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二学期 三章 青春大運動会

016 自分の道は自分で切り開くのだよっ!

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 その後はというと、三年生の特別種目、『戦 ikusa』というチャンバラの種目が行われたり、最後は全校生徒でマイムマイムを踊ったり、体育祭は賑やかな祭りとして和やかに終了した。

 結果は僅差で月山やちろるが属する白組が優勝した。といっても、さすがに高校生にもなると勝ち負けにこだわる者もほとんどみられなかった。

「惜しくも白組に負けちゃったねぇー。」

 神崎さんは赤色の鉢巻を解きながら、俺に話しかけてきた。

「そうだね、でも楽しかった。神崎さんは?」

「うん、たのしかったよー!」

 ころころと笑う神崎さんは、やっぱり可愛い。汗で髪の毛が少しぺたんとなっているのも可愛い。

「最近も、神崎さんはフルート頑張ってるの?」

「もちろんだよ! 吹奏楽部のみんなにもね、音大受けたいって思ってること言ってみたよ。みんなびっくりしてたみたいだったけどね。」

「そうなんだ。もしかして、今日もレッスン?」

「うん……体育祭疲れたけど、毎日楽器には触らないとね。」

「そっか、偉いね。」

 神崎さんは自分の道をはっきり見据え、今もコツコツと努力を続けている。

 それに引き換え俺はというと――。

 自省的な考えを浮かべていると、神崎さんから思わぬ言葉をかけられた。

「雪くんも、今日たくさん頑張ってたね。」

「えっ? 俺は……何もしてないよ。障害物競争も最下位だったし。」

「そうじゃなくて、これだよこれ~!」

 そう言って神崎さんは、今日一日ずっと俺の腕についていた黄色の腕章を指さした。

「記録係お疲れ様! いい写真いっぱい撮れた?」

 あぁ、そのことか。

 今日一日、姉貴から本来は生徒会の仕事である、記録写真の撮影を頼まれていたのだ。この黄色い腕章は、「変態盗撮魔と間違われないようにつけときなさい」と黄色の腕章を渡されたものである。

「うーん……、どうだろう。でも、みんないい表情だったからね。多分いい写真になってるとは思うよ。」

 俺はそう言いながら、首に掛けていたカメラをそっと撫でるように触った。

「そっか、それはよかったよ。このカメラは雪くんの?」

「うん、夏休みの終わりに買ったんだ。」

「そうなんだ~。いいね! 雪くんは将来、写真家になるのかな?」

「えっ? 写真家?」

 将来……? 写真家……? 

 思いがけない言葉に、俺は目を丸くした。そしてしどろもどろに言葉を紡いだ。

「いや、そんな事は……考えたことも……なかったのだけれど……。」

「そうなの? 私はいいと思うけどなぁ。」

 そう言って神崎さんは、夕日を背にくるりと回ってほほ笑んだ。

「でも、雪くんの将来だからね。たくさん考えて、自分の道は自分で切り開くのだよっ!」

 夕日に向かって手を伸ばす神崎さんを、俺は目を細めながら見つめた。

 自分の道――それを決めるのは自分しかいない。

 大樹のように枝分かれしている自分の道の中で、どの道を選択するか、その先に何が待っているのか。

 たくさん考えて――自分で切り開いていく。

「……うん、その通りだね。大丈夫、よく考えるのは得意だ。」

「えへへ。っじゃあ、私はレッスンがあるから帰るね~。打ち上げ、私の分も楽しんできてね!」

 そう言って神崎さんは、早々に荷物をまとめ帰り支度をはじめた。

「うん、頑張ってね。……は? 打ち上げ?」

 すっかり忘れていたが、この後はクラスの打ち上げがあるとかなんとか言っていた。

 神崎さんもいない打ち上げなんて……。

 正直このまま家に帰りたかったが、クラス委員長を筆頭に、球技大会以来よく絡んでくるクラスの男子連中にもやや強引に誘われ、俺も打ち上げに参加することになった。
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