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32 世の中お金のパワープレイ

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「あ、ああ、何かあったからこうやって問い詰めてるんだよ」

「何があったんですか?」

「何が、って、あんたには関係ないだろう?」

 俺が間に入ったことで男は一瞬怯んだのか、勢いが少し弱まった。
 しかし、素直に事情を話すつもりはないようだ。
 食い下がってみるが、はぐらかそうとされる。

 確かに関係はないが、見過ごすわけにもいかない。
 だって、女の子は見た感じ十四歳くらいに見える。
 こんな子供に詰め寄ってるのを放置するなんて、か弱いおっさんの俺には出来てもケモミミ美少女の俺には出来ない。出来る訳がない。

「わた、私、アズ、何もしてなくて」

「余計なこと言うんじゃねぇよ!」

「ひぅっ」

「落ち着いてください。女の子相手に詰め寄ってる人をみて見て見ぬ振りなんて出来ませんよ。とりあえず、事情を聞かせてください」

「ちっ」

 周囲の視線が俺達に集まっているのが分かる。
 流石に目立ち過ぎたと感じたのか、イライラした様子で舌打ちをした後、事情を話してくれた。

 男の名前は≪ギャランディ≫。
 前衛職らしく、金属鎧と大きな剣を装備している。

 機嫌が悪いのか、話し方に棘を感じる。
 それでも事情は分かった。

 ギャランディが言うには、彼女が精算を誤魔化して、お金の一部をちょろまかそうとしたらしい。

「っていうわけだよ」

「なるほど」

「納得出来ただろ? 後は俺達の問題だからすっこんでてくれよ」

「それでは次は彼女に話を聞きますね」

「おい、もういいだろあんた――」

 片方の話だけを聞いても仕方ないので、女の子にも事情を聴きたい。
 女の子に視線を向けると、ギャランディが視界の端から手を伸ばしてきた。

 慌てて避けようとするが、俺の≪敏捷≫は1。
 身体が全く追いつかない。

 そんな俺達の間に、人影が割って入った。
 相変わらずの初期装備に、口元を覆う布。
 そして逆毛。

「我らが姫に何用でござるかな? 用件があるならば拙者がうかがうでござるよ?」

 サンゾウだ。
 いつの間にか近くまで来ていたサンゾウが、ギャランディの動きを見て飛び込んで来たらしい。

「あ、いや、なんでもない……」

「姫、ここは拙者が引き受けたでござる」

「はい、ありがとうございます」

「おい、あいつって」

「ああ、昨日のイベントで最速で九連勝したっていう」

「初期装備であの強さって、一体どんなステータスしてやがるんだよ」

 サンゾウにお礼を言って、改めて女の子の方へ向かう。
 何か周囲が騒がしいけど、気にするなら女の子のことも助けてあげて欲しいものだ。
 まったく。

「お話を聞かせてもらっても良いですか?」

「あ、うん、えっとね」

 まだ若干怯えているようで、ぽつりぽつりと話してくれた。
 ギャランディめ、こんな可愛いロリを苛めやがって。ロリは世界の宝なんだぞ。
 事情によっては許さないからな。

 女の子の名前は≪アズール≫。
 茶色く細いツインテールが揺れる、女の子だ。
 顔の感じはまだあどけなさがたっぷりで、中学生くらいに感じる。
 身長は百四十センチもなさそう。俺よりも小さい。
 普通の布の服に、大きなポケットのついたエプロンを装備している。

 その後ろには大きな荷車を引いているのが、なんともシュールだ。

 この子のクラスは≪鍛冶師≫。
 商人系の基本的なクラスの一つで、荷物を沢山運んだり、装備や一部のアイテムを作成したりすることが出来るらしい。

 彼女は俗に言う生産特化のステータス……要は≪器用≫極振りで、戦闘には向いていない。
 知識もほとんど無いまま、物づくりに必要だと書いてあったからそういう振り方にしたそうだ。

 始めたばかりで知り合いもいないらしく、レベル上げの為に臨時広場へやってきた。
 そこでギャランディに荷物持ちでもどうかと声をかけられて、パーティーに参加。

 拾ったアイテムは全部カートに積んであったから精算をアズールが担当し、分配した。
 慣れない精算を終わらせてホッと一息ついたところで、パーティーを組んでいた一人が騒ぎ出したらしい。

 曰く、少ない気がする、と。
 これに他のメンバーばかりかギャランディまで同調し出して、全員から責められてたんだそうだ。

「アズ、本当に何もしてなくて、ご、誤魔化したりなんてしてないの」

「なるほど、話は分かりました。少し待っててください」

「ううぅ……」

 アズールは泣きそうだ。
 うーん、難しいところだ。
 だって、どっちも証明することが出来ない。

「ギャランディさん」

「お、おう、なんだよ」

「具体的にはどのくらい足りないですか?」

「ん、あーっと」

「……少ないって言うのは何を基準に少ないって言ったんですか?」

「そ、それはだな、あれだ。倒したモンスターに対しての量だよ。あれだけ倒したならもっと出ててもおかしくないはずだ。それに、レアアイテムがないのもおかしい」

「そのレアアイテムは誰か落ちてるの見たんですか?」

「あ、いや、俺は見てないが……」

「アズは提示したもの以外拾ってないよ」

「てめぇ」

「ひっ」

「やめてください」

「不必要に睨むものではないでござるよ」

「お、おう、悪い悪い」

 この通り、ギャランディの言い分である精算したアイテムやお金が少ないというのは、あくまでも感覚的なものでしかない。
 アイテムが何個足りない、とかっていう明確な話じゃないからな。
 
 かといって、やってないと言い切るのも難しい。
 このゲームでは相手のストレージの中身や、所持金を見ることは出来ない。
 持っていないと言ってしまえば、それを確かめる手段はない。

 ここは強引に解決するしかないか。

「アズールさん、精算の金額は総額いくらだったんですか?」

「えっと、お金は全部で三千Jくらい。プレイヤーに売った方が高い素材はそのまま人数で割って配るの」

 物によってはNPC売りで一Jでも、プレイヤーには数十、数百で売れるものがある。
 逆にNPCの方が高いものもある。
 だからそういう方式になっているようだ。

「分かりました。では五万Jをさしあげるので、パーティーメンバーで分配してください」

「えっ」

「おいあんた、何を勝手なこと言ってるんだ。お金の問題じゃないだろう!」

 俺の発言に、アズールは固まり、ギャランディは逆に声をあげて突っかかって来た。
 サンゾウは何故かしたり顔で、満足げに頷いている。

 ギャランディの言い分も分からないでもないが、ここは押し切る。

「これで納得出来ないなら、お金も払わないしアズールさんの言う通りに精算してこのまま連れて行きますよ」

「は、はぁ!? それじゃあそいつに持ち逃げされるじゃないか!」

「証拠はあるんですか?」

「俺達が少ないって言ってるだろ!」

「証拠はあるんですか?」

「だから」

「第三者でも分かる証拠はあるんですか?」

「……いや、無いが」

「なら話しても時間の無駄じゃないですか? それでも納得がいかなければ運営に報告したらいいじゃないですか。もし彼女が本当に誤魔化していたら、何かしら処罰してくれますよ」

「……けっ、五万だぞ、あんたが自分で言ったんだからな」

「約束は守ります」

 俺はアズールにお金を渡した。
 すごい勢いで恐縮して受け取るのを嫌がっていたが、強引に説得して渡した。

 それをギャランディ達パーティメンバーに分配してもらって、臨時広場を後にした。
 勿論、アズールも一緒だ。

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