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二学期 四章 生徒会選挙
021 『リア充しねしね団』の正体
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生徒会長選が始まり数日、伊達丸尾率いる団体は休み時間の度に、シュプレヒコールを唱え校内を歩き回った。
「休み時間一人で過ごす生徒を横目に、こそこそ噂するな!」
「「こそこそ噂するなー!」
「好きな者同士で自由にグループやペアを組ませるな!」
「「組ませるなー!」」
相変わらず言っていることはかなり滅茶苦茶なこともあるが、共感を得る部分もそれなりにある。心なしか以前よりも、伊達丸尾の支援者たちの軍勢が大きくなっている気がする。
あれだけ派手に目立てば、面白がって投票する者も多いだろう。これはもしかすると、氷菓の当選が少し危ぶまれるのでは……。
一体何なんだあの伊達丸尾という男は。
全然だてには見えない度のきつそうな丸眼鏡に、坊主頭で骨ばった体つき。必勝と書かれた鉢巻を巻いて、学生運動の右翼学生みたいな男だ。負のオーラを纏った男どもを引き連れ、シュプレヒコールを唱え練り歩いている。
その群衆を壁からひょこっと覗いているちびっ子がいた。現副会長であり、今回の生徒会長選に立候補している永森氷菓である。
「おい、何してんだ?」
そっと背後から忍び寄り、子供のような小柄な肩をがしっと掴む。
「ひにゃぁっ!? な、なんもしてないですっ!」
突然尻尾を握られた猫のように、氷菓はその場で慌てて飛び跳ねて振り向いた。
「……って、なんだ。雪かぁ。びっくりして損した。」
「なんだとはなんだ。それより、相手陣営が随分とでかくなっているようだけど、大丈夫なのか?」
俺の問いに、氷菓は不安そうな顔で答えた。
「正直……相手があんなに多くの支援者を作って、派手な宣伝活動をするなんて想定してなかった。」
確かにこれは想定外だろう。例年の生徒会選挙では、候補者は投票前日の全校生徒の前での演説をすることがメインの選挙活動であり、あとは朝校門前に立って挨拶をする程度だ。
騒がしい集団を遠目で見ていると、伊達丸尾とばっちり目があった。目を細める笑みを浮かべながら、伊達丸尾はつかつかと俺と氷菓の元へと歩み寄ってきた。
「おやおやおや……これはこれは、永森氷菓さんじゃないですか。私どもの選挙活動をそんな影から眺めて、諜報活動か何かですかな?」
伊達丸尾はわざとらしく、鼻に突く言い方をした。
「別に……そんなんじゃありませんけど。」と、氷菓は少し居心地が悪そうな表情で答える。
「ふふふ、私どもは選挙活動が始まる前から周到な準備をしていましたからね。あなたは、『リア充しねしね団』という組織の名を耳にしたことがありますか?」
伊達丸尾は自信に満ち溢れる笑みを浮かべていった。
リア充しねしね団……、一学期から噂は出ていた何かとお騒がせの組織である。
「リア充しねしね団……そのわけわからん組織が何だって言うんだ……。はっ、まさか!?」
俺が驚きの表情を出すと、伊達丸尾は嬉しそうに笑った。
「はははっ。そうですよ。私はこの選挙に勝つために、ずっと前から陣営を作り、暗躍して根回しをしていました。それこそがリア充しねしね団だったのです。リア充しねしね団の創始者こそ、何を隠そうこの私――伊達丸尾でございます。」
球技大会で暗躍していたあの組織……リア充しねしね団の正体が、伊達丸尾の支援団体の母体だったとは。
「せいぜい頑張ってください。まぁ既に大きな差はついているようですがね。」
やはりいちいち言い方が鼻につく。俺は何とか言い返そうとした。
「あんたらこそ、派手な宣伝をうつのはいいが、悪目立ちにならないよう気を付けることだな。」
何とか言い返してみたものの、伊達丸尾は気にも留めない様子で「ご忠告感謝します。」と薄ら笑いを浮かべて去っていった。
「雪……どうしたらいいかな。私ももっと宣伝を大きくするべきかな。」
不安げな表情を浮かべる氷菓に、俺は少し思案してから言った。
「氷菓がそうしたいなら、あの辛気臭い連中と張り合って宣伝を打つのもいいだろう……。きっとお前を支援する人達も集まって応援してくれると思う。だが……、俺はその必要はないと思う。」
「えっ……なんで?」
驚いた表情で氷菓は俺を見上げた。
「伊達丸尾は……これまでに支援団体を作っていたというけれど、氷菓だってこれまで何もしていなかったわけじゃない。副会長として懸命に働く姿は、全校生の目にちゃんと映っている。」
「……。そう……かな。」
「うん。それに氷菓の生徒会長としての志は、きちんとポスターやパンフレットで広報されている。あとはしっかり全校生の前で演説して、熱い想いを伝えるだけで十分だと思うぞ。姉貴がこの一年間で全校生徒に促したこと……それは何だった?」
俺の問いに、氷菓ははっきりとした口調で答えた。
「生徒一人ひとりが、自主性を持って学校生活を送ること。」
「そうだな。」
一人ひとりが自分の考えを持って、主体的に生活できるようにする。そのために、姉貴は全ての行事に全校生徒の意見を多く取り入れるという、手間のかかることをずっとやってきた。
「姉貴が撒いた種が、多くの生徒の中で育っていれば……きっと話題性に流されることなく、みんな自分の頭でしっかり考えて投票するだろう。だからあとは、全校生を前にしっかり想いを伝えるだけでいいと思う。」
「うん……そうだね。わかった。」
氷菓の顔からは、もう不安気な様子は消えていた。
