21 / 121
一学期 三章 球技大会の幕開け
021 神崎さんは、バドミントンをする姿もとっても可愛い。
しおりを挟む
神崎さんが男子の球技大会の試合を観に来てくれないのは、もうこの際どうしようもないので仕方あるまい。だが、こちらから体育館に足を運び、神崎さんのバドミントンの試合を応援に行くというのはどうだろうか。
まさにコペルニクス的発想である。物事の見方を180度変える発見だった。
しかし、この天才的発想には、実行に移すには大きな問題点があった。それは無論、一人で女子の応援に行くなんて……初心な俺には恥ずかしくて出来ない! ということである。
一人で体育館に行くと、おそらくこうなるだろう。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
体育館の扉をおそるおそる開き、中の様子を覗きこむ。見渡す限りは女子ばかりだ。一部の男子がいるが、あれは所謂世間で言うところのパリピ……とてもじゃないが、彼らに交じって肩を並べて応援するなんてできやしない。
そこで俺はこそこそと体育館の隅で、女子のバドミントンの試合を見物する。
「ちょっと……青葉が一人でうちらの試合観に来てるよ……。」
「うっわ。ほんとだ~。何で一人で見に来てんの? ちょっと気持ち悪くない?」
とまぁ、こんな感じに……非常に居た堪れない、悲しい男子高校生の図が容易に想像できてしまう。もう想像しただけでしんどくなってくる。
「……うわ~っ」
俺は石段の上で、頭を抱えながら唸った。
神崎さんがバドミントンしてるところめっちゃ見たい! っでも、一人で体育館まで応援に行くとか絶対無理っ! 超絶恥ずかしい……。
おい、誰かバドミントンの応援行くとか言えよ! 頼むから……おい、真野! お前バスケ部だろ! 普段体育館使ってんだろ? 「暇だからバスケしに体育館いくわ」とか言えや。もう誰でもいいから言ってくれよ~!!!
「おい、何を一人頭を抱えて唸っているんだ?キモイんだけど。」
この辛辣な凍てつくような声……そしていい歳して、すぐ「キモイ」とか言っちゃうのは間違いなく姉貴である。
「もう、吹雪ちゃん。可愛い弟君にそんなこと言っちゃ駄目でしょう?」
そしてつい甘えたくなるこの声は、間違いなく言葉おね……言葉先輩である。おそるおそる俺は、声のする方向へと顔をあげた。
「何してんですか?二人とも……。」
石段の上では、姉貴と言葉先輩が、何やら段ボールを抱えて立っていた。
「倉庫から三年の球技大会で使う備品を運ぼうと思ってな。今は試合がないのなら丁度いい。手伝いなさい。」
「……いや、この後試合だし。」
嘘である。本当はこの後の試合のそのさらに後が試合である。しかし、簡単にこき使われてばかりはいけない。
しかし、姉貴は全てを見透かしたようにこう言った。
「そうか、残念だな。ちなみにこの荷物は、体育館に運び込むつもりなんだがな。今頃、体育館では、二年の女子がバトミントンの試合をしているだろうな。……では、こんな冷たい弟は放っといて、さっさと体育館に向かうとしよう。」
「……っ!?すんません!手伝います。お荷物お持ちします!」
「どうしたの弟くん?急にやる気まんまんだね。」
「言葉先輩、女性がこんな重たい荷物持っちゃ駄目ですよ。俺が持ちます。」
「えっ……あ、ありがとう///」
「おい、私のも持ちなさいよ。」
「姉貴は俺より力あるから大丈夫だろ?」
そう言った瞬間、音速のパンチが俺の側頭部をかすめた。摩擦でちりっと俺の髪が焦げる音がした。
「何か言ったか?」
「いえ……何でもございません……。」
「全く、まだ荷物はある。こっちはいいから、あそこの段ボールを運ぶのを手伝ってくれ。」
「はいはい……。」
こうして俺は段ボールを担ぎ、姉貴と言葉先輩とともに体育館へと向かった。何という僥倖であろうか、きっと柄にもなくクラスのために頑張った俺に、天からのお恵みが授けられたのだろう。
姉貴にも感謝しなくては……。
姉貴には一年の頃から、俺が神崎さんに片思いしていることを感づかれている。まぁ姉貴は弟の恋路なんかに何の興味もないらしく、別に俺の恋路の邪魔をしてきたりはしない。ただまぁ、何かあれば弱みとしてチラつかせてくる程度だ。
体育館の扉を開くと、そこには女子高生たちが、きゃっきゃ、うふふとバドミントンを楽しむ素敵な光景が広がっていた。その中でも圧倒的な神聖さすら漂う彼女へと、俺の視線は釘付けになった。
神崎さんは、同じく吹奏楽部の菅野さんとペアになり、バドミントンの試合をしている真っ最中だった。
「おい、早く中へ入るぞ。」
「う、うん。わかってるよ……。」
同級生の女子ばっかりの体育館に、男子が一人入り込むのには少し勇気がいる。
しかし、今は生徒会長である姉貴の仕事を手伝わされている、可哀そうな弟という構図が、腕に抱える段ボールからも一目瞭然。俺にはこの女子だけの園へ立ち入る大義名分があるんだ。何も怖がる心配はない。
