな勇気を持った人たちを応援したい。最初は小さな夢でもいい。たくさんの夢を持っていてもいい。人と違った夢をもってもいい。若き夢――見つけ叶える――生徒会……少し恥ずかしいですが、それが私の目指す学校の形です!」
先ほどよりもさらに大きな拍手と歓声が起こった。
晴れ晴れとした表情で会場を見渡した氷菓は、最後により具体的なマニュフェストをいくつか提示したあと、ほっとした様子で壇上を降りていった。
壇上に上がった伊達丸尾は、流暢に自分の掲げる志を語った。
「私、伊達丸尾は……みなが平等な学校を目指し、肩身の狭い思いをする生徒がいなくなる学校を実現させたいと思います!」
「「おぉぉ―――!!!」」
伊達丸尾を支援するリア充しねしね団の面々が、大きな歓声をあげた。
「私は見ての通り、あまり異性にモテる容姿ではありません……。友達も多い方ではありませんでした。休み時間は寝たふりをして過ごしたり、昼休みは一人で弁当を食べるのを見られたくないため、トイレで過ごしたりする時もありました……。」
わざとらしく同情を誘うような声音で、伊達丸尾は演説を続ける。
「しかし、私は思ったのです。学校で一人過ごすことは本当に恥ずかしいことなのか? もちろん友達は大事ですし、僕だって友達はほしい。だが、トイレに立つ時ですら友達とつるんで、一人で過ごす者を馬鹿にする方がおかしいのではないか。」
「そうだ、そうだー!!」
伊達丸尾は声の調子をやや上げていき、檄をとばすように言った。
「友達に合わせて空気を読むだけでは、一人じゃ何もできなくなってしまいます。同調圧力に屈せず、一人で昼飯食べて何が悪い!」
「おぉー!!! いいぞー!」
「そこで私は約束します。私が生徒会長になれば、ぼっちが快適に人目を気にせず過ごせる個室スペースの作成。また好きな者同士、自由に二人組を組ませる制度は禁止します! その他にも、みな平等に学園を安心して過ごせるような案を出していくつもりです。」
ここにきて伊達丸尾は声音を、どこか宥めるような優しい調子へと変えた。
「勘違いされる方もいるでしょうが……、決して私は友達がたくさんいて、人気がある人達を目の敵にしているわけではありません。リア充の人たちは、無論これまで通りで構いません。私達ぼっちで非モテな人間も、学園生活を楽しみたい。自由気ままに過ごしたい。それを分かって頂きたい。そしてリア充の皆様も、ぜひぼっち体験をしてみてほしい。一人で過ごす時間は、決して恥ずべきものではなく、むしろ価値あるものだとわかってもらえるはずです。」
伊達丸尾は最後に、よく通る声で体育館全体に響かせるように言った。
「私はきっと皆が安心して暮らせる学校を実現します。どうか皆さま――この伊達丸尾に、清き一票を御願いします。」
会場は一瞬静まり、そして大きな拍手が起こった。それは伊達丸尾の支援者だけでなく、リア充と呼ばれる立場にある者たちからも拍手が起きていた。一人で過ごすのが恥ずかしいと感じる経験は、ぼっちの人間でなくても一度は経験があるだろう。一人でいるのが良い事だと認める彼の言葉は、おそらく多くの生徒から共感を得た。
伊達丸尾――なかなか油断ならない男だ。
多くの生徒は、完全に伊達丸尾のスピーチに飲まれている様子である。わざと自分の辛い過去のエピソードを交え同情を誘い、内容その物も悪くないスピーチではあったがそれだけではない。
昨日までの騒騒しくやや馬鹿げた内容を含んだシュプレヒコールも、わざと道化を演じて生徒の関心を高め、そして今日の演説で真面目で真摯な姿を見せるというギャップを狙っていたのかもしれない。
「がんばれ……氷菓。」
アウェイ気味の空気の中、とても高校生とは思えない小さな身体の少女が壇上に上がっていく。
壇上に上がった氷菓は、マイクを手に取って一歩前に出た。
いくら副会長をしていたとしても、全校生徒の視線の焦点が自身に結ばれ、緊張しないはずがないだろう。大きなプレッシャーが彼女の小柄な肩にのしかかっている。
ぺこりとお辞儀をし、意を決したように顔をあげる。そして会場全体をゆっくり眺めてから、大きく深呼吸をして氷菓は演説を始めた。
「みなさんは……将来の夢がありますか?」
その質問が特定の個人に当てられたものではないのは、会場の誰もが理解している。氷菓は落ち着いた様子で言葉を続けた。
「将来の夢を見つけるって、なかなか難しいと思います。きっとこの中には、もう自分の将来を見据えて、夢を実現するために時間と努力を捧げて日々頑張っている人がいるでしょう。そしてまだ、自分が何をしたいか夢を見つけられていない人もいると思います。」
自分の言葉が聴衆に染みていくのを確認しながら、ゆったりと落ち着いた調子で氷菓は言葉を続けた。
「将来の夢を見つけるには……、きっと先ほど伊達丸尾くんが言っていたように、一人で過ごす時間も大切だと思います。」
その言葉に、候補者席に座る伊達丸尾はやや怪訝そうな顔をした。
「しかし、それだけでは、自分の夢を見つけるのは難しい場合もあります。夢を見つけるには、きっかけとなる様々な経験や知識、それらを得られる場が必要でしょう。」
生徒たちの中には氷菓の言葉に、深く頷いて聞き入る者たちの姿が見られ始めた。
「そして夢が見つかった後……それが実現可能かどうかという問題が出てきます。既に大きな夢を持っている人は理解できると思いますが、大きな夢を叶えるには、それ相応の時間と努力を捧げ、上手くいかなくても諦めない情熱を持つことが必要だと思います。運や才能だけでトントン拍子に上手く人は、おそらく極稀な存在です。」
その言葉に、神崎さんが頷いてるのが見えた。その他にも大きく頷いている生徒達が見えた。彼らはどうも、既に大きな夢を見つけて努力を重ねている人間らしい。
「そこで私は、学校という場が――みなさんの夢を見つける場所であり、夢を応援する場所にしたいと思っています。」
会場からは、自然と拍手が起きた。きっと多くの人間が、自分の夢を見つけたい――夢を応援してもらいたいと願っているからだろう。
「夢を見つけ、夢を追いかけるのは勇気がいることです。でも私はそんな勇気を持った人たちを応援したい。最初は小さな夢でもいい。たくさんの夢を持っていてもいい。人と違った夢をもってもいい。若き夢――見つけ叶える――生徒会……少し恥ずかしいですが、それが私の目指す学校の形です!」
先ほどよりもさらに大きな拍手と歓声が起こった。
晴れ晴れとした表情で会場を見渡した氷菓は、最後により具体的なマニュフェストをいくつか提示したあと、ほっとした様子で壇上を降りていった。
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