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二学期 三章 青春大運動会

015 『借り人競争』で頭を抱える須崎先輩

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 俺と氷菓が話している最中に、放送アナウンス席に座る風花の声が聞こえてきた。どうも借り人競争の第二回戦が始まったようだ。

「およよ……? 今度は男子生徒が騒いでる。あれ誰ですか?」

 風花の問いに、隣に座る放送部員の女子生徒が答える。

「あれは、サッカー部元キャプテン、三年生の須崎くんですね。」

 どうも須崎先輩はこの競技の第二走者だったらしい。なぜか苦悩に満ちた表情を浮かべている。

 そして彼はきょろきょろと周囲を見渡した後、ばっちり俺と目があった。

「……っ!」

 俺の姿を見つけた須崎先輩は、全速力でこっちに向かって走ってきた。そしてお題の書かれた紙を俺に突きだす。

「おい、雪! これどうしたらいいと思う!?」

「どうしたんですか?」

 困惑しながらその紙に書かれた文字を読む。

「『お題――あなたの好きな人』って書いてありますね……」

 なるほど――借り人競争のお題で、須崎先輩は好きな人を連れて行く必要があるようだ。それゆえに先ほどの苦悩に満ちた表情だったのか。

「そうなんだよ! どうするべきだと思う!? 正直に吹雪さんにお願いしてみるべきだろうか? でもまだ心の準備が……」

 その言葉を聞いた氷菓は、鬼気迫る様子で須崎先輩に詰め寄った

「何ですって!? あなた、吹雪さまの事が好きなんですかっ!?」

「おぉ!? なんだ、ロリっ子副会長じゃないか? なんでそんな怒っているんだ?」

「ぐるるるぅぅぅぅぅっ!!!」

「落ち着け、ガチレズロリっ子!」

 子犬を摘まみあげるように、俺は氷菓のジャージの後ろ襟をつかんだ。

「誰がガチレズロリっ子よっ!?」

 騒ぐ氷菓を須崎先輩から引き離しながら、俺はこの状況の対応策について思案した。


 さて――どうしたものだろうか。参ったなぁ、このまま姉貴に突撃したら、間違いなく須崎先輩は玉砕してしまうだろう。

 ここで俺にはまた、某ラ〇フカードのCMの如く、二つの選択肢が頭に思い浮かんだ。


 本命、ここは男らしく……須崎先輩を姉貴に突撃させる。
 対抗馬、姉貴に突撃させず……適当にお茶を濁す。

 ここで俺の選んだ選択は……っ!


「先輩っ……! 俺のこと――好きですか!?」

 突然の問いに、須崎先輩は首を傾げた。

「――はぁ? いや、そりゃ好きか嫌いかで言ったら好きだけど……。」

 俺の選んだ選択……適当にお茶を濁す。

「さぁ、全員がゴールテープを切りましたねぇ。先ほど騒いでいた須崎くんでしたが、何故か後輩の男子生徒と手を繋いでゴールテープを切りました。というか、あれは……風花さんのお兄さんの青葉雪くんですよね?」

「うーん……何でお兄ちゃんが連れてこられたんだろう。」

「元サッカー部キャプテンと、現サッカー部キャプテンが仲良く手を繋いでゴールしました。お題の紙の内容が気になるところです!」

 お題が発表されると、変な誤解が生まれるかもしれないが仕方ない。先輩の不本意な状況で、想いを告白させるわけにはいかない。

「はい、それでは……須崎君のお題発表です! お題は……『あなたの好きな人』です!」

 ざわ……ざわ……。ざわ……ざわ……。

 予想通り、会場からはどよめきが起こった。

「おぉ~っと! これはサッカー部の先輩後輩の禁断の愛でしょうかっ!? どう思いますか、解説の風花さん!?」

「そうですねぇ。LGBTなども含めて、今は多様性を認める時代ですからね。いいんじゃないですか?」

「なるほどー。」

 おい、こら風花……適当な事いってんじゃねぇぞ。

 解説の風花は、にやにやした表情で追加の解説を入れた。

「まぁ実際のところ、私の知る限りお兄ちゃんにそっちの気はないですからね。おそらく『あなたの好きな人』というお題に対し、同性の友人や先生あたりを連れてきてお茶を濁すという、よくある逃げの一手だと考えられます。」

「なるほど、まぁ『好き』という言葉には広義の意味がありますからね。」

「まぁ男気ないといえば男気ないですけどねぇ。」

 全く、好き勝手なことを言う解説だ。しかしまぁ風花のおかげで変な噂もたたないだろう。

 しかし、一部の腐女子たちは、俺と須崎先輩でピンク色な妄想を駆り立てていたという。
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