姉貴と言葉先輩の後に続いて、球技大会の邪魔にならないよう、体育館の端の方を歩いていく。
神崎さんは真剣な表情で、バドミントンのラケットを振っていた。しかし、客観的に見ても、彼女はあまり運動神経の良い方ではない。
神崎さんは頭上高くに上がった羽に狙いを定め、勢いよくラケットを振り抜いた。しかし、見事に空振りし、バドミントンの羽はこつんと神崎さんの頭でバウンドし、そのまま頭の上にのっかった。
「あれれ?」
神崎さんは不思議そうにラケットを見つめた。きっとラケットに穴があいてないか確認しているのだろう。
「あれれ?」 だってさ。もう可愛いったらありゃしないね。俺がバドミントンの羽でも、ついラケットを避けて、神崎さんの小さな頭の上に着陸したくなってしまうもの。
「おい、何立ち止まっている。早くステージの上に持って行くぞ。」
「えっ……あぁ。」
ついつい阿呆なことを考えてしまうほどに、神崎さんのバドミントンする姿は可愛かった。神崎さんのことを考えると、俺の知能はおそらくサボテンと同じくらいまで低くなるらしい。
これだけでもう今日の球技大会に参加した価値はありそうだ。
まさにコペルニクス的発想である。物事の見方を180度変える発見だった。
しかし、この天才的発想には、実行に移すには大きな問題点があった。それは無論、一人で女子の応援に行くなんて……初心な俺には恥ずかしくて出来ない! ということである。
一人で体育館に行くと、おそらくこうなるだろう。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
体育館の扉をおそるおそる開き、中の様子を覗きこむ。見渡す限りは女子ばかりだ。一部の男子がいるが、あれは所謂世間で言うところのパリピ……とてもじゃないが、彼らに交じって肩を並べて応援するなんてできやしない。
そこで俺はこそこそと体育館の隅で、女子のバドミントンの試合を見物する。
「ちょっと……青葉が一人でうちらの試合観に来てるよ……。」
「うっわ。ほんとだ~。何で一人で見に来てんの? ちょっと気持ち悪くない?」
とまぁ、こんな感じに……非常に居た堪れない、悲しい男子高校生の図が容易に想像できてしまう。もう想像しただけでしんどくなってくる。
「……うわ~っ」
俺は石段の上で、頭を抱えながら唸った。
神崎さんがバドミントンしてるところめっちゃ見たい! っでも、一人で体育館まで応援に行くとか絶対無理っ! 超絶恥ずかしい……。
おい、誰かバドミントンの応援行くとか言えよ! 頼むから……おい、真野! お前バスケ部だろ! 普段体育館使ってんだろ? 「暇だからバスケしに体育館いくわ」とか言えや。もう誰でもいいから言ってくれよ~!!!
「おい、何を一人頭を抱えて唸っているんだ?キモイんだけど。」
この辛辣な凍てつくような声……そしていい歳して、すぐ「キモイ」とか言っちゃうのは間違いなく姉貴である。
「もう、吹雪ちゃん。可愛い弟君にそんなこと言っちゃ駄目でしょう?」
そしてつい甘えたくなるこの声は、間違いなく言葉おね……言葉先輩である。おそるおそる俺は、声のする方向へと顔をあげた。
「何してんですか?二人とも……。」
石段の上では、姉貴と言葉先輩が、何やら段ボールを抱えて立っていた。
「倉庫から三年の球技大会で使う備品を運ぼうと思ってな。今は試合がないのなら丁度いい。手伝いなさい。」
「……いや、この後試合だし。」
嘘である。本当はこの後の試合のそのさらに後が試合である。しかし、簡単にこき使われてばかりはいけない。
しかし、姉貴は全てを見透かしたようにこう言った。
「そうか、残念だな。ちなみにこの荷物は、体育館に運び込むつもりなんだがな。今頃、体育館では、二年の女子がバトミントンの試合をしているだろうな。……では、こんな冷たい弟は放っといて、さっさと体育館に向かうとしよう。」
「……っ!?すんません!手伝います。お荷物お持ちします!」
「どうしたの弟くん?急にやる気まんまんだね。」
「言葉先輩、女性がこんな重たい荷物持っちゃ駄目ですよ。俺が持ちます。」
「えっ……あ、ありがとう///」
「おい、私のも持ちなさいよ。」
「姉貴は俺より力あるから大丈夫だろ?」
そう言った瞬間、音速のパンチが俺の側頭部をかすめた。摩擦でちりっと俺の髪が焦げる音がした。
「何か言ったか?」
「いえ……何でもございません……。」
「全く、まだ荷物はある。こっちはいいから、あそこの段ボールを運ぶのを手伝ってくれ。」
「はいはい……。」
こうして俺は段ボールを担ぎ、姉貴と言葉先輩とともに体育館へと向かった。何という僥倖であろうか、きっと柄にもなくクラスのために頑張った俺に、天からのお恵みが授けられたのだろう。
姉貴にも感謝しなくては……。
姉貴には一年の頃から、俺が神崎さんに片思いしていることを感づかれている。まぁ姉貴は弟の恋路なんかに何の興味もないらしく、別に俺の恋路の邪魔をしてきたりはしない。ただまぁ、何かあれば弱みとしてチラつかせてくる程度だ。
