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一学期 四章 球技大会の打ち上げ
038 青葉はシスコンかと聞かれたら、半分イエスで半分ノーである。
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「あっ、先頭までもうそろそろだね」
神崎さんと俺は、列のほぼ最後尾に並んでおり、ようやく先頭が見えてきた。コック帽を被った男性が、金属製のワゴンの上に乗ったローストビーフの皿を配っているのが見える。
ワゴンの上のローストビーフをを眺めていた俺は、ある事に気が付いて、「……あっ」と思わず声を漏らした。
「うん? どうかした?」
漏れた声が聞こえてしまい、神崎さんは不思議そうに俺の顔を眺める。
「いや……、なんかお腹がいっぱいになってきたかも。俺やっぱりローストビーフはいいや」
「ええっ? でも、先頭まであともう少しだよ?」
「……うん。っでも、俺はいいかな。コーヒー淹れて、先に席戻るよ」
そう告げて、俺はせっかく並んでいた列から脱け出た。何故なら、ローストビーフの皿が、もうあと残りわずかしかなかったことに気付いたからだ。
先ほど、神崎さんが俺の試合を観ていた喜びに、頬がにやけてしまうのを見られないよう列の後ろを振り返った時、俺の背後には中年の叔父さんと、その後ろに小学生低学年くらいの男の子の姿を見た。
俺が皿を受け取ってしまうと、まず間違いなくあの子の分のローストビーフは無くなってしまう。あの男の子の前で無くなってしまうなんて、そんな居た堪れない光景を見るくらいなら、気づいてしまった奴が列をさっと抜けたほうがよっぽどいい。
まぁ神崎さんと一緒にローストビーフを食べられなかったのは、少しだけ残念だったけれども……。
俺はコーヒーを淹れて、少し肩を落としながら自分の席に戻ろうとした。その時、リラクゼーション効果のある可愛いらしい声が俺の名を呼んだ。
「雪くんっ!」
神崎さんは、お目当てのローストビーフを両手で持ちながら、にこにこと話しかけてきた。
「神崎さん、ローストビーフ取ってきたんだね」
「……うん///」
神崎さんが嬉しそうで何よりだ。彼女がにこにこしているなら、俺はそれでもう十分に満足である。
「あのねっ! 私、ローストビーフをもらった後になってからなんだけど……。雪くんが、どうして急に列を抜けたのかわかっちゃった」
「えっ……?」
「雪くんって、すごい優しい人なんだね。……あのさ、ローストビーフね。二切れ入ってるからさ……。一緒に半分こしよ?」
「えっ……、いいの?」
「もちろんだよ!」
情けは人の為ならず……、善行も悪行も含めて、回り回って自分に戻ってくることはあるようだ。その日食べたローストビーフは、間違いなく俺のこれまでの人生の中で、一番おいしいローストビーフだった。
その後は女子と甘党の男子たちは、スイーツを頬張り、クラスメイト達はみな食べ過ぎてしまって膨らんだ腹を、たぬきが腹鼓を打つように叩いた。
「いっぱい食べたね。お腹ぽんぽこりんになったよ。」
そう言いながら、神崎さんもお腹をさすった。その小さなお腹をさすった。
全然ぽんぽこりんには見えないけど……。きっと胃が小さいから見た感じではわからないけど、彼女の胃は満腹なのだろう。そして言葉のチョイスがなんとも愛らしい。ぽんぽこりんとか、普通はちびまる子ちゃんのOPでしか耳にしない。
「二次会いく人~っ?」
委員長が、クラスメイト達に呼びかけている。
イケイケ連中たちは、どうやら二次会でカラオケに行くらしい。高校生にもなったし、カラオケオールとかに、少しだけ憧れたり抱いたりすることもないではないが、別に人様の前で披露するほどいい声してるわけでもない。(俺の声がCV神谷さんとか、杉田さんとかなら喜んで行くところだが……。)
結局のところ、俺の行動は彼女の意向で決まるのだ。
神崎さんが行くなら俺も行く。
「二次会カラオケか~どうする?」
菅野さんが神崎さんに二次会の参加の是非を尋ねた。
「私は遠慮しとこうかな~。あんまり遅くなると、家族が心配するし」
そりゃ、家族だって心配だろう。こんな可愛らしい娘がいたら、どんな男だって過保護の親ばかになってしまう。門限があって腹を立てる女子高生の気持ちもわかるが、俺は高校生にして、むしろ子を持つ親の気持ちの方に共感してしまうのだった。
「青葉くんは? せっかくだしカラオケいかない?」
クラス委員長は、参加人数の確認のため、俺にも声をかけてきた。
「いや、妹が心配するから帰るわ」
「青葉君って、シスコンなの?」
「シスコンかと聞かれたら、半分イエス(妹)で、半分ノー(姉貴)かな」
「はい?」
委員長は、こいつ何いってんの……? という訝し気な目で見てきた。
「っいや……、まぁ俺はいいよ。楽しんできてくれ」
「そっか、ちょっと残念だな……///」
残念? まぁクラス委員長としては、二次会にも多くのクラスメイトに集まってほしいのだろうけども。どうせ行かないだろう……って奴にも声をかけないといけないとは、委員長という仕事も大変だ。
委員長は他のクラスメイト達にも尋ねて、参加人数を確認し、電話でカラオケの予約を取っていた。
「っじゃあ、一次会で帰っちゃう人もいるから、ここで一度しめましょうか」
「お手を拝借、よぉ~っ!」
“パン!”