「雪、ありがとう。私の全校生の前での演説――しっかり見ててね。」
そう言って立ち去る氷菓の小さな背中には、気力に溢れた力強さが感じられた。
「休み時間一人で過ごす生徒を横目に、こそこそ噂するな!」
「「こそこそ噂するなー!」
「好きな者同士で自由にグループやペアを組ませるな!」
「「組ませるなー!」」
相変わらず言っていることはかなり滅茶苦茶なこともあるが、共感を得る部分もそれなりにある。心なしか以前よりも、伊達丸尾の支援者たちの軍勢が大きくなっている気がする。
あれだけ派手に目立てば、面白がって投票する者も多いだろう。これはもしかすると、氷菓の当選が少し危ぶまれるのでは……。
一体何なんだあの伊達丸尾という男は。
全然だてには見えない度のきつそうな丸眼鏡に、坊主頭で骨ばった体つき。必勝と書かれた鉢巻を巻いて、学生運動の右翼学生みたいな男だ。負のオーラを纏った男どもを引き連れ、シュプレヒコールを唱え練り歩いている。
その群衆を壁からひょこっと覗いているちびっ子がいた。現副会長であり、今回の生徒会長選に立候補している永森氷菓である。
「おい、何してんだ?」
そっと背後から忍び寄り、子供のような小柄な肩をがしっと掴む。
「ひにゃぁっ!? な、なんもしてないですっ!」
突然尻尾を握られた猫のように、氷菓はその場で慌てて飛び跳ねて振り向いた。
「……って、なんだ。雪かぁ。びっくりして損した。」
「なんだとはなんだ。それより、相手陣営が随分とでかくなっているようだけど、大丈夫なのか?」
俺の問いに、氷菓は不安そうな顔で答えた。
「正直……相手があんなに多くの支援者を作って、派手な宣伝活動をするなんて想定してなかった。」
確かにこれは想定外だろう。例年の生徒会選挙では、候補者は投票前日の全校生徒の前での演説をすることがメインの選挙活動であり、あとは朝校門前に立って挨拶をする程度だ。
騒がしい集団を遠目で見ていると、伊達丸尾とばっちり目があった。目を細める笑みを浮かべながら、伊達丸尾はつかつかと俺と氷菓の元へと歩み寄ってきた。
「おやおやおや……これはこれは、永森氷菓さんじゃないですか。私どもの選挙活動をそんな影から眺めて、諜報活動か何かですかな?」
伊達丸尾はわざとらしく、鼻に突く言い方をした。
「別に……そんなんじゃありませんけど。」と、氷菓は少し居心地が悪そうな表情で答える。
「ふふふ、私どもは選挙活動が始まる前から周到な準備をしていましたからね。あなたは、『リア充しねしね団』という組織の名を耳にしたことがありますか?」
伊達丸尾は自信に満ち溢れる笑みを浮かべていった。
リア充しねしね団……、一学期から噂は出ていた何かとお騒がせの組織である。
「リア充しねしね団……そのわけわからん組織が何だって言うんだ……。はっ、まさか!?」
俺が驚きの表情を出すと、伊達丸尾は嬉しそうに笑った。
「はははっ。そうですよ。私はこの選挙に勝つために、ずっと前から陣営を作り、暗躍して根回しをしていました。それこそがリア充しねしね団だったのです。リア充しねしね団の創始者こそ、何を隠そうこの私――伊達丸尾でございます。」
球技大会で暗躍していたあの組織……リア充しねしね団の正体が、伊達丸尾の支援団体の母体だったとは。
「せいぜい頑張ってください。まぁ既に大きな差はついているようですがね。」
やはりいちいち言い方が鼻につく。俺は何とか言い返そうとした。
「あんたらこそ、派手な宣伝をうつのはいいが、悪目立ちにならないよう気を付けることだな。」
何とか言い返してみたものの、伊達丸尾は気にも留めない様子で「ご忠告感謝します。」と薄ら笑いを浮かべて去っていった。
「雪……どうしたらいいかな。私ももっと宣伝を大きくするべきかな。」
不安げな表情を浮かべる氷菓に、俺は少し思案してから言った。
「氷菓がそうしたいなら、あの辛気臭い連中と張り合って宣伝を打つのもいいだろう……。きっとお前を支援する人達も集まって応援してくれると思う。だが……、俺はその必要はないと思う。」
「えっ……なんで?」
驚いた表情で氷菓は俺を見上げた。
「伊達丸尾は……これまでに支援団体を作っていたというけれど、氷菓だってこれまで何もしていなかったわけじゃない。副会長として懸命に働く姿は、全校生の目にちゃんと映っている。」
「……。そう……かな。」
「うん。それに氷菓の生徒会長としての志は、きちんとポスターやパンフレットで広報されている。あとはしっかり全校生の前で演説して、熱い想いを伝えるだけで十分だと思うぞ。姉貴がこの一年間で全校生徒に促したこと……それは何だった?」
俺の問いに、氷菓ははっきりとした口調で答えた。
「生徒一人ひとりが、自主性を持って学校生活を送ること。」
「そうだな。」
一人ひとりが自分の考えを持って、主体的に生活できるようにする。そのために、姉貴は全ての行事に全校生徒の意見を多く取り入れるという、手間のかかることをずっとやってきた。
「姉貴が撒いた種が、多くの生徒の中で育っていれば……きっと話題性に流されることなく、みんな自分の頭でしっかり考えて投票するだろう。だからあとは、全校生を前にしっかり想いを伝えるだけでいいと思う。」
「うん……そうだね。わかった。」
氷菓の顔からは、もう不安気な様子は消えていた。
「雪、ありがとう。私の全校生の前での演説――しっかり見ててね。」
そう言って立ち去る氷菓の小さな背中には、気力に溢れた力強さが感じられた。
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