体育館の扉を開くと、そこには女子高生たちが、きゃっきゃ、うふふとバドミントンを楽しむ素敵な光景が広がっていた。その中でも圧倒的な神聖さすら漂う彼女へと、俺の視線は釘付けになった。
神崎さんは、同じく吹奏楽部の菅野さんとペアになり、バドミントンの試合をしている真っ最中だった。
「おい、早く中へ入るぞ。」
「う、うん。わかってるよ……。」
同級生の女子ばっかりの体育館に、男子が一人入り込むのには少し勇気がいる。
しかし、今は生徒会長である姉貴の仕事を手伝わされている、可哀そうな弟という構図が、腕に抱える段ボールからも一目瞭然。俺にはこの女子だけの園へ立ち入る大義名分があるんだ。何も怖がる心配はない。
姉貴と言葉先輩の後に続いて、球技大会の邪魔にならないよう、体育館の端の方を歩いていく。
神崎さんは真剣な表情で、バドミントンのラケットを振っていた。しかし、客観的に見ても、彼女はあまり運動神経の良い方ではない。
神崎さんは頭上高くに上がった羽に狙いを定め、勢いよくラケットを振り抜いた。しかし、見事に空振りし、バドミントンの羽はこつんと神崎さんの頭でバウンドし、そのまま頭の上にのっかった。
「あれれ?」
神崎さんは不思議そうにラケットを見つめた。きっとラケットに穴があいてないか確認しているのだろう。
「あれれ?」 だってさ。もう可愛いったらありゃしないね。俺がバドミントンの羽でも、ついラケットを避けて、神崎さんの小さな頭の上に着陸したくなってしまうもの。
「おい、何立ち止まっている。早くステージの上に持って行くぞ。」
「えっ……あぁ。」
ついつい阿呆なことを考えてしまうほどに、神崎さんのバドミントンする姿は可愛かった。神崎さんのことを考えると、俺の知能はおそらくサボテンと同じくらいまで低くなるらしい。
これだけでもう今日の球技大会に参加した価値はありそうだ。
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
男子中学生から女子校生になった僕
葵
大衆娯楽
僕はある日突然、母と姉に強制的に女の子として育てられる事になった。
普通に男の子として過ごしていた主人公がJKで過ごした高校3年間のお話し。
強制女装、女性と性行為、男性と性行為、羞恥、屈辱などが好きな方は是非読んでみてください!
漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?
みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。
なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。
身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。
一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。
……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ?
※他サイトでも掲載しています。
※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。
【R18】エリートビジネスマンの裏の顔
白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます───。
私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。
同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが……
この生活に果たして救いはあるのか。
※完結済み、手直ししながら随時upしていきます
※サムネにAI生成画像を使用しています
お兄ちゃんはお医者さん!?
すず。
恋愛
持病持ちの高校1年生の女の子。
如月 陽菜(きさらぎ ひな)
病院が苦手。
如月 陽菜の主治医。25歳。
高橋 翔平(たかはし しょうへい)
内科医の医師。
※このお話に出てくるものは
現実とは何の関係もございません。
※治療法、病名など
ほぼ知識なしで書かせて頂きました。
お楽しみください♪♪
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
女の子にされちゃう!?「……男の子やめる?」彼女は優しく撫でた。
広田こお
恋愛
少子解消のため日本は一夫多妻制に。が、若い女性が足りない……。独身男は女性化だ!
待て?僕、結婚相手いないけど、女の子にさせられてしまうの?
「安心して、いい夫なら離婚しないで、あ・げ・る。女の子になるのはイヤでしょ?」
国の決めた結婚相手となんとか結婚して女性化はなんとか免れた。どうなる僕の結婚生活。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる