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夏休み 四章 海水浴とそれぞれの夢
024 俺の心が「好きだ」って叫びたがっているんだ!
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「あれ? 何で雪は腹を抑えてるんだ? おーい、大丈夫か?」
昼食の買い物を終えた須崎先輩は、うな垂れるようにテーブルにつっぷている俺の肩を揺さぶりながら尋ねた。
「冷たいラムネを一気に飲んでお腹を壊したんだろう。」
俺の腹を拳で打ち抜いた張本人である姉貴は、何事もなかったように須崎先輩にそう言った。
「そ、そうですか! もう、困った弟さんですねぇ……///」
スラッシュを三本も付けて頬を赤らめて……、全く姉貴の言葉を鵜呑みにする須崎先輩にも困ったものである。
姉貴と須崎先輩のやりとりを見て、いっそうぐったりした表情を浮かべていると、砂浜に打ち寄せるさざ波のような癒し効果がある声が聞こえてきた。
「あれ? 雪くん? 何でそんな、誰かの秘密に少し強引に触れようとして、その罰としてボディを打ち抜かれたボクサーみたいな苦痛に満ちた表情でぐったりしてるの?」
昼食を買ってきた神崎さんが、不思議そうにそう尋ねてきた。いや……、神崎さんの洞察力がおかしい。
「あぁ、こいつは家ではいつもそんな顔だよ。」
姉貴は何事もなかったようにそう言った。
家ではいつも苦痛に満ちた表情っておかしいだろ。ふざけんなっ、お前が俺のボディ打ち抜いたんだろ!……と口に出して言いたかったものの、腹に響く痛みで声がしばらく出せなかった。
姉貴に打ち抜かれた腹部の痛みもなんとか治まり、俺は自分が買った味濃いめの焼きそばと、まだ温かく塩味がよくきいたフライドポテトを食べ始めた。
「雪くんのフライドポテト……、少しもらってもいい?」
俺が昼食を食べ始めたタイミングで、神崎さんは少し気恥ずかしいのかもじもじした様子でそう尋ねてきた。
「もちろん。いっぱい食べていいよ。」
誰かのせいで、今ちょっと胃が凹んで食欲がないため、むしろ食べてもらったほうが有り難い。
「やった~。ありがと!」
そう言って、神崎さんはポテトを摘まんで頬張った。
神崎さんはおそらく、フライドポテト食べたいなぁと思いつつも、買った本人がまだ手を付けてないものを、横からおねだりするのは気が引けていたのだろう。姉貴は俺のフライドポテトを、さっきから断りもなく勝手に摘まんでいたけど。
そういうところが、また何とも人のよさというか、神崎さんの素敵なところだと思う。笑顔でポテトを頬張る彼女の姿を見て、俺は言語化できない幸福感を感じた。
――駄目だな。これはよろしくない。
俺は神崎さんの容姿が好きなだけでなく、その内面……考え方、性格、立ち振る舞い、人への気遣い、どれにおいてもやはり自分の好みのど真ん中だ。チャラ付いた頭の悪そうなそこらの女子高生とは、月とすっぽん、天と地の差を画している。
彼女と接すれば接するほどに、彼女の魅力はさらに深く知ることになるのだろう。駄目だ、俺の心が好きだって叫びたがっている。心が叫びたがっているんだ!!!
まずい、このままではっ――心が抑えられない。
「姉貴――ちょっと頭はたいてくれる?」
「もちろんいいぞ。」
その直後“ゴスッ”と鈍い拳骨が脳天に振り下ろされ、俺の顔面は机にめり込んだ。
「はたいてって……言ったんですけど……。」
「あぁ、すまん。間違えた。」
ったく、この姉貴は……。だが、おかげで俺の心は少し平静を取り戻した。
平静さを取り戻した俺の脳は、今度はもう一人の俺の心を占める少女について考え始めた。
――ちろるは今、どこで何をしているんだろう……。彼女が今の光景を見たら、きっとまた辛い思いをさせてしまうだろう。
神崎さんは他の女子と違う――しかし、それはちろるにも言えることだった。
ちろるの容姿は普通に可愛いし、その内面……はっきり気持ちを伝えられるところ、一途に俺を想い続けてくれる事、周囲に気遣いできる事、ボケたり突っ込んだりしながら楽しく会話を弾ませられる……。
やっぱりちろるの事は好きだ。彼女がひたむきに俺と接してくれるほどに、俺は彼女の魅力をさらに深く知ることになるのだろう。駄目だ、俺の心が叫び……以下略……。
再び鈍い音ともに、俺の顔面はテーブルにめり込んだ。
「まだ何も……言ってないんですけど……」
「いや、またぐだぐだと考えこんでいただろ? 礼には及ばん。」
姉貴はそう言って、振り下ろした拳骨を俺の頭から離した。
「……あざす。」
さすが、姉貴は俺の考えていることなど全てお見通しであるらしい。このブラコンめ!
しかし――姉貴といえども、何でもお見通しではなかったらしい。今日一日、姉貴は一つ大きな思い違いをしていた。
昼食の買い物を終えた須崎先輩は、うな垂れるようにテーブルにつっぷている俺の肩を揺さぶりながら尋ねた。
「冷たいラムネを一気に飲んでお腹を壊したんだろう。」
俺の腹を拳で打ち抜いた張本人である姉貴は、何事もなかったように須崎先輩にそう言った。
「そ、そうですか! もう、困った弟さんですねぇ……///」
スラッシュを三本も付けて頬を赤らめて……、全く姉貴の言葉を鵜呑みにする須崎先輩にも困ったものである。
姉貴と須崎先輩のやりとりを見て、いっそうぐったりした表情を浮かべていると、砂浜に打ち寄せるさざ波のような癒し効果がある声が聞こえてきた。
「あれ? 雪くん? 何でそんな、誰かの秘密に少し強引に触れようとして、その罰としてボディを打ち抜かれたボクサーみたいな苦痛に満ちた表情でぐったりしてるの?」
昼食を買ってきた神崎さんが、不思議そうにそう尋ねてきた。いや……、神崎さんの洞察力がおかしい。
「あぁ、こいつは家ではいつもそんな顔だよ。」
姉貴は何事もなかったようにそう言った。
家ではいつも苦痛に満ちた表情っておかしいだろ。ふざけんなっ、お前が俺のボディ打ち抜いたんだろ!……と口に出して言いたかったものの、腹に響く痛みで声がしばらく出せなかった。
姉貴に打ち抜かれた腹部の痛みもなんとか治まり、俺は自分が買った味濃いめの焼きそばと、まだ温かく塩味がよくきいたフライドポテトを食べ始めた。
「雪くんのフライドポテト……、少しもらってもいい?」
俺が昼食を食べ始めたタイミングで、神崎さんは少し気恥ずかしいのかもじもじした様子でそう尋ねてきた。
「もちろん。いっぱい食べていいよ。」
誰かのせいで、今ちょっと胃が凹んで食欲がないため、むしろ食べてもらったほうが有り難い。
「やった~。ありがと!」
そう言って、神崎さんはポテトを摘まんで頬張った。
神崎さんはおそらく、フライドポテト食べたいなぁと思いつつも、買った本人がまだ手を付けてないものを、横からおねだりするのは気が引けていたのだろう。姉貴は俺のフライドポテトを、さっきから断りもなく勝手に摘まんでいたけど。
そういうところが、また何とも人のよさというか、神崎さんの素敵なところだと思う。笑顔でポテトを頬張る彼女の姿を見て、俺は言語化できない幸福感を感じた。
――駄目だな。これはよろしくない。
俺は神崎さんの容姿が好きなだけでなく、その内面……考え方、性格、立ち振る舞い、人への気遣い、どれにおいてもやはり自分の好みのど真ん中だ。チャラ付いた頭の悪そうなそこらの女子高生とは、月とすっぽん、天と地の差を画している。
彼女と接すれば接するほどに、彼女の魅力はさらに深く知ることになるのだろう。駄目だ、俺の心が好きだって叫びたがっている。心が叫びたがっているんだ!!!
まずい、このままではっ――心が抑えられない。
「姉貴――ちょっと頭はたいてくれる?」
「もちろんいいぞ。」
その直後“ゴスッ”と鈍い拳骨が脳天に振り下ろされ、俺の顔面は机にめり込んだ。
「はたいてって……言ったんですけど……。」
「あぁ、すまん。間違えた。」
ったく、この姉貴は……。だが、おかげで俺の心は少し平静を取り戻した。
平静さを取り戻した俺の脳は、今度はもう一人の俺の心を占める少女について考え始めた。
――ちろるは今、どこで何をしているんだろう……。彼女が今の光景を見たら、きっとまた辛い思いをさせてしまうだろう。
神崎さんは他の女子と違う――しかし、それはちろるにも言えることだった。
ちろるの容姿は普通に可愛いし、その内面……はっきり気持ちを伝えられるところ、一途に俺を想い続けてくれる事、周囲に気遣いできる事、ボケたり突っ込んだりしながら楽しく会話を弾ませられる……。
やっぱりちろるの事は好きだ。彼女がひたむきに俺と接してくれるほどに、俺は彼女の魅力をさらに深く知ることになるのだろう。駄目だ、俺の心が叫び……以下略……。
再び鈍い音ともに、俺の顔面はテーブルにめり込んだ。
「まだ何も……言ってないんですけど……」
「いや、またぐだぐだと考えこんでいただろ? 礼には及ばん。」
姉貴はそう言って、振り下ろした拳骨を俺の頭から離した。
「……あざす。」
さすが、姉貴は俺の考えていることなど全てお見通しであるらしい。このブラコンめ!
しかし――姉貴といえども、何でもお見通しではなかったらしい。今日一日、姉貴は一つ大きな思い違いをしていた。
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