委員長の合図の一丁締めにて、球技大会の打ち上げはお開きとなった。
神崎さんと俺は、列のほぼ最後尾に並んでおり、ようやく先頭が見えてきた。コック帽を被った男性が、金属製のワゴンの上に乗ったローストビーフの皿を配っているのが見える。
ワゴンの上のローストビーフをを眺めていた俺は、ある事に気が付いて、「……あっ」と思わず声を漏らした。
「うん? どうかした?」
漏れた声が聞こえてしまい、神崎さんは不思議そうに俺の顔を眺める。
「いや……、なんかお腹がいっぱいになってきたかも。俺やっぱりローストビーフはいいや」
「ええっ? でも、先頭まであともう少しだよ?」
「……うん。っでも、俺はいいかな。コーヒー淹れて、先に席戻るよ」
そう告げて、俺はせっかく並んでいた列から脱け出た。何故なら、ローストビーフの皿が、もうあと残りわずかしかなかったことに気付いたからだ。
先ほど、神崎さんが俺の試合を観ていた喜びに、頬がにやけてしまうのを見られないよう列の後ろを振り返った時、俺の背後には中年の叔父さんと、その後ろに小学生低学年くらいの男の子の姿を見た。
俺が皿を受け取ってしまうと、まず間違いなくあの子の分のローストビーフは無くなってしまう。あの男の子の前で無くなってしまうなんて、そんな居た堪れない光景を見るくらいなら、気づいてしまった奴が列をさっと抜けたほうがよっぽどいい。
まぁ神崎さんと一緒にローストビーフを食べられなかったのは、少しだけ残念だったけれども……。
俺はコーヒーを淹れて、少し肩を落としながら自分の席に戻ろうとした。その時、リラクゼーション効果のある可愛いらしい声が俺の名を呼んだ。
「雪くんっ!」
神崎さんは、お目当てのローストビーフを両手で持ちながら、にこにこと話しかけてきた。
「神崎さん、ローストビーフ取ってきたんだね」
「……うん///」
神崎さんが嬉しそうで何よりだ。彼女がにこにこしているなら、俺はそれでもう十分に満足である。
「あのねっ! 私、ローストビーフをもらった後になってからなんだけど……。雪くんが、どうして急に列を抜けたのかわかっちゃった」
「えっ……?」
「雪くんって、すごい優しい人なんだね。……あのさ、ローストビーフね。二切れ入ってるからさ……。一緒に半分こしよ?」
「えっ……、いいの?」
「もちろんだよ!」
情けは人の為ならず……、善行も悪行も含めて、回り回って自分に戻ってくることはあるようだ。その日食べたローストビーフは、間違いなく俺のこれまでの人生の中で、一番おいしいローストビーフだった。
その後は女子と甘党の男子たちは、スイーツを頬張り、クラスメイト達はみな食べ過ぎてしまって膨らんだ腹を、たぬきが腹鼓を打つように叩いた。
「いっぱい食べたね。お腹ぽんぽこりんになったよ。」
そう言いながら、神崎さんもお腹をさすった。その小さなお腹をさすった。
全然ぽんぽこりんには見えないけど……。きっと胃が小さいから見た感じではわからないけど、彼女の胃は満腹なのだろう。そして言葉のチョイスがなんとも愛らしい。ぽんぽこりんとか、普通はちびまる子ちゃんのOPでしか耳にしない。
「二次会いく人~っ?」
委員長が、クラスメイト達に呼びかけている。
イケイケ連中たちは、どうやら二次会でカラオケに行くらしい。高校生にもなったし、カラオケオールとかに、少しだけ憧れたり抱いたりすることもないではないが、別に人様の前で披露するほどいい声してるわけでもない。(俺の声がCV神谷さんとか、杉田さんとかなら喜んで行くところだが……。)
結局のところ、俺の行動は彼女の意向で決まるのだ。
神崎さんが行くなら俺も行く。
「二次会カラオケか~どうする?」
菅野さんが神崎さんに二次会の参加の是非を尋ねた。
「私は遠慮しとこうかな~。あんまり遅くなると、家族が心配するし」
そりゃ、家族だって心配だろう。こんな可愛らしい娘がいたら、どんな男だって過保護の親ばかになってしまう。門限があって腹を立てる女子高生の気持ちもわかるが、俺は高校生にして、むしろ子を持つ親の気持ちの方に共感してしまうのだった。
「青葉くんは? せっかくだしカラオケいかない?」
クラス委員長は、参加人数の確認のため、俺にも声をかけてきた。
「いや、妹が心配するから帰るわ」
「青葉君って、シスコンなの?」
「シスコンかと聞かれたら、半分イエス(妹)で、半分ノー(姉貴)かな」
「はい?」
委員長は、こいつ何いってんの……? という訝し気な目で見てきた。
「っいや……、まぁ俺はいいよ。楽しんできてくれ」
「そっか、ちょっと残念だな……///」
残念? まぁクラス委員長としては、二次会にも多くのクラスメイトに集まってほしいのだろうけども。どうせ行かないだろう……って奴にも声をかけないといけないとは、委員長という仕事も大変だ。
委員長は他のクラスメイト達にも尋ねて、参加人数を確認し、電話でカラオケの予約を取っていた。
「っじゃあ、一次会で帰っちゃう人もいるから、ここで一度しめましょうか」
「お手を拝借、よぉ~っ!」
“パン!”
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