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一学期 二章 球技大会の準備

013 青葉雪は、女子の前で着替えるのが少し恥ずかしい

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 我が学び舎である高校の校庭は、校舎と向かい合うような形で、横長の長方形の形で広がっている。校舎から見て左側にテニスコートがあり、柵を挟んでサッカー部の練習スペース、その奥がラグビー部、中央から右側が野球部の練習スペースだ。

 業者の車が通れるコンクリで舗装された通路を挟んで、さらに右側にはコンクリの大きな建物がある。その一階が食堂、二階が体育館となっており、体育館では、バスケ部とバレー部が練習しているらしい。

 校舎と校庭の間には五メートルほどの高低さがあり、その間を繋ぐ幅の広めな石段が設置されている。その石段の上で、よく吹奏楽部が個人練習をしている。

 神崎さんの個人練習スペースはその石段よりももう少し奥、体育館側に近い、桜の木の下が定位置である。

 高校一年生の春、サッカー部の初めての朝練に参加した時、俺は桜が舞い散るその木の下で、フルートを練習する神崎さんの姿を見た。

「……きれい。」

 美しく舞い散る桜、美しい黒髪の美少女、美しいフルートの音色……俺の生涯見てきた映像の中で、間違いなく一番美しいものだと思った。どんな異国の美しい景色よりも、どんな煌びやかなイルミネーションよりも、神崎さんが桜の下でフルートを演奏する姿より美しいものはきっと存在しない。

 あれから一年以上経った今でも、その桜の木を見ると、ふと昔の光景が鮮やかな臨場感とともにフラッシュバックしてしまうのだった。

 桜の木の下を通り過ぎ、俺はサッカー部の練習スペースに向かった。

 いつも石段の上では、サッカー部連中が練習着に着替えながら、先週のジャンプの話など、どうでもいいことを語り合っている。

 女子が見ていようとお構いなく、制服のズボンを脱ぎ、パンツ一丁になりながら着替える。俺も最初こそは少し抵抗があったが、もう今は何も気にしていない……というと嘘になる。

 周囲に神崎さんがいないことを確かめ、すぐにパパっと着替えるのがルーティーンというか、習慣である。今日も無事に神崎さんに見られることなく、俺はささっと着替えを済ませた。

「雪ちゃん先輩、なんでいつもそんなきょろきょろしながら着替えてるんですか?」

……だって、男の子だもん。下着を見られるのちょっと恥ずかしい……。というか、雪ちゃん先輩と呼ぶこの声は……。

「うわっ!ちろる……いたのか。」

「うわっ!って何ですか?傷つくなぁ~。すみません。着替えの最中に……。」

「いや、まぁいいけど。さっきの質問だが、だってパンツ見られるの恥ずかしいじゃん。ちろるは恥ずかしくないのかよ?」

「男の子のパンツと、乙女のパンツを一緒にしないでください!」

 そういうのは男女差別というのではないだろうか。俺は断固として差別が嫌いだ。ほら、あれも嫌いだ。なんだよ女性専用車両って……。こっちが油ギッシュなおっさんとぎゅうぎゅう詰めで立ってるのに、女性だけゆったりスペースで椅子に座っちゃって。平等を訴えるのであれば、男性専用車両も作るのが筋というものである。男臭い専用車両に、ニーズがあるかどうかは不明だけど。

「パンツ見られるのが恥ずかしいとか、乙女ですか?」
「おっと、セクシャルマイノリティに敏感な昨今では、今の発言は危ないぞ。男の子だってパンツを見られるのが恥ずかしい人もいるんだよ。」

「そういう割には、他の女子がいる中でも着替えてるじゃないですか。」
「そりゃ、特に関わりも何もない、有象無象の女子に見られても何とも思わないからな。」

「……っじゃあ、私も……有象無象の女子の一人ってことですか……。」

 ちろるは悲しそうに、わざとらしく肩をがっくりと落とした。

「いや……ちろるはマネージャーじゃん。そういうのとは違うっていうか……、見られるのも仕方ないというか……。っていうか!さっきは気づかなかっただけで、お前の前でもなるべく着替えないようにしてるだろうが!」
「っふふ、冗談ですよ! 練習始まっちゃいますよ? 早く着替えてください。」

ちろるは勢いよく顔をあげて、にこやかに笑った。

くそ、ちょろるんのくせに生意気な